三菱自動車工業株式会社は7月2日〜4日に、チーム三菱ラリーアートのアジアクロスカントリーラリー(AXCR)2024の参戦体制発表および取材会を、千葉県千葉市のオートランド千葉にて開催した。
今年2月より、12年ぶりに日本に導入して販売している新型1トンピックアップトラック「トライトン」で三菱自動車は23年よりAXCRに参戦。今回の参戦体制発表および取材会では、メディア向けにラリードライバー体験と同乗走行も行われた。
参戦体制発表では、24年の参戦ドライバーとマシンスペックが公表され、4台体制での参戦となった。昨年同様にチームはタイのタントスポーツが運営し、三菱からはダカールラリーで2連覇した実績をもつ増岡浩総監督が参画する。ドライバー/コ・ドライバーは、2022年大会で総合優勝を果たしたチャヤポン・ヨーター(タイ)/ピーラポン・ソムバットウォン(タイ)、23年に日本人ペア最上位の8位となった田口勝彦/保井隆宏を引き続き起用し、加えて経験豊富で三菱車を熟知するサクチャイ・ハーントラクーン(タイ)/ジュンポ ン・ドゥアンティップ(タイ)、さらに三菱自動車開発部門のテストドライバーである小出一登を起用。小出のコ・ドライバーには2015年のAXCRで篠塚建次郎とタッグを組み、4輪部門で2位獲得経験のある千葉栄二を起用。チーム三菱ラリーアートは、新型 『トライトン』のT1仕様(改造クロスカントリー車両)で王座を目指す。
増岡浩総監督は「今年からリヤサスペンションをコイルスプリングにしました。昨年のリヤが跳ねる問題も解消されているので、少々のギャップならアクセルをベタ踏みでいけるようになります。また、ワイドトレッドとしたこと、エンジンのパワーアップと合わせて、かなり高速のコーナリングがうまくいくようになっています」と語る。
「トランスミッションも昨年まではHパターンのノーマルでしたが、今年はシーケンシャルトランスミッションにしました。強度もあり軽量化にもなりますから。また、効率の良いターボを三菱重工エンジン&ターボチャージャさんと共同開発しました。プランテーションにあるような90度コーナーの立ち上がりと、直線でのスピードを稼ぐためです。WRCの経験を活かし、なるべく広い回転域でパワーバンドを保つことができるようにしています。燃料タンクも競技用の安全タンクとし、重量バランスを考えた搭載位置としました」とマシンの進化を語った。
「去年は田口選手も車高の高いクルマを振り回して走るのは初めてだったと思うし、走る距離も長くて、ギャップでどこまで突っ込んでいいかも分からなかった。でもそのあたりは経験で分かるようになりますから。今年はテストで比べても格段に速くなったし、去年8位だったので、スタート順も期待できます。小出選手は僕の後を継いでもらいたいとも思っていて、去年のうちから『24年は乗せるぞ』って言ってあります。AXCRでは僕と行動を一緒にして、ラリーの表も裏も見せています。小出選手のナビの千葉選手はなかなかユニークな経歴で、もともとドライバーでもあるし、AXCRで2位の経験もあるので、小出選手のいい先生役になってもらえると思っています。僕もデビューの時は経験のある方にナビをしてもらいました。ドライバーは気持ちの浮き沈みがありますから、メンタルのコントロールも重要です。ふたりには基本的に3台のサポートをしてもらいつつ、完走してもらうことがマストです。もちろん、状況によっては上を狙ってもらうこともあるかもしれません。昨年仕様のクルマなので安定して速いですから。チームを運営するタントスポーツのガレージも大きなところになって、環境が整ってスタッフやメカニックの経験値も上がってきていますから、安心しています」と今年の戦いについて意気込みを語った。
テスト車両のトライトンについて田口選手と保井選手にも感触を聞いた。
田口「全体的に去年のクルマより全然良くて、1kmあたり2秒くらい速い気がします。サスペンションとシーケンシャルミッションが効いている。スムーズに加速していくし、ギャップでペースダウンしなきゃいけなかった部分でもそのまま行けるから、通過速度は大幅に上がっている。それだけで分単位で稼げちゃう。あと戦ううえでは、2年目なので道が自分のデータに入ったというのが大きい。穴や石を予測して走るようになりました」
保井「田口選手のクルマにだけサイドブレーキがついています。トランスミッションがサデフになって、サイドターンをする際にリヤの駆動が切れるようになったので、つけた方がいいということになりました。クロスカントリーラリーでは普通はサイドブレーキを使わないみたいだけど、プランテーションなどのタイトコーナーでラクに向きを変えられるので。細かい仕様変更もありつつ、田口選手の好みに合わせていますから、より速く走れるようになっていると思います」
田口「これまでタイのほかに国内でもテストをしましたが、テストは力いっぱい行きました。本番までにしっかりトラブルを洗い出すような感じです。本番は壊すわけにいかないので、最初はちょっと抑えていて、最後に勝負になったら、ちょっとの間、クルマに我慢してもらうような感じですね」
保井「昨年の反省もあり、あとは僕が道を間違えないことですね(苦笑)。コマ図の誤差も、あっちの道に慣れてる現地の人なら普通に判断できる場所も、僕ら日本人の常識では分からなかったりするので判断が難しいんです」
全日本ダートトライアル選手権DクラスでHKSランサーのステアリングを握り、全日本ラリー選手権ではヘイキ・コバライネンの代役としてGRヤリス・ラリー2をターマック5戦で走らせた田口。そしてAXCRではトライトンと、クルマの特性も走るフィールドもまったく違う
田口「こんなに色々なクルマの乗り換えは大変です。俺はスゴいと思う(笑)。右ハンドルも左ハンドルも、舗装もダートも、車高の高いのも低いのも。エンジンパワーも全然違うし、それを週替わりで乗ってるので、おかしくなりますね。運転という意味では基本的な部分は変わらないけど、それぞれのクルマの特性に合わせた運転をしています。ほかにできる人いないと思うよ」
保井「国内に5人はいないんじゃないですかね(笑)」
様々なカテゴリーにエントリーする田口ならではの走りと、トライトンのアップデートに期待を寄せたい。
AXCR2024は8月11日にタイ南部のスラタニをスタートし、17日のカンチャナブリでのゴールまで、タイ国内を走破して行なわれる。