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©RALLYPLUS
2025年の全日本ラリー選手権も、2月28日から始まるラリー三河湾でシーズンが開幕する。22〜23年にシュコダ・ファビアR5でJN-1クラスを連覇したラリーチーム・アイセロのドライバー、ヘイキ・コバライネンは、チームがトヨタGRヤリス・ラリー2を投入した24年、シーズンインを前に上行大動脈瘤の開胸手術を受けたことで序盤の5戦を欠場。25年は1戦目からGRヤリス・ラリー2でエントリーしており、タイトル奪還を狙う。
ラリーチーム・アイセロは、今季からSPKの活動サポートを受けることになり、競技用オーバーオールやGRヤリス・ラリー2のリヤスポイラーサイドにもSPKのロゴが入ることになる。その挨拶も兼ねて、大阪市福島区のSPK本社を訪問したコバライネンが、同社のショールーム「SPKラボ」でポーランド製の可動式ドライビングシミュレーター「Motion Systems」を体験した。
この日体験したシミュレーターは、3種類。6軸でサーキット走行時の荷重移動をリアルに再現しながらもモニター一体型で省スペースのQS-S25(選択マシンはGT86)、4軸のQS-CH1に2軸のQS-CH2を組み合わせてトラクションロスの感覚を再現するほか地面に固定して振動が感じられるシステムに4m×2mの大型画面を組み合わせたSIM(選択マシンはTS040)、4軸で反応が速いQS-V20にVR画面を組み合わせたSIM(選択マシンはGT86)の順に試乗した。コースはいずれもニュルブルクリンクだ。
自宅にもシミュレーターを設置しており「以前は毎週使っていたんだけど、子どもが生まれてからはやる時間は少なくなったかな。でも毎月乗るようにしていて、その時は最低2時間くらいドライブするよ。かなりいろいろなゲームをやってきていて、すごく楽しい。だから、今回もここのシミュレーターに乗れるのがうれしいよ」と語るコバライネン。さすがフォーミュラ1で優勝経験もあるだけあって、シミュレーター走行を開始していきなりスムーズなドライビングを見せる。その姿にラボのスタッフも「本当に上手ですね。シミュレーターだと雑なドライブをする方も多いのですが、コバライネン選手はクルマを壊さないような丁寧な走りをしているのが分かります。さすが、いろいろなレースを経験したドライバーですね」と感銘を受けていた。
3種類のシミュレーターを比べると「大画面のものが一番難しかったね。一番繊細だし、マシンもハイパフォーマンスだから、コントロールも大変。何周か走らないとフィーリングがつかめないね。でも、一番リアル。グラフィックが素晴らしいよ。この大画面のものと最初のシミュレーターは、実際のマシンのようなダウンフォースやグリップが感じられる。最初に乗ったのはマシンもロードカーに近いからね。それに、最初のは視界がすごくいい。とても正確だし、バンプを超えた時のような動きは本当にリアル。VR画面のものは、ちょっと見え方に気を取られてしまったかな。ちょっとまぶしくて、見えにくさを感じた。VRはあまり慣れていないから、実際の画面を見る方が好き。でも、リグは最初のと同じようにすごく正確だ」と感想を語ってくれた。
ドライビングスキルを高めるためにシミュレーターをどのように活用するべきかという問いには「シミュレーターで学べることはたくさんある。サーキットのコースを学んだり、適切なラインを学んだり。それに、オンラインでのレースもすごくいい練習になる。自分も両方やっているよ。まずひとりで練習して、実力がついてきたと思ったらレースに参加するんだ。プラクティス、予選、そしてレースと進む。オススメだよ。今の時代は、シミュレーターでたくさんのことが学べるようになったし、いいプリペアにもなる。やればやるほど上手になっていくので、若いドライバーにはとても役に立つし、自分も含めてどのドライバーにも、スキルを高め続けるためにはいい練習になる」と、答えている。
「ラリー走行の練習としては、サーキットほどアドバンテージは少ないかもしれない。ラリーのソフトも走ってみたけど、スライドさせる感じをつかむのが難しい。でも、今はステージのグラフィックが素晴らしくてとても正確だから、ステージを覚えるのにはすごく役立つよね」
さらにコバライネンは「ちょっと面白い話があるんだけど」と逸話を聞かせてくれた。
「可動リグと固定リグではどっちがいいかという点は大きな論争になっていて。固定の方が速いって言う人が多いんだけど、自分は動きがリアルで好きだから家では可動式を使っている。でも、真剣にeスポーツをやっているドライバーは、固定式の方が速いって言うんだ。固定じゃないとシミュレーターじゃないって。面白いよね。だから、リアルのドライバーは、可動式のリグを使った方がいいんじゃないかと思う。でも、マックス・フェルスタッペンはお金があるから固定式も持っているんだけど、彼は固定式でも速いんだよね(笑)」と笑って語ってくれた。
これまでフォーミュラ1、SUPER GT、ラリーと様々なカテゴリーのモータースポーツを戦ってきたコバライネンだが「一番好きなのはどのカテゴリー?」と聞かれると「F1はもちろんすごく軽いマシンでパワフル、すごく見応えがあるし、素晴らしいドライバーが揃っているから戦いのレベルも高い。そして面白いしね。SUPER GTのマシンのパフォーマンスもすごく楽しかったよ。でも今は、ラリーが一番楽しい。現状はサーキットレースに戻りたいという情熱はないんだ。自分はいつもラリーの情熱を持っていたし、ラリーをする時はいつも楽しい。今はラリーに参戦する機会を与えていただいているので、それが一番やりたいこと。もっともっと成長してスキルを高めたいね」
ますますラリーの沼にハマっていくコバライネン。今季は開幕戦から、その熱い走りを見せてくれることに期待しよう。