全5回の連載でお送りする特別企画「WRカー講座」の最終回は、新規定WRカーの迫力ある外見に隠された巧妙なコンセプトについて見ていきたい。
派手になったマシンの外見に目を奪われがちだが、その舞台裏ではFIAとマニュファクチャラーが綿密に連絡を取り合い、良い雰囲気のなかで協議が重ねられた。そのなかで、特に注意が払われたのが「開発コストの上昇を抑えること」と「安全性を確保すること」の2点である。
まず、新規定移行によるコスト上昇の回避はマニュファクチャラーたちの要求によるものだ。そのため、ベース車はこれまでどおりBセグメントとされ、ボディの基本設計などはこれまでの資産を活かすことができた。エンジンもパワーアップするとはいえ、リストリクター径が緩和されたのみ。しかも、60馬力アップしても、それまでのエンジンが問題なく使えることは、同じエンジンを使用するWTCC(世界ツーリングカー選手権)で実証済みだ。これは、必ずしもエンジンをゼロから開発しなくてもいいことを意味する。アクティブセンターデフの採用は、コスト上昇を回避するという方針に逆行しているようにも思えるが、ドライブシャフトをはじめとする駆動系パーツを延命する効果があり、一概にコスト増とも言い切れない。すべてのデファレンシャルをアクティブ化するとプログラムの組み合わせが複雑になりすぎるため、フロントとリヤの電子制御は引き続き禁止とされている。
FIAは新たに発泡フォーム入り衝撃吸収サイドドアの導入を義務化した。また、エアロパーツの規制緩和にあたっても、ダウンフォースが増加しすぎないように空力パーツのための容積が決められ、コントロールされている。また、コーナリングスピードの向上に大きな影響を及ぼすタイヤサイズも据え置きとされた。
「新WRカーのコーナリングスピードは、これまでと比べて大きな違いはないと思う。というのも、コーナリングスピードは、メカニカルグリップと空力によるダウンフォースの影響が大きい。我々はそれを厳格に制限するつもりだからね。ただ、『WRC2017』は加速性能もブレーキング性能もこれまでより向上するから、よりアグレッシブなドライビングが可能になる」
まとめると、2017年の新規定WRカーは、コスト増と安全性に最大限配慮して、絶対性能の向上はほどほど。でも、ステージを走る姿は見た目も動きも迫力たっぷりのラリーカーと言うことができるだろう。このレギュレーションは少なくとも今後3年間、2019年末まで有効となっており、「もし『WRC2017』がうまくいくのであれば、変更する必要はまったくない」とニクロは断言している。
2017WRカー講座 インデックス
第1回 WRCトップカテゴリーの歴史と2017年新規定の狙い
第2回 新規定WRカーの見えない進化、エンジン&駆動系
第3回 2017年のWRCはグループB以来のエアロパーツ大解禁
第4回 迫力と安全性を両立するワイドボディ化
第5回 迫力の外見に隠された巧妙なコンセプト – このページ