WRCセントラルヨーロピアンのフィニッシュ後に行われたイベントカンファレンスの内容(抜粋)。ドライバーズタイトルの挑戦権は失ったものの、非常にトリッキーなコンディションとなった初開催のターマックラリーで安定したパフォーマンスを披露したヒョンデのティエリー・ヌービル。自分たちの目標に専念し、達成した成果に満足を見せた。
●WRCイベント後記者会見 出席者
1位ドライバー:ティエリー・ヌービル=TN(ヒョンデ・シェル・モビスWRT)
1位コ・ドライバー:マルティン・ウィダグ=MW(ヒョンデ・シェル・モビスWRT)
2位ドライバー:カッレ・ロバンペラ=KR(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
3位ドライバー:オィット・タナック=OT(Mスポーツ・フォードWRT)
シリル・アビテブール=CA(ヒョンデ・シェル・モビスWRT、チーム代表)
2023年WRCチャンピオン
カッレ・ロバンペラ=KR(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
ヨンネ・ハルットゥネン=JH(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
ヤリ‐マティ・ラトバラ=J-ML(トヨタ・ガズーレーシングWRT、チーム代表)
Q:ティエリー、初開催のセントラルヨーロピアンラリーを制した今の気分は
TN:まず、2年連続でタイトルを獲得したカッレを心から祝福したい。素晴らしいパフォーマンスだったし、最高の戦いができた。残念ながら自分たちは届かなかったが、素晴らしい成果を祝福するよ。
自分たちとしては、目標は果たせた。ターゲットはここで勝つことだった。言うまでもなく、木曜日と金曜日の天気のおかげで、かなり複雑になった。道がダーティになることは分かっていたけれど、予想以上に道が汚れていたので、これでは勝てるチャンスはもうないだろうと思った。でも、それは間違いだったことを示すことができた。土曜日はプレッシャーをかけ続け、タイトルを争うふたりがどちらもミスをしたので、自分たちがリードするチャンスが巡ってきた。それを最後まで守り切った。
Q:金曜日と最終日とでは、まったくコンディションが違っていた。違うラリーのような感じだったのでは
TN:そうだね。ステージを走り終えた後、たくさんのドライバーがそう言っていた。コンディションが安定してきてからは、楽しめるようにもなった。金曜日はあまり楽しくなかったけど、自分たちはドライバーだからコンディションに関係なく走るだけ。でも、金曜日はちょっと危なかった。すごく高速のセクションで、自分たちに向いているセクションもあったから、来年の参考にしたい。特に天気があんな場合にはね。でも、それ以外は楽しめるイベントだった。いいラリーだったよ。景観も良かったし、特に土曜日と日曜日のステージは基本的にとてもいいキャラクターだったし、天気がもう少し良ければもっと楽しめた。4日間、たくさんの観客が集まってくれたし、あんなに大勢の人がすべてのドライバーたちを応援してくれてラリーを楽しんでくれる様子がまた見られるようになったのは、素晴らしかった。
Q:マルティン、コ・ドライバーとしての今回はどうだったか。トルステイン・エリクセンは、リエゾンもややこしいと話していた
MW:正直、すごく疲れたよ。ほかの人には見えないけど、ステージ間にやることがたくさんあった。ノートに書き込まなきゃいけない情報をたくさん与えられていた。危険な要素をノートに追記しなくてはならなかったから、休むヒマもなかった。やっとこの後、休息できるよ。
Q:ポディウムの頂点に立ち、ハードワークが報われた
MW:そのとおり。ティエリーも話したように、金曜日からかなり厳しい状況だったし、普段であればマシンの中で怖さを感じることは滅多にないのだけど、金曜日はそんな場面があったので、ティエリーに、限界ギリギリだねって言ったよ。でも、土曜日と日曜日はすごく楽しかったし、いいペースが出せた。モチベーションも高まって、セントラルヨーロピアンラリーの初代ウイナーになれて満足している。
Q:カッレ、2位でフィニッシュしたが、もっと重要な世界タイトルを決めた。このことは、また後で聞くが、今回のイベント自体はどうだったか
KR:ふたりがすでに話したように、全体としてかなり難しいイベントだった。タフだったし、レッキから一日が長かった。三カ国の間を行き来して、リエゾンの距離も長かったし、新しくペースノートを作るのはすごくエネルギーを使う。そしてラリーが始まると、これまで経験したことのなかったようなトリッキーなコンディションが2日間続いた。すごくタフな週末だったが、とにかく冷静を保ってプランどおりに進めた。
Q:金曜日の午前は道にはまだ泥がなく自分の中でもベストのコンディションだったが、2ループ目でマディになってもすぐに対応した。午前と午後では、どれくらいコンディションが変わったか
KR:午前中は走行順を活かさなくてはならないことは明らかだったが、それがうまくできた。午後はすでに泥だらけだったので、1本目は少し様子を見て、そこからまたペースをつかんだ。金曜日は最善の形で対応できたと思う。
Q:チームメイトのエルフィン・エバンスがコースオフして、すぐにペースを抑え始めたが、あなたがプッシュするのが好きであることをみんな知っている。それをコントロールするのは、どれだけ大変だったか
KR:午前の最後のステージのスタートラインについたところでエルフィンがコースオフしたことを聞いたので、あまり考える時間はなかったが、ステージのコンディションがどんな様子かは分かっていた。もちろんミスをしたくなかったし、その前のステージでミスもしていたし。今回は、勝つ必要はなくなったことはかなり明らかだった。自分たちが目指していたゴールはもっと大きかった。
Q:勝つことが好きなあなたが、自分自身に勝つ必要はないと言い聞かせるのも大変だっただろう
KR:あの段階ではリードしていたので、もちろん難しかった。このコンディションでリスクを一切負わずにペースを抑えたら、差は大きくなることは分かっていた。ティエリーは土曜日と日曜日も本当にいい走りをしていたから、普通にティエリーと戦うのはタフだったと思う。だから、選手権のために抑えた走りをしても満足だった。
Q:数週間後、ジャパンではまたバトルが始まるに違いない。オィット、3位フィニッシュだ。イベントが始まる前から、どのようなラリーになるのか誰も分からなかったが、予想よりも難しかったか、それとも予想どおりだったか
OT:このようなステージでの戦いは、間違いなく過酷だ。チェコは、オーストリアとドイツに比べると、かなり違う。天気が悪かったことでさらに過酷になった。正直、主催やプロモーターは、もっと改善できると思う。ファンや観客がたくさんいたことで、素晴らしいイベントになったので、さらにイベントを良くすることがまだある。
Q:例えばどのような点で
OT:チェコで行ったセレモニアルスタートは人に見せるためのショーのような感じだったし、最後のポディウムも、もっと盛大にするのは難しくないと思う。
Q:競技面では、チェコ、オーストリア、ドイツと三カ国を走ったが、どの国が一番気に入っているか
OT:チェコはバルムラリーに出たことがあるので、チェコの道が特に雨の時はどれだけトリッキーかは分かっていた。比較するのは難しいと思う。金曜日は、天候がものすごく荒れていたからね。土曜日はコンディションも回復してきたので楽しめるようになってきたし、予想もしやすくなった。
Q:最終戦はMスポーツ・フォードでの最後のラリーになる。去年のジャパンは難しいイベントで、最終日は天気が一変して何人かが犠牲になった。ジャパンでのプランは
OT:ドライなら、もちろん楽しむよ。昨年のジャパンも、最初の2日間はドライだったが、ラクではなかった。すごくトリッキーな道だった。基本的に低速でナローだから、シーズンの終わりはラクにはいかない。
Q:シリル、初開催のセントラルヨーロピアンで、ティエリーとマルティンが優勝。このリザルトには満足か
CA:満足しないわけがない。もちろん、それぞれの優勝には満足感が違うが、今回は特にみんながものすごく必死に取り組んだ結果だからね。ティエリーとマルティンは、非常にチャレンジングなコンディションの中で、まったくミスをしなかったことは特筆すべきことだが、支える側も素晴らしかった。このようなイベントでは、周囲の支えなしでは勝つことはできない。それこそ、ラリーの一部だと思う。
Q:これでトヨタの3タイトルが決まったが、来年はどのように巻き返すか
CA:たくさんのことが進行しているが、その前に、カッレとヨンネを心から祝福したい。今シーズンの彼らの走りは素晴らしかった。ダイナミックな時もあれば苦戦する場面もあったが、集中を続け自分たちを信じ続け、ほとんどミスをしなかった。それが最終的に実を結んだ。自分たちを含め、どんなスポーツ界でも同じ、やるべきことをシンプルにやり続けたということだと思う。それは、今後の自分たちにとっても刺激になる。自分たちも、すでに発表した決定事項があるし、ジェントルマンドライバーの話もある。新しいテクニカルディレクターも迎え、今年マシンがもっていた弱点の克服を責任持って担う。この弱点がなければ、カッレももっと苦労したと思うので、今後、もっと手こずらせることを楽しみにしている。
Q:シーズン前に、何かサプライズの発表はないか
CA:もちろん、なんらかの発表はある。サードカーのドライバーはこれから発表する。すでに話したとおり、違うクルーでシェアをしてもらうので、まだ発表はしない。
Q:4台目を走らせるのではという噂もあるが
CA:4台目があったらいいなとは思うが、成功は計画や整理整頓、そして優先順位づけによってもたらされるものだと思う。自分たちがまず最初にするべきなのは、来年の3クルーに、思うとおりのマシンを与えること。チームが一丸となってそれに専念していく。その意味では、4台目のプランは遅れるかもしれないが、4台目のマシンで若手ドライバーを育成するという活動は、とてもやってみたい。すべてはタイミングだ。
2023年コ・ドライバーチャンピオンのヨンネ・ハルットゥネン、トヨタのチーム代表、ヤリ‐マティ・ラトバラが合流
Q:カッレ、フィニッシュでは昨年のタイトルよりもいい気分だと話していた。なぜか
KR:今回のタイトルはより感謝が深いのだと思う。本当に大変だったし、苦労もたくさんあった。もちろん、昨年初めてタイトルを獲った時はもっと感情が深かったが、今回はもっとクレバーな形で獲れたのだと思う。シーズン全体のプランとして、自分たちはかなりクレバーだったし、かなり速かった。ステージウインもたくさん獲ったしね。どのコンディションでも速くいられたので、自分たちの成果を誇らしく思う。
Q:ヨンネも、今年はもっと大変で、より感謝が深いと感じているか
JH:もちろん。リザルトを見れば、今年の戦いはよりタフになっているが、自分たちのパフォーマンスはよりクレバーになった。昨年は、すべてのイベントを勝とうとはしていなかったが、基本的には必死に挑んだ。すごくプッシュしていたし、必要以上にリスクを負っていたかもしれない。おかげで、結果につながった。でも、今年は違うアプローチで、勝てなかったとしてもできる限りのことをする、勝てる時にはプッシュして狙うという流れだった。唯一のミスはフィンランドで起きたが、それもミスとしては大きいものではなく、少し運が悪かった。今年はまた違ったシーズンだったが、いい年だった。
Q:昨年よりも優勝回数は少なかったが、今年はより安定していたのでは
KR:たぶんね。あまりリストを比べていないけど、確かに流れは安定していた。ヨンネも言ったように、勝つチャンスがあればできる限りのポイントを獲るというのがプランだった。前のようにパワーステージまでプッシュしてたくさんポイントを獲るということはあまりなかったかもしれないが、結果的にポイントが獲れていた。
Q:シーズンでもっとも満足できたイベントは
KR:自分はエストニア。何度も話しているけど、カレンダーの中でもお気に入りのイベントだし、とにかくあのラリーやあそこのステージが楽しい。フィンランドにも近いので、フィンランドのファンもたくさん来てくれる。今では、エストニアのファンも自分たちをたくさん応援してくれて、素晴らしい雰囲気だ。日曜日はパワーステージまですべてのステージを勝った。とにかく楽しんで、自然のその走りができた。こういったラリーが一番楽しめる。
JH:自分もエストニアに関しては、カッレと同じことが言える。でも、自分はポルトガルかもしれない。ニュージーランド以来の優勝だったので、やっと勝てて安心したことを覚えている。シーズンの初めはみんな横一線であまり差がなかったけど、そこからポイントを獲れるようになっていったので、自分たちにとってのターニングポイントだったと思う。
Q:チームメイトとタイトルを争ってきたが、彼がコースオフしたと聞いた時、どう思ったか
KR:もちろん、すごく残念だった。特にそれがチームメイトだったからね。僕らはとてもフェアに、いいフィーリングで選手権を戦っていた。エルフィンはフェアなドライバーだし、もちろん誰でも勝ちたいのは同じ。でも、チームメイトがクラッシュなどに見舞われた時には、どんな気持ちでいるだろうと考える。だから、もちろんいい気分ではなかったけれど、自分は自分にできることをしなければならないし、その結果、その先の戦いがかなりラクになった。エルフィンは、昨年から急成長したと思う。たくさんのラリーでハードにプッシュしていたし、彼が速かったので、自分たちは彼よりも安定した走りをしなくてはならなかった。
Q:スタートラインでエルフィンのコースオフを聞いたと言っていたが、まず何を考えたか
JH:スタートの1分前に無線で知らされたので、あまり考える時間はなかったけど、冷静に走ってくだらないミスをしないようにしようとだけ話し合った。スコットとエルフィンは最高のチームメイトだし、イベント外では友人だから、あのようなことになるのはうれしくはないけれど、そのことがあって戦況がラクになったことは確か。コンディションがすごく厳しかったから、全開でプッシュしたら何が起こるか分からないからね。
Q:今年も大活躍だったが、自分にはまだ成長できる部分があると思うか
KR:もちろん。シーズンのすべてを勝てるようになるまで、学べることはある。そんなことは起こり得ないので、まだまだ学ぶことはたくさんあるということ。でも、自分たちはかなり飲み込みが早かったと思う。今日、ちょうとヨンネが話してくれて、自分は考えたことはなかったんだけど、自分たちはWRCのトップクラスで4年戦って、その間に2回タイトルを獲った。今のところは、かなりいい数字だと思うよ。
JH:カッレも話したとおり、成長して学ぶことはいつでもある。特に自分の仕事では、タイトルを20回獲っても、学ぶことはあると思うよ。そして、これからもタイトルを獲りたければ、そのことが鍵にもなると思う。いつでも貪欲で、より成長するために常にプッシュすること。
Q:ヤリ‐マティ、カッレとヨンネが、今年も強さを見せて2度目のタイトルを決めた。彼らのパフォーマンスをどう思うか。今年、印象に残った点は
J-ML:シーズンの序盤、モンテカルロでは見事な走りで2位に入った。ポイントは獲得するがポディウムに上がれなかったことが数戦あったが、その時点でメディアがカッレが勝てないことを心配していた。でも、彼らはとても安定していたし、選手権を制するためには、ラリーを勝つ必要がないこともあるという点を忘れてはならない。そういう意味では、カッレは、ユハ・カンクネンと同じアプローチを取っていたと言える。それがうまくいく自信が自分にもあった。クロアチアでは4位でフィニッシュしたが、勝ちたいという気持ちがあることを感じられた。そして、ポルトガルで勝ったので、心配ないと分かった。そこから、攻めが始まったので、今年は去年とは違うアプローチだった。1年目は、ベストタイムを出したい、ラリーに勝ちたい、パワーステージに勝ちたい、タイトルも獲りたい、すべてを求めた。そして、次のシーズンの目標は何かを考えるという時も迎える。でも、素晴らしいのは、この年齢で状況をコントロールできているということだ。もちろん、ヨンネのおかげでもある。自分が走っていた時はできなかったことだ。自分はすべてに勝つことばかり考えていたからね。
Q:今後について。シリル・アビテブールは、ライバルを倒すためにドライバーを迎えた。トヨタはレベルを上げることができるか
J-ML:ヒョンデが来年、タイトル獲得に向けて必死に努力してくることは明らかだ。彼らのミッションは両方のタイトルを獲ること。自分たちも準備はできている。よりタフなシーズンになることは承知している。自分たちのマシンは信頼性がとても高いが、もちろん十分ではない。もっとパフォーマンスを上げるための作業をしなくてはならない。しかし、ドライバーのラインナップについても、今年は非常に安定感があった。それが我々の強さにもなっていた。ヒョンデがやることに、あまり気を取られるべきではないと思っている。自分たちの強さを知り、改善できるところを改善することに専念しなくてはならない。もっといい戦いができるラリーがまだある。チリのタイヤの減り方は、適切なレベルではなかった。そういったところは、来年、改善しなくてはならない。
Q:今年、あと勝てるチャンスは最後のラリージャパン。素晴らしい国でみんなが楽しみにしている。今年、最後の勝利を狙うのか
KR:昨年のジャパンでは、ベストのパフォーマンスが出せなかった。あのような道やラリーでは、今年は自分はベストの走りができていない。自分にとって、簡単にはいかないラリーだ。だから、その点で成長したい。チームのホームラリーだし、選手権ではもうプレッシャーがないので、より楽しめる。でも今年は、自分とヨンネはよりいいリザルトのためにプッシュするよ。
Q:ヨンネ、今年、よりいい走りをするために何ができるか
JH:基本的に、カッレは低速のミッキーマウスタイプのステージはあまり好きではないが、ジャパンにはそういうステージが多い。でも、少し違うやり方で攻めるのはチャレンジになるが、自分たちはチャレンジすることが好きなので、克服するために挑みたいね。