2024年シーズン全日本ラリー選手権第7戦「RALLY HOKKAIDO」が、9月6日(金)〜8日(日)、北海道帯広市を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスはシュコダ・ファビアR5をドライブする新井大輝/松尾俊亮が優勝。2位にトヨタGRヤリス・ラリー2のハリー・ベイツ/コーラル・テイラー、3位にも同じマシンをドライブする奴田原文雄/東駿吾が入った。
第6戦カムイから約2カ月のインターバルを経て、シーズンは天王山とも言える一戦、十勝・帯広を拠点とする第7戦ラリー北海道を迎えた。SS総距離が100kmを超えるこのグラベルラリーは、ポイント係数が1.5。レグ別得点を合わせれば、最大33点を獲得できるビッグイベントとなる。
今回、全日本ラリー選手権を戦うTGR-WRJと、オーストラリアラリー選手権(ARC)に参戦するTGRオーストラリア(TGRA)を運営するニール・ベイツ・モータースポーツ(NBM)による相互交流の一環として、ベイツ/テイラー組が、ARCで使用するトヨタGRヤリス・ラリー2をラリー北海道に持ち込み、JN-1クラスにエントリーした。また、同じ試みで、先月のARC第4戦ギップスランドラリー(グラベル)に参戦した大竹直生は橋本美咲とコンビを組み、オーストラリアでドライブしたGRヤリスで初めてJN-1クラスに挑戦する。
■レグ1
ラリー初日は午前中に、WRCイベントでも使用された「パウセカムイ・リバース(9.81km)」と「リクベツ・ロング(4.63km)」を、「ヤム・ワッカ(23.49km)」を挟んで2回ずつ走行。陸別町の陸別オフロードサーキットに設けられた20分のリモートサービスを経て、午後は2回目の「ヤム・ワッカ」、3回目の「パウセカムイ・リバース」と「リクベツ・ロング」を走る8SS、90.30kmという構成。通常の全日本ラリー選手権イベントであれば2日間分に相当する距離を、1日で駆け抜けることになる。
木曜日夜半に降雨があったため、一部濡れているセクションが残っているものの、7日土曜日のコンディションはほぼドライ。オープニングのSS1パウセカムイ・リバース1は、日本のラリーを初めて走るベイツが新井大輝に0.3秒差、ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(トヨタGRヤリス・ラリー2)に4.0秒差をつけるトップタイムをたたき出した。
続くSS2リクベツ・ロング1は奴田原が、新井大輝に0.1秒差、ベイツに0.8秒差のベストを刻んだ。新井大輝は、これでベイツをかわしてトップに浮上。一方、コバライネンは、このステージでスピンを喫し、リバースギヤを使ったことで20秒近くをロスして7番手にドロップ。首位から3.7秒差の3番手に奴田原、7.6秒差の4番手に勝田範彦/木村裕介(トヨタGRヤリス・ラリー2)、12.2秒差の5番手に新井敏弘/井上草汰(スバルWRX S4)が、それぞれ順位を上げている。
多くのドライバーが勝負の鍵になると挙げていたのが、今イベント最長の23.49kmを走るSS3ヤム・ワッカ1。ここで新井大輝が、ベイツに2.4秒差をつけて今大会初のベストタイムを刻む。SS1をリピートするSS4では、エンジンのポップオフバルブにトラブルが発生したベイツがペースを上げられず、新井大輝が連続ベスト。SS5リクベツ・ロング2は、前戦カムイで上行大動脈瘤の開胸手術後の復帰戦を果たしたコバライネンが「以前の感覚が戻りつつある」と、今回初のベストタイムを記録している。
午前中のセクションを終えて、首位新井大輝と2番手ベイツの差は5.2秒。3番手の奴田原は24.1秒差、4番手の勝田は30.1秒差、5番手のコバライネンは37.1秒差と、すでに大きく離れており、優勝争いは新井大輝とベイツに絞られつつあった。
ヤム・ワッカ、パウセカムイ・リバース、リクベツ・ロングを1回ずつ走る午後のセクション。SS6ヤム・ワッカ2は、首位の新井大輝は2番手の勝田に18.8秒差、首位を争うベイツには29.1秒の大差をつける圧巻の一番時計をたたき出した。これで新井大輝はベイツとの差を34.3秒とし、一気に突き放した。ここでは勝田が、奴田原をかわして3番手に浮上。5番手を走行していたコバライネンは、ギヤボックストラブルにより11分以上をロスし、クラス最下位まで順位を下げている。
新井大輝はSS7パウセカムイ・リバース3でもベスト、この日の最後を締めくくるSS8リクベツ・ロング3ではコバライネンに続く2番手タイムでまとめ、ベイツとの差を安全圏ともいえる51.6秒にまで拡大した。なお、SS7では、3番手につけていた勝田がスタートから700m地点でコースオフを喫して、レグ離脱。新井大輝以外に唯一タイトルの可能性を残していた勝田だったが、ガックリと肩を落とし「ダストがひどいこともあったけど、ブレーキングが遅れました。ドライビングミスですね……それしか言えないです。視界の悪さはみんな一緒なので」と語るのが精いっぱいだった。これで奴田原が3番手に順位を戻し、1分17秒8差の3番手で初日を終えた。
1分49秒9差の4番手には、トラブルやアクシデントが続出したサバイバル戦で存在感を見せた新井敏弘。3分07秒9差の5番手はベテラン勢に割って入る好走を見せた大竹直生/橋本美咲(トヨタGRヤリス)、3分19秒9差の6番手に鎌田卓麻/松本優一(スバルWRX STI)がつけている。
盤石の展開を披露した新井大輝は「いつもどおり、僕らは最初のループがシェイクダウンのようなものなので、2周目でようやくラリーができたという感じです(笑)。2カ月空いてしまうと、やはりブレーキングやクルマの動かし方が雑になってしまいます。午前中はそれが顕著に表れてタイヤをイジめてしまったので、午後はそれを修正してクリーンにトレースすることを心がけました。そうしたら、タイムが上がりましたね」と、タフな初日を振り返った。
トラブルを抱えながらも2番手をキープしたベイツは「SS4の走行中に、ブーストを制御するポップオフバルブにトラブルが発生した。そこからはフルパワーで走ることができなくなって、タイムをロスすることになった。ヒロキにとっては、楽な展開になってしまったね。でも、トラブル以外はいい走りができたと思うし、初めての日本でのラリーを楽しんでいるよ」と笑顔を見せた。奴田原は「午後は轍も深くなったり、埃が滞留するようになったりと、なかなか大変でした。勝田選手がリタイアしてしまったので、明日はあまり無理をせず、このまま頑張ります」と、慎重にコメントした。
JN-2クラスは、ポイントリーダーで優勝候補の三枝聖弥/船木一祥(スバルWRX STI)が、SS2のスタートから1.5km地点の舗装区間でクラッシュ。マシンのダメージが大きく、リタイアを決めた。「コースオフしたまま抜け出すことができませんでした。グラベルでの完走率が低すぎて、本当に不甲斐ないです」と、三枝は肩を落とした。SS1でベストを刻んだ松岡孝典/北田 稔(トヨタGRカローラ)がこのクラスをリードするが、石川昌平/大倉瞳(トヨタGRヤリス)も僅差でピタリとつける。ところが、SS7で松岡がマシントラブルによりストップしてレグ離脱。これで首位に立った石川が、2番手の堀田信/河西晴雄(トヨタGRヤリス)に1分25秒0の大差をつけて初日を終えた。堀田から20.1秒差の3番手には、地元北海道の関根正人/松川萌子(トヨタGRヤリス)がつけている。
首位で初日を折り返した石川は「松岡選手がリタイアしてからはプッシュしすぎることもなく、抑えすぎることもなく走ることができました。あまり気を抜きすぎると逆に危ないので……。チームに良い結果を持ち帰りたいので、明日もしっかり走り切りたいと思います」と、慎重にコメント。厳しいコンディションにおいて2番手をキープした堀田は「大変な路面コンディションで、走り切るだけで大変でした。運よくノートラブルというか、少しぶつけたりもしましたが、ヤバいと思った瞬間がありながらも、無事に戻ってこられて良かったです」と、安堵の表情を見せている。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラスは、山本悠太/立久井和子(トヨタGR86)がSS1でトップに立つと、この日行われたすべてのステージでベストタイムをマークし、トップを快走する。グラベルイベントを得意とするベテランの加納武彦/横手聡志(スバルBRZ)が序盤2番手につけるが、SS6でストップ。首位の山本が抜け出した一方、2番手の長﨑雅志/大矢啓太(トヨタGR86)と3番手の上原淳/漆戸あゆみ(スバルBRZ)の差は0.2秒、4番手の曽根崇仁/竹原静香(トヨタGR86)も長﨑から3.4秒差と、僅差の展開が続いている。
1分36秒6差をつけての首位で初日を終えた山本は「タイム差があったので、順調に走ることができました。その中でもタイム差を広げられたので、いい流れになっていますね。ただ、安全に走っていても道からこぼれ落ちそうになったこともあったので、明日も気が抜けません」と、自身の走りに納得の表情を見せる。僅差で2番手を争う長﨑は「テストもあまりできずグラベルに慣れていない状態で、思い切って攻めることができていません。加納選手がリタイアして、曽根選手にもペナルティがあったからこそ、このポジションにいると考えています」と、厳しい状況を明かす。
JN-4クラスは、タイトル連覇のためにはこの北海道での優勝が絶対条件となる内藤学武/大高徹也(スズキ・スイフトスポーツ)がSS1でベストタイムをマークすると、SS7まで連続でベストを並べてトップを独走。2番手の小倉雅俊/平山真理(ホンダ・シビック・タイプR)に1分56秒2差をつけて初日を終えた。3番手にラリー北海道初参戦の高橋悟志/箕作裕子(スズキ・スイフトスポーツ)、4番手に西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ)と、タイトルを狙うふたりがつけている。
難しいコンディションのなか、昨年に引き続きラリー北海道で圧巻のパフォーマンスを披露した内藤は「気分良く走ることができました。最初はかなり頑張って攻めていましたが、2番手に大差をつけることができたので、あまり欲をかくことなく走りました。おそらく高速域で差をつけることができたんだと考えています」と、笑顔で振り返った。小倉は「飛び出してしまったりと、全然ダメでした。クルマが重いし、まだグラベルでのドライブに慣れていない状況です。とにかくトップに比べてコーナーが劇的に遅い」と、肩をすくめる。
JN-5クラスは、グラベルラリーに絶対的な自信を持つ松倉拓郎/山田真記子(マツダ・デミオ)が「ここで連覇を決めたい」とスタート。ギヤボックスに不調を抱えながらも、首位につけた。今季から自チームを立ち上げて臨んでいる吉原將大/前川富哉(トヨタ・ヤリス)は、SS5を終えて松倉に4.6秒差の2番手と食らいついていたが、SS6でジャンプの着地で姿勢を崩し高速で橋の欄干に激突。選手に大きなケガはなかったものの、サスペンションメンバーの一部を路上に残したまま、道の脇に落ちるという大クラッシュを喫した。これで、大倉聡/豊田耕司(トヨタGRヤリスRS)が2番手に順位を上げた。松倉は2速を失いながらの走りとなるなか、大きくタイムロスすることなく、2番手の大倉に1分33秒5差をつけてみせた。3番手に冨本諒/里中謙太(トヨタ・ヤリス)、4.4秒と僅差の4番手に三苫和義/遠藤彰(ホンダ・フィット)が続く。
SS6における吉原のクラッシュでは、マシンを止めて安全確認を行った松倉と鎌野賢志/蔭山恵(トヨタ・ヤリス)の2台にノーショナルタイムが与えられ、松倉はタイトル連覇に向けて十分なタイム差を確保。「今日はSS3のヤム・ワッカで2速が飛んでしまい、午前中は行けるところまでいきました。 午後のリクベツは厳しかったんですが、なんとかごまかしながら走りました」と、安堵を見せた。2番手の大倉は「道がヒドすぎましたね、特にヤム・ワッカはかなり荒れていました。攻めることはできますが、そうするとクルマが壊れてしまう。それでもクルマは大きなトラブルなく、きちんと走ってくれているので助かってます」と、振り返っている。
JN-6クラスは、前戦カムイで早々とタイトルを決めた天野智之/井上裕紀子(トヨタ・アクア)が全SSでベストタイムをマーク。SS5ではジャンプの着地でドライブシャフトにトラブルを抱え、直後のサービスで交換に時間がかかりサービスアウトのTCに2分遅着してペナルティ20秒が科されたものの、危なげなくラリーをリードした。天野から大きく離れた2番手は、SS6でパンクを喫した海老原孝敬/原田晃一(ホンダ・フィット)。中西昌人/山村浩三(ホンダCR-Z)と鷲尾俊一/菅野総一郎(ホンダCR-Z)が、僅差で3番手を争っている。一方、今季はポディウムの常連となっている清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリスHEV)は、SS3で突然エンジンが止まるトラブルが発生。一時は後続車にOKサインを掲示してレグ離脱も覚悟したが、その後、エンジンが始動したことで走行に復帰。しかし、ここで11分以上の大きなタイムロスを喫している。
今回も圧倒的な強さを見せつけた天野は「グラベルでの練習不足を感じました。午後はドライブシャフトを交換したこともあって、不安要素があったので控えめなペースで走りました。ジャンプも、あえて抑えて飛ばないようにしています」と、コメント。前戦カムイはSS1で戦列を去った海老原は「SS6でのパンクによって、ブレーキホースも切ってしまいました。そこからは、クルージングレベルにペースを落としました。2位に残れたので、明日もなんとか頑張りたいです」と、厳しい状況を明かしている。