
©Jun Uruno
2025年シーズン全日本ラリー選手権開幕戦「RALLY 三河湾 2025 Supported by AICELLO」が、2月28日(金)~3月2日(日)にかけて、愛知県蒲郡市を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスは勝田範彦/保井隆宏が優勝。2位にヘイキ・コバライネン/北川紗衣、3位に奴田原文雄/東駿吾が入り、トヨタGRヤリス・ラリー2勢が、表彰台を独占することになった。
昨シーズンの最終戦高山から約5カ月のインターバルを経て、全日本ラリー選手権は、開催2年目のラリー三河湾で新たなシーズンの幕を上げた。トップカテゴリーのJN-1クラスは、鎌田卓麻/松本優一が、スバルWRX STIからシュコダ・ファビアR5に車両をスイッチ。鎌田待望のR5マシンは、日本のラリーファンにもおなじみのカストロールカラーをまとう。
昨シーズンの王者、新井大輝/立久井大輝(ファビアR5)は、新たに「R2R×YAHAGI Racing Team」を結成し、全日本ラリーへの参戦を継続。チーム運営はR2R、車両メンテナンスなどは愛知県豊田市に本拠地を置く矢作産業が担当する。福永修/齊田美早子は予告どおり、最新のシュコダ・ファビアRSラリー2を導入。新井敏弘/小坂典嵩は、軽量化とリヤサスペンションのアップデートを施したスバルWRX VBHを持ち込んでいる。
■レグ1
2025年のラリールートも、山間部を走る高低差のあるワインディングロードや、竹島埠頭を利用したフラットなコースなど、バリエーションに富んだステージで構成。ラリー初日は「SSS がまごおり竹島(0.87km)」、「SSS 西浦シーサイドロード(4.44km)」、「三河湾スカイライン(10.08km)」の3SSをサービスを挟んでリピートし、最後に多くのギャラリーが集まる「SSSキズナ1(0.70km)」で締めくくる7SS、31.48kmが設定された。
2月28日金曜日の夕方から、今年も蒲郡駅前で華やかなセレモニアルスタートを実施。本格的なステージが幕を上げた3月1日土曜日、オープニングのSS1からドラマが待っていた。スタート直後、先頭スタートの新井大輝のファビアR5にトラブルが発生。リヤデフのオイル漏れを起こしてしまう。新井大輝はこのステージを制した福永から1.6秒差の3番手タイムで走り切ったものの、悔しいレグ離脱を決めた。このステージでは、スタートでファビアR5での初戦に臨む鎌田がストール。
エンジンを始動し直し、数秒をロスしてのスタートとなった。
SS2はコバライネンがコース上のドラムを破損したことで再設置が不可能となり、ドラムなしで以降の競技車を走行させたことにより、審査委員会は国内競技規則2-14 1) により、先に走行していた勝田、奴田原、福永、新井敏弘には、コバライネンの後に走行した鎌田のトップタイムを同率で与える裁定を行っている。
この日最長の10.08kmを走行するSS3は、鎌田がコバライネンに4.2秒差をつけるベストタイムをマークし、コバライネンに2.6秒差の首位にジャンプアップした。勝田は3.3秒差の3番手にポジションダウンし、5.9秒差の4番手には奴田原がつける。5番手の福永は思うようにペースが上げられず、首位鎌田との差は16.2秒差に拡大した。JP4規定マシンで孤軍奮闘する新井敏弘は、17.8秒差の6番手とこちらも優勝争いから遠のいている。
サービスを挟んだ午後のセクション。SSSがまごおり竹島の再走となるSS4は、午前中に続き福永が、同タイムで並んだ鎌田とコバライネンに0.7秒差のベストタイム。SS5はコバライネンが今回ラリー初となる一番時計をたたき出し、首位鎌田との差を一気に0.2秒差にまで縮めてみせた。するとコバライネンは、ロングステージのSS6でも鎌田に3.4秒、勝田に4.1秒差をつけるベストを刻むと、鎌田に3.2秒差をつけて首位に立った。
この日を締めくくるSS7は福永がこの日3度目となるベストタイム。午前中はタイヤと路面のマッチングを踏まえて慎重に走行していたコバライネンは、気温が上がった午後にプッシュ。合計タイムで2番手につける鎌田に4.1秒差をつけて、初日を折り返した。
「午前は、ミディアムタイヤのウォームアップに少し問題があった。でも、午後は気温が上がってきたことで、同じコンパウンドがしっかりと機能してくれた。あと、ラリージャパンでのクラッシュもあったから、午前中はすこし躊躇してしまったんだろうね。午後は自信が戻ってきて、アタックもできたよ。明日は接戦が続いているし、午前中どのタイヤを選ぶのか考えていると」と、コバライネンは慎重にコメント。
久々に優勝争いに絡むこととなった鎌田は「ヘイキが速かったですね。僕としては今日は上出来です。無理をせず淡々と走ってこのタイムとポジションは、100点満点。これまでやってきた経験が活きて、今のスピードがあります。スバルさんに鍛えてもらったことで、無駄ではなかったと実感しています」と、納得の表情をみせている。
ところが、暫定リザルトで首位に立っていたコバライネンに、SS7「SSS キズナ」でのミスコースにより1分のペナルティが科されることに。このステージはサービスパークに隣接されたダート路面のパイロンコースだったが、巻き上がったダストが落ち着かず、視界不良を訴えるドライバーが続出。パイロンが見えずにミスコースが相次ぎ、ここではコバライネンを含めた10名にペナルティが科されている。
これでコバライネンは6番手に後退。鎌田卓麻が首位に立ち、勝田範彦、奴田原文雄、福永修、新井敏弘がそれぞれひとつ順位を繰り上げた。
JN-2クラスは、創設から2シーズン目を迎えたMORIZO Challenge Cup(MCC)の9台を含めた、計20台がエントリー。昨年、JN-4を連覇した内藤学武/大高徹也(トヨタGRヤリス)、全日本タイトル獲得経験を持つ大倉聡/豊田耕司(GRヤリス)、MCCの初代王者山田啓介/藤井俊樹(GRヤリス)など有力クルーが数多く登場して大盛況となった。
初日は、2度のベストタイムを刻んだMCCの大竹直生/橋本美咲(GRヤリス)がトップ。0.1秒差の2番手に内藤、0.4秒差の3番手に山田、2.2秒差の3番手に小泉敏志/村山朋香(GRヤリス)、3.4秒差の4番手にMCCを卒業した貝原聖也/西﨑佳代子(GRヤリス)とトップ4が4秒差以内にひしめいている。一歩出遅れてしまったのは、昨年のJN-2チャンピオン、三枝聖弥/木村裕介(スバルWRX STI)。SS1ではストールを喫するなど思うようにペースを上げられず、14.8秒差の5番手で初日を終えた。
僅差ながらもクラストップの大竹は「とにかく安全第一で ペースをコントロールしながら走りました。それでもトップに立てて、すごく満足しています。 午後は全然ペースを上げずに、同じペースで走るという作戦で走りました。まだ余裕もありますし、とにかく淡々とステージをこなせた印象です」と、納得の表情。初のJN-2クラス参戦ながらもSS5ではクラスベストタイムをマークし2番手につけた内藤は「まだFF的に乗っていて、どこで4WDを活かせるのか考えながら走りました。午後は、午前中に気づいた反省点を修正できました。今日はハイスピード中心でしたが、明日はツイスティなセクションもあるので、上位と同じようなタイムが出せるのかが課題です」と、冷静に語る。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラスは、昨年連覇を飾った山本悠太/立久井和子(トヨタGR86)がSS1からSS3まで連続ベストを刻み、長﨑雅志/大矢啓太(GR86)に7.7秒差をつけて初日を首位で折り返した。昨年まで山本がドライブしていたマシンを引き継いだ下口紘輝/小林一貴(GR86)が、17.6秒差の3番手。優勝候補の一角に数えられていた山口清司/澤田耕一(GR86)は、SS5でミッショントラブルによりラリー続行を諦めている。
僅差の展開ながら初日首位に立った山本は「ラリーをリードしていますが、クルマのセットアップがあまり上手くいっていない感じです。それもあっていくつかのステージで長﨑選手に先行されてしまいました。最終日からが三河湾の本番と思っています。天気が心配ですが、気をつけて走ります」と、振り返る。長﨑は「ハイスピードセクションではもう少しプッシュできた気がしますし、課題がいくつか残りました。明日はステージ内でスピード域が変わるなど切り替えが求められるので、しっかりと対応したいです」と、こちらも笑顔はない。GR86での初日を3番手で走り切った下口は「初めてのクルマだったのですが、SS3で調子をつかむことができました。明日は性格の異なるステージなので、気をつけながら最終的に表彰台に上がりたいです」と、コメントしている。
スズキ・スイフトスポーツによって争われるJN-4クラス。全日本ラリー初出場となった若手の藤原友貴/宮本大輝(スズキ・スイフトスポーツ)がSS3で初ベストを刻むと、SS6で首位に浮上。ベテランの須藤浩志/新井正和(スイフトスポーツ)に4.0秒差、高橋悟志/箕作裕子(スイフトスポーツ)に7.1秒差、筒井克彦/本橋貴司(スイフトスポーツ)に14.7秒差をつけて、初日を首位で折り返した。
初の全日本ラリーでトップを快走した藤原は「前半のセクションはクルマも初めてだったので、タイムが伸び悩みました。それでも、林道にしっかり合わせ込んだこともあって、SS3とSS6の『三河湾スカイライン』はしっかりハマって、ベストタイムを記録できました。明日はツイスティなステージとなるので、しっかりと今日の走りを確認して挑みます」と、冷静にコメント。2番手の須藤は「藤原選手は高速セクションがめちゃめちゃ速いですね。後半、頑張ったんですが、タイヤ選択のミスなどが重なって、思うようにタイムが伸びませんでした。明日は今日と違う道になるので、オジさんたちの経験を活かして、若いドライバーに対抗します(笑)」と、最終日に逆転を狙う。
JN-5クラスは、昨年チャンピオンの松倉拓郎がスキップし、シリーズ2位の大倉聡がJN-2クラスへと移ったため、戦況の予想が難しい展開に。混戦が期待されるなか、昨年はMCCに参戦していた中溝悠太/佐々木裕一(トヨタ・ヤリス)が、2番手の小川剛/山本祐也(ヤリス)に30秒近くの大差をつけてみせた。3番手に島根剛/粕川凌(ヤリス)、4番手にIto Rina/松浦俊朗(マツダ・デミオ)のオーダーで続く。
首位の中溝は「なんとか無事に帰ってこられて良かったです。今日は、新しいラリーカーとタイヤに慣れることに集中しましたが、まだタイヤの特性を掴みきれていません。それでも、道幅が広い今日のステージは得意なので、安心して攻めることができました」と振り返った。2番手につけたベテランの小川は「半年ぶりに修理が終わってこのクルマに乗ったので、ようやくリハビリが終わったところですね。スピンやミスコースなどもあったなかで、2番手で折り返すことができて良かったです」と、納得の表情を見せた。
これまでのJN-6に代わり、今シーズンから「駆動方式を問わず、気筒容積が2500cc以下のAE車両」という新たな環境対応クラスへと変更されたJN-Xクラス。昨シーズン、圧倒的な強さでJN-6を制した天野智之/井上裕紀子が、マシンをトヨタRAV4 PHEVにスイッチしてエントリーした。天野は序盤こそ、清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス)の先行を許したものの、SS3で初ベストを刻んで首位に立つと、残りのSSをすべて制してみせた。初日を終えて首位天野と2番手清水の差は23.6秒。3番手にはベテランの中西昌人/山村浩三(ホンダCR-Z)がつける。
昨年までのマシンとはまったくサイズが異なるニューマシンに戸惑いながらも首位を快走した天野は「RAV4 PHEVは、速いところは速いのですが、車重があるのに小さいタイヤを履かなくてはならないので、ステージによっては出力ほどのタイムは出ないですね。ちょうどコンパクトカーと競うレベルにあります。もっと遅いクルマだと思われていたでしょうし、この大きなSUVが素早いコンパクトカーと同等レベルで競うなんて誰も想像していなかったはずです(笑)」と新しい試みに笑顔を見せる。今回も天野の先行を許した清水だったが、「ベストタイムが獲得できたのは、自分の走りがアップデートできたから。路面だったり、タイヤだったり、データをしっかり分析した上で走っています。昔は気合で有視界でしたからね(笑)」と、自身の成長を語る。