本誌連動企画:エンジニアに聞くトヨタ・ヤリスWRCの現在地 トム・ファウラー編 – ページ 2 – RALLYPLUS.NET ラリープラス
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本誌連動企画:エンジニアに聞くトヨタ・ヤリスWRCの現在地 トム・ファウラー編

©Naoki Kobayashi

「ヤリスWRCのアドバンテージはトータルパッケージ」

ーーヤリスWRCはこれまでのところ、どのようなアドバンテージを持っていますか?
「何かひとつが、というわけではなくて、トータルのパッケージとして優れた組み合わせになっているんだ。開発中も、どこかひとつに特化したということはない。ここが特別、という部分はなく、すべてにおいて精一杯取り組んできた。一体となって最高のパッケージになるように作ったので、それが最も重要なところだと思う」

ーーヤリスWRCを見ると、空力に焦点が当たっているようです。
「2017年の新しいレギュレーションでは、空力的にアグレッシブなマシンになる。レギュレーションで何が許されているのかを調べ、何が可能なのかをできるかぎり研究することが、最高の選択肢であると判断した。何ができるのかを確実に理解し、最高の空力パフォーマンスを得るために、研究結果を設計に注ぎ込んだ。空力の影響が大きく出るラリーのステージでは、空力的にアドバンテージがあるか、少なくとも他と同等ではあると思う。これは重要なことだ」

ーー空力の開発で、TMGの施設は使えるのですか?
「現状では空力はTMR(トミ・マキネン・レーシング)で行っていて、設備は様々なところを使っている」

ーーエンジンは大きなアドバンテージになったと思いますか?
「TGRはTMGとともにエンジンに取り組んでいて、チームとして努力してくれている。これらの人々の知識や設備は本当に大きなアドバンテージになっている。エンジン開発の可能性という点では、私たちは良いポジションにつけていて、これはチームにとって大きなアドバンテージだ」

ーーメキシコは標高が高いことで有名ですが、エンジンはどうでしょうか。ヤリ‐マティは通常より15~20%ほどパワーが低くなると言っていました。
「確かに標高はパワーに影響するが、ステージにもよる。2,000mから2,600mの間で走ることになるので、標高による空気の量に直接的な影響を受けて、15~25%ほどが失われる。コンディションによってエンジンのパフォーマンスは大幅に低下するが、それはどこのチームにとっても同じこと。トヨタだけではない。全チームが同じ問題に直面するだろう」

ーーメキシコに向けたテストはどこで行いましたか?
「スペインで行った。最高で2000m以上まで行けた。これはどこのチームも抱える問題だが、ヨーロッパ内でのテストエリアは限られている。したがって標高が高く、路面状況と気温が適したテスト地を見つけるのは非常に難しい」

ーーテストでは降雪もあったようですし、こことはまったく違うコンディションですね。
「そうだね。繰り返しになるが、これは全チームが直面する問題だ。私たちは許可されたテストエリアのなかで、ベストを尽くした。(問題を)埋め合わせるため、ここメキシコには特別な仕様のセッティングを用意している。シェイクダウンでもセッティングの微調整をしている。それがヤリ‐マティの話していたことだろうね」

ーーヤリ‐マティはシェイクダウンにかなり時間を費やしていました。
「そうだ。この国で走るのは初めてなので、比較的控えめなセッティングでシェイクダウンに臨むのは普通のことだ。マシンは空輸されてきて、組み上がったばかりだ。シェイクダウンは全システムのチェックと、すべてがきちんと機能しているかの確認と、最終的な調整のために行った。シェイクダウンで改善が見られるのもよくあることで、ヤリスWRCは気温も標高も高いメキシコを走るのは初めてだから、微調整の良い機会になった」

ーーほかのチームはこのイベントでの経験がありますが、トヨタはありません。問題への対応はどうしましたか? このイベントの情報はありましたか?
「確かにチームとしての経験がないが、我々は他のチームから移籍してきたドライバーやプロ集団を抱えている。スタッフの大半は以前のメキシコのラリーを知っており、その経験が取り入れられた。それに加えてマシンも昨年からは変わっている。他のチームも、このマシンでここに来るのは初めてだ。そういった意味ではラリー全体が、どのチームにとっても難しいものになると思う」

HYUNDAI

ーーライバル、たとえばヒュンダイについてはどう思いますか?
「他チームがどんなことをしているかを見ていないので、ほかのマシンについてコメントするのは難しい。面白いのは、4台のマシンがどれも異なるアプローチを取っていること。にもかかわらず、実際のステージタイムは非常に近いものになっている。とても面白いね」

ーーなぜタイムが似通う結果になったと思いますか?
「レギュレーションには誰もが従わなければならないし、レギュレーションはマシンのパワーや重量などの大きな制限を厳しく明確に決定する。つまり仕事を施せる余地はかなり小さく、微調整になる。マシン外部のディテールにはかなりの違いがあるが、それが影響するのはパフォーマンスの数パーセントにすぎない。マシンの全体的なパッケージが、大まかに言って似ているんだ」

ーーヤリスと他のマシンとの、最大の違いは何だと思いますか?
「目に見えて明らかに違うところは空力だ。パッケージそのものもかなり違うけれど、そういう意味ではどのマシンにも同じだけの違いがある。空力に関してはかなり自由度が高いので、全チームが異なる解決策を見出してきた。すべてのマシンが見た目に違っているのはファンにとって良いことだし、面白いと思う。一方でチームとしては、ヤリスを設計したときの理念のひとつに『すべてを白紙から』というものがあったので、新しい解決策やアイデアを探していた。だから隠れたところに興味深い機構があるんだ」

ーー個人的に新しいアグレッシブなドアミラーは気に入っていたのに、残念でしたね。
「ああ、残念ながらね(笑)」

ーーいいアイデアでしたが、違反だったわけではないのにFIAに禁止されたとのことですね。
「そのとおり。ドラミラーの使用に関してはオープンだったので、できるかぎり活用しようと考えた。けれども残念ながらFIAはお気に召さなかったみたいだ。我々がやっていたものを減らすようにと言われたので、いまのマシンで見られるものは、オリジナルの設計から少し妥協したものだ。残念だよ」

ーー次戦やシーズン全体を見据えて、マシンのどの部分を改善していきたいですか?
「マシン全体に取り組んでいる。大きなコンポーネントの変更や使用の許可は得ているので、今はこれらの新たな開発に取り組んでいる。それ以外のものにも取り組んでいるが、これまで2戦のラリーしか走っていないために、改善すべき最も重要な部分がどこであるかというデータが足りない」

ーー決定はターマックラリーの後になりますか?
「シーズン前半の、データの集まり具合によるね。決定は夏になる」

ーージョーカーも選べますね。
「そうだね。マシンの様々な部分に関する開発はすでに行っているが、ホモロゲーションで定められているので、一部しか使えない。データが十分に集まり次第、最も重要なところから導入していく」

ーー今は急いで変更しなくてもいいのではないですか?
「今はラリーごとにマシンに変更を加えているが、それは各ラリーが大きく異なっているからだ。小さなディテールの部分だけで、マシンの大部分は同じままだ。しかしマシンの大部分の仕様をできるだけ同じに維持しておけば、各ラリーから得たデータから、どこが勝っていてどこが劣っているのかという他チームとのパフォーマンスの比較ができる。そしてそれが将来的に役に立つ」

ーー今のヤリスの弱点はなんですか? ターマックラリーですか?
「今の時点では言えないが、予想ではそうだ。2016年にテストをしていた時、テストのほとんどをグラベルで行った。その理由はラリーの大部分がグラベルで行われるからだ」

ーーイベントの80%がグラベルですね。
「前にも言ったように我々には時間が足りないので、グラベルカーを優先したんだ。それがシーズン全体のリザルトに、最も大きく影響するものだからね。だからターマック仕様には、開発の時間をあまり割いてこなかった。けれど来週、ツール・ド・コルスに向けたテストを行う時に、そちらの作業も始める予定だ。グラベルと同じレベルに達するまでには、もう何度かのターマックでのテストが必要だと思うね」


このインタビューは前戦メキシコで収録されたものです。次回はTMGでWRCエンジンプロジェクトマネージャーを務める青木徳生氏のインタビューをお届けします。

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