本誌連動企画:エンジニアに聞くトヨタ・ヤリスWRCの現在地 TMG青木徳生 編 – RALLYPLUS.NET ラリープラス
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本誌連動企画:エンジニアに聞くトヨタ・ヤリスWRCの現在地 TMG青木徳生 編

©Naoki Kobayashi

18年ぶりに復帰したトヨタの活躍は、WRCの戦いをこれまで以上に興味深いものとした。彼らの戦う姿は、WRCに多くのファンを呼び戻し、また新たなファンを生むきっかけともなっている。

デビュー戦モンテカルロでいきなりの2位、続くスウェーデンでは早くも優勝を達成。しかし、第3戦メキシコでは一転して苦しい戦いを強いられた。

ヤリスWRCの現在地を、生みの親であるエンジニアはどう見ているのか。今回は、TMGでWRCエンジンプロジェクトマネージャーを務める青木徳生氏のインタビューを紹介する。このインタビューはメキシコで収録されたもの。本誌RALLY PLUS vol.13との連動企画でお届けする。

「もっと中低速があればヤリスはさらに速く走れる」

TOYOTA

――優勝したスウェーデンではエンジンの果たした役割が大きそうですが、実際はどうだったのですか。
「たしかにスウェーデンには長い直線もありますし、スタッドをつけてアイスバーンを走るとかえって通常よりグリップがあるほどです。エンジンのパワー的には悪くないなと思いました。でも、凍っていたり雪があったりアップダウンがある。なかなか合格させてもらえないな、というのが正直なところです(笑)。

モンテカルロで雪が降って道の状況が変わってきたり、スウェーデンもかなりエンジンの使い方が違うということを経験し、いまこうしてメキシコに来て、またさらに違った走り方を経験しています。その中で、ドライバビリティについては大きな問題はないと感じています。もちろん、もっと良くできる要素はありますが、パワー自体もそれほど外れてないですし。『もっと中低速があればさらに速く走れる』と意見をもらっているので、がんばっています」

――中低速の向上はドライバーからのリクエストですか。
「そうです」

――もっと走りやすくなる?
「トミー(マキネン)がうまいことを言っていて、例えば信号待ちや踏切などで減速してる時に、シフトダウンせずに5速くらいで走っているとします。そこで突然青になった時に、そのまま踏んでフッと出てくればいいんだ! と言うんです。イメージでいうと、上はびんびん回って、下は低速から、という感じが乗りやすいらしいのです。ニュアンスでは分かるんですけどね。所詮1.6リッターのターボじゃないですか」

――信頼性に関してはどうですか。
「我々の開発スケジュールでいうと、信頼性についてはコルシカの後でお聞きいただけたらいいかなと思います」

――なぜですか。
「やっぱりコルシカまでの1つのループを今のエンジンでやってみて、それで初めてそこまで使えましたと、言うことができます。今の時点では、問題ありませんと言うにはまだ時期尚早です」

――かといって、信頼性を不安視する問題点もない。
「明日にもエンジンを換えよう、ということはないですけど、『日曜日まで大丈夫ですか』と言われたら、やっぱり日曜日が来てみないと分かりません、と答えてしまいます」

――少なくとも、2戦を終えて、想定外のことは今のところ起きていない。
「そうですね。ラリーごとにチェックリストがあって、それで見た範囲では今のところ順調です」

Naoki Kobayashi

――メキシコの高地対策について教えてください。
「条件はどのエンジンにとっても一緒です。できるだけ平地と同じだけの性能を確保する。それに伴うレスポンスの設定など、テストできる範囲の中でやっています。さらに再修正を加えて、明日以降の走行にかなり活かせる内容になっていると思います。メキシコを走ったことのあるトヨタのラリーカーはまだないんですね。今回取れたデータはすべて今後の経験として残っていきます」

――実際に走ってみて、メキシコの印象は。
「厳しい所ですね。まず、冷えない。気温と高地であることの気圧の低さは想定通りなのですが、実際のコースレイアウトであったり、その際のクーリングなどの面で思った以上にタフなラリーになっています。そのためエンジンの温度が上がってしまいますが、それ以外はおおよそ想定内です。ただ、経験のある他チームも、温度で苦労しているようですから、ちょっとびっくりしています。リストリクターが大きくなったことが、昨年との違いなんでしょうが、それにしてもコースも含め、昨年と大きく違っているところはないはずなので、本当に意外ですし少しホッとしている部分もあります(笑)」

――なぜ冷えないかの分析は。
「それはコースのレイアウトだったり、車速であったり、車の動きであったり、それらがクーリングに影響しているのだろうと考えています。一言で言えば、風が当たらないということでしょうね。車が横を向けば、前からは風は入らないですから」

――温度以外には、特に問題は。
「大きな問題はないですが、温度が上がってエンジンを壊してしまうと、あとあと響いてきますからね。なので、3日目(土曜)の朝は、控えめに走らせました。また、ラリーが終わって開けてみたら、何かが起こっている可能性はあります」

――2日目(金曜)に温度の問題があって、3日目までにどのような変更を。
「冷却系のレイアウトをかなり変えました。水が沸騰するしないの問題もあるので、その部分の調整も行いました。エンジンのセッティングも、もしかしたら高熱でダメージがあるかもしれないので、様子を見ようということで、気持ちフルパワーから落としたセッティングに変えています」

――3日目(午前)の走りの状況からは。
「今のところ、大きな問題はなく、冷却の対応もうまくいっているようなので、午後は抑えめのセッティングを元に戻して、多少プッシュできるようにします」

――これも、やはり勉強ですね。
「そうですね。こういう経験は必要ですし、チーム全体がこういうことに対しても非常にポジティブに対応していますので、いい状態で進んでいると思っています」

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