TVの映像でも、彼らが登場するのは背景の中。サービスエリアや、スタートグリッドでの写真でも、彼らにピントが合うことはない。マシンの下に潜り込んでいたり、エンジンルームの中に頭を突っ込んでいたり、ラップトップの画面の裏側に潜んでいたり、キッチンではお鍋やフライパンの向こう側にしか見ることがない。でも、このチームメンバーがいなければ、世界ラリークロス2連覇王者としてのペター・ソルベルグが誕生することはなかったんだ。今回は、僕のベストフレンドであり、最大の協力者、そしてファミリーでもあるPSRXのチーム全員への感謝の気持ちを綴ろうと思う。
いいチームを作り上げることの重要性について、僕はこれまで幾度となく話し合ってきた。ラリークロス(そして、モータースポーツ全般においても)は、チームスポーツと言えるのか。僕の主張は固い。答えはイエスだ! 僕にしてみれば、チームスタッフがいなければ、世界ラリークロス選手権に参戦することすらできない。僕はよりよいチームを作ることに、かなりこだわっている。僕のチームスタッフは選りすぐりのメンバーが揃っている。僕と全く同じ目標を持つ人ばかりを集めた。どんな時でも、勝つことだけを目指したい。それがどれだけ不可能のことのように思えたとしても、挑んでいくメンバーばかりだ。
みんな家に帰れば、奥さんがいて、子どもたちがいて、家族がいる。その全員が、チームにとっても大切な存在だ。そして、家族を思いやることも忘れない。世界ラリークロスを戦う生活は厳しい。遠征のために長く家を空けることもある。自分たちの目標と夢に向かって突き進んでいることを家族のみんなが理解してくれていることは、本当に心強いよ。
2016年のシーズン前と開幕戦のポルトガルは、PSRXのチーム力が存分に発揮されたいい例だ。去年のチャンピオンマシンを大幅にリビルトすることになったので、100%の状態で開幕戦を迎えるのは本当にプレッシャーが大きかった。
本格的なテストにこぎつけたのは、シーズン開幕が5週間後に迫っていた時だった。フランスのロエアックは、冬の間に作り上げたマシンがどれだけ進化しているかを初めて評価するには絶好のコンディションだった。それからすべての機材をフランスから持ち帰り、3月下旬のイースター休暇の間、パーツ関連や詳細部分を煮詰める作業に取り組んだ。2度目のテストをドイツのエステリンクで行い、そこからポルトガルのルーサダで最後のセッションを行った。
その時の苦労からレースで勝つまでの話を簡単にまとめてみよう。ルーサダには、世界ラリークロスに参戦するチームのほとんどが集まった。テストを行ったり、またいなくなったり。PSRXは早いうちに到着した方だったけど、最後まで現場にいたのも僕らだった。車検の前日、夜遅い時間になってようやく、チームと僕は、コンペティティブなマシンになったという確信を得た。開幕戦のモンタレグレのコースに立つと決めたのは、開幕の数時間前のことだった。
準備までは、本当に手間ががかかった。でも、僕らのチームの信念として、準備が万端でなければモンタレグレのスタートに立つ意味はないと考えていた。レース前の3週間は、テクニシャンが9ー10人いて、そのほかにメカニック、サポートスタッフ、チームメンバーが、ルーサダの雨や雪を凌ぐだけ程度の小さな屋根の下で、黙々と作業を続けた。これ以上ないというほど、完璧に仕上げたんだ。
昨シーズンからマシンに施した変更箇所は、70%に及ぶ。一番重要な変更点は、ジオメトリーと重量配分だ。ライバルのワークスチームも、必死で開発に取り組んでいる。プジョー、フーニガン、EKS、フォルクスワーゲン・スウェーデンは、明らかに僕らよりもたくさんの資材を投入している。でも、僕たちはそれ以上に情熱を持っていると僕は考えている。その情熱を打ち破ることはできない!
ポルトガルで勝利を収めた後、僕はこれまでのことを振り返って考えてみた。たくさんの試練に直面してきたけど、チーム全員でそれに取り組み、乗り越えてきた。チームを動かす一番重要な原動力は、絆だ。今季最初のレースでの優勝にも、僕たちはうかれてはいない。ここで勝ったからといって、今季もたやすく勝てるとは考えていない。でも、ポルトガルでのレースで僕らが分かったことは、2016シーズンにもそのままつながるはずだ。
1) 自分たちが苦戦したり、やられている時(土曜日のように)、それでも自分たちの計画を信じ、戦略を維持しなくてはならない。世界ラリークロスで順調にレースを進めファイナルで勝つために一番重要なことは、予選の4レース、そしてセミファイナルを無事に走り切ることだ。
2) 残念な結果に終わるよりも、安全に行く方がいい。今日結果を残せなければ、明日は後悔しか残らない。
プレシーズン、そしてレースの間、必死に取り組んできてくれたチームのみんなには、感謝してもし尽くせない。今年最初のトロフィーは、チームみんなのものだ!