2024年シーズン全日本ラリー選手権第5戦「加勢裕二杯 MONTRE 2024」が、6月7日(金)~9日(日)にかけて、群馬県安中市を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスは、シュコダ・ファビアR5をドライブする新井大輝/松尾俊亮が優勝。2位にはトヨタGRヤリス・ラリー2の勝田範彦/木村裕介、3位にも同じマシンをドライブする田口勝彦/北川紗衣が入った。
2022年以来、2年ぶりの全日本ラリー選手権復活を果たしたモントレーは、FIAアジア・パシフィックラリー選手権(APRC)を併催。21年は高崎市、22年は富岡市を拠点としてきたが、今回は群馬県安中市の「安中しんくみスポーツセンター」にサービスパークが設けられることになった。また、この地で創業したキャロッセを率いた故加勢裕二氏を偲び、イベントタイトルに「加勢裕二杯」が加えられている。
■レグ1
今回、群馬県西部の西毛エリアのターマックステージを舞台とし、SS総走行距離は2日間合計で106.72kmとなり、ポイント係数は1.2となった。初日は「Shionosawa Touge(8.80km)」、「Youkura Touge(14.90km)」、「Old Usui Touge(9.10km)」の3SSを、午前と午後で順番を変えてリピートする6SS、65.60kmが設定された。注目は漫画『頭文字D』でもおなじみ、国道でもある碓氷峠の旧道を使用したSS3/SS4「Old Usui Touge」。観戦エリアも設定され、多くのスペクテイターが集まることになった。
快晴のもと、安中しんくみスポーツセンターでセレモニアルスタートが行われ、各選手はステージへと向かっていく。ドライコンディションとなったSS1は勝田が、地元群馬県出身の新井大輝をわずか0.4秒上まわってみせた。ヘイキ・コバライネンの代役として、ラリーチーム・アイセロから参戦する田口が8.4秒差の3番手、今回から改良型のエンジンを投入した新井敏弘/井上草汰(スバルWRX S4)が、10.2秒差の4番手タイムで走行している。
奴田原文雄/東駿吾(トヨタGRヤリス・ラリー2)は慎重なペースで走行し、11.6秒差の5番手タイム。一方、福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビア・ラリー2 Evo)はステージ序盤でガードレールにヒット。左リヤサスペンションにダメージを負い、2分以上のタイムロスを喫しながらもこのステージを走り切ったが、ラリー続行を断念した。
今回最長の14.90kmを走行するSS2は、新井大輝が勝田に0.5秒差のベスト。勝田をわずか0.1秒しのぎ、新井大輝が首位にポジションを上げた。碓氷峠旧道を走行するSS3も新井大輝が勝田に1.3秒差をつける連続ベストタイムを刻み、そのリードを4.4秒に広げて午前中のセクションを終える。13.8秒差の総合3番手に田口、25.1秒差の4番手に奴田原、31.8秒差の5番手に新井敏弘というオーダーだ。
サービスを挟んだ午後のセクションは、午前とは異なり「SS4 Old Usui Touge Ⅱ」、「SS5 Shionosawa Touge Ⅱ」、「SS6 Youkura Touge Ⅱ」の順番で走行。SS4は新井大輝が奴田原に6.3秒差、勝田に6.6秒差をつけるベストタイムをマーク。SS5も新井大輝が制し、勝田との差を一気に18.2秒にまで拡大した。
この日の最後を締めくくるSS6は、日暮れが近づく中での走行。ここも新井大輝が一番時計をマークし、終わってみれば5連続でベストタイムを並べ、初日を首位で折り返した。新井大輝にジリジリと引き離されてしまった勝田は19.2秒差の2番手。42.7秒差の3番手に田口。少し離れた1分16秒2差の4番手に奴田原、1分25秒0差の5番手に新井敏弘、1分52秒1差の6番手に鎌田卓麻/松本優一(スバルWRX STI)、3分00秒8差の7番手に眞貝知志/安藤裕一(トヨタGRヤリスDAT)が続く。
午前中はチームのミスによりウエットセットでドライコンディションを走る対応を余儀なくされた新井大輝だったが、勝田に十分なアドバンテージを確保して初日を終え「午前中ほど攻めずにコントロールしながら、スムーズに走ることができました。タイム差的に無理する必要はありませんが、選手権を考えるとレグポイントは狙って行きます。明日は別の日だと思って挑むつもりです」と、冷静に語る。
一方、選手権リーダーの勝田は「クルマはすごくいいんですが、だいぶ差を広げられてしまいましたね。フィーリングは悪くないですし、特にSS6はかなり攻めたんですが、追いつけませんでした。この勢いだと、明日も難しい気がします……」と、厳しい表情を見せた。3番手と表彰台圏内につけた田口は「テストでセットアップを変えたことで、マシンがすごく乗りやすくなりました」と、笑顔で振り返っている。
JN-2クラスは、小泉敏志/村山朋香(トヨタGRヤリス)がスタートから3連続ベストをマークし、第2戦から3連勝中の三枝聖弥/船木一祥(スバルWRX STI)に7.7秒差をつけてみせる。3番手にMORIZO Challenge Cup(MCC)ポイントリーダーの山田啓介/藤井俊樹(MCC:トヨタGRヤリス)、4番手にHYOMA/伊藤克己(トヨタGRヤリス)が続いた。午後のセクション、小泉はSS4でもベストを刻み、順調にラリーをリードする。しかし、三枝も巻き返し、最終的にはその差を3.6秒に縮めて初日を終えた。4.0秒差の3番手には、SS5を制した山田。SS6でこの日初ベストを刻んだ大竹直生/竹藪英樹(MCC:トヨタGRヤリス)が、HYOMAをかわして4番手に浮上している。首位小泉から大竹までの4人が5秒差と、最終日に何が起こるか分からない状態だ。
4本のベストを刻み初日をトップで終えた小泉は「午後の碓氷峠は、午前のフィーリングを改善して気持ちよく走れました。ただ、SS5ではバタバタしてしまって、スタートで3秒くらい遅れてしまったのが残念です。フィーリングは悪くなかったんですが、SS6はライトポッドがなくてフォグだけ走ったことも響きましたね」と振り返った。ベストこそなかったものの、僅差の2番手でまとめた三枝は「今日は僕自身が噛み合わない部分があったことに加えて、小泉さんの調子が良かったですね。それでも午後は3.6秒差まで縮めたので、まだ挽回できると思っています」と、最終日の逆転を誓う。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラスは、前半のセクションを終えて、SS2で総合でも7番手に食い込むタイムでベストを獲った長﨑雅志/大矢啓太(トヨタGR86)がSS3でもベストを刻み、山本悠太/立久井和子(トヨタGR86)に6.4秒差をつけてラリーをリード。午後に入ると、日が落ちてきたSS5とSS6で連続ベストをマークした山本が長﨑をパスし、2.9秒差をつけて初日を終えた。3番手にSS1でトップタイムを刻んだ上原淳/漆戸あゆみ(スバルBRZ)、4番手に山口清司/澤田耕一(トヨタGR86)が続く。
タイトルを争う長﨑と僅差のバトルを展開した山本は「3秒差なので、ないのと同じようなものです(笑)。最初のループはアンダーがきつくて、サービスで少し変更したことが午後は功を奏した感じです。暗くなった後半の2SSで11秒くらい返すことができました。マシンのフィーリングも良くなってきましたし、明日は逆転されないようにしたいです」と、コメント。対する長﨑は「午後はかなり疲れましたね。最後のSSは暗い中の走行で、ちょっと集中力が続かなかったです。ドライビング操作がラフになったり、ミスもあって乗り切れなかったです。それでも無事に帰ってこれたのは良かったです」と、久しぶりのナイト走行、視界が悪い中での走行を振り返った。
スズキ・スイフトスポーツによって争われるJN-4クラスは、地元群馬県出身の西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ)が、SS2で一番時計をマークしてトップに立つ。さらに西川はSS6まで5連続ベストタイムを並べ、2番手の高橋悟志/箕作裕子(スズキ・スイフトスポーツ)に1分5.9秒差をつけてみせた。3番手には筒井克彦/石田裕一(スズキ・スイフトスポーツ)がつける。一方、SS4では2番手を走行していた内藤学武/大高徹也(スズキ・スイフトスポーツ)が壁にヒット。右フロントに大きなダメージを負い、ラリーリタイアを余儀なくされた。
慣れ親しんだ群馬で快走を披露した西川は「今回は地の利を活かした感じですね。碓氷峠は初めて走りましたが、知っている山道とよく似ているので、いい走りができたのだと思います」と、笑顔で語る。前戦でマシンにダメージを負い、しっかり修復しての初実戦となった高橋は「SS5からは薄暗くて大変でした。暗いことはもちろん、路面が冷えてくるとタイヤが合わない箇所も出てきました。前後とタイム差があったので、無理はしませんでした。ベテランとしては忍耐力が重要です(笑)」と、暗い中での走行となった後半の2ステージを振り返っている。
JN-5クラスも、群馬県出身勢が躍進。嶋村徳之/小藤桂一(トヨタ・ヤリス)は、SS1でトップに立つと、SS3では総合13番手にも食い込む速さを披露するなどこの日3本のベストタイムをマークしてラリーをリード。タイトルを争う松倉拓郎/山田真記子(トヨタ・ヤリス)や大倉聡/豊田耕司(トヨタGRヤリスRS)を従えて、初日を首位で終えた。大倉はスタートから2番手をキープしていたが、視界が悪くなったSS6でドライビングミスを喫し松倉に2番手の座を奪われている。しかし両者の差は0.9秒と、最終日も熾烈なバトルが繰り広げられることになりそうだ。
2番手以下に20秒以上の差をつけてラリーをリードする嶋村は「午後の碓氷峠はいい感じにベストを獲得できましたが、その後の2本は暗くなった上に路面も荒れてきてタイムダウンしました。それでもトップはキープできましたね。明日も距離が残っていますし、全日本勢はみなさん速いので、明日もしっかり走りたいです」と、慎重に語る。最後に大倉を逆転した松倉は「碓氷峠はセットを外してしまったんですが、その後セッティングを変更したら、SS5とSS6は大倉選手を上まわることができました。嶋村選手を追うのは厳しいので、明日は大倉選手との勝負をターゲットにします」と、大倉を意識したコメントを残した。
JN-6クラスは、前戦丹後で連勝記録がストップした天野智之/井上裕紀子(トヨタ・アクア)が、スタートから3連続ベストを並べてラリーをリード。後半のセクションはベストこそなかったものの、しっかりと首位を守ってこの日を終えてみせた。前戦丹後で41年ぶりの全日本優勝を飾った清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス)は、SS4でベストをマークしてこの日2番手。SS2でATのオーバーヒートにより10分以上の遅れを喫してしまった海老原孝敬/蔭山恵(ホンダ・フィット)は、SS5とSS6で連続ベストをマークしたものの最下位に沈み、トラブルを悔やんだ。
首位で折り返した天野は「特に後半は、全然まともに走れませんでした。碓氷峠を走るSS4は、リタイア車を避ける時に減速してガッツリやられた感じです。クルマを壊したくないし、安全にいくしかないですからね。あと、JN-6クラスは規定上、補助灯を装着することができません。何も見えないですし本当に危険なので、対応をお願いしたいです」と、規定の改善を訴えた。2番手の清水も「SS4でベストタイムが獲得できたので、よしとしますが、SS5から暗くなってしまって、何も見えませんでした。JN-6クラスは補助ランプをつけられないので、もう罰ゲームです」と、暗さによる危険を指摘している。