7月31日、ユバスキラ近郊のグラベルステージにおいて、内外のメディアを招待してTOYOTA GAZOO Racingのワークスドライバーによる、トヨタ・ヤリスWRCの同乗走行会が行われた。幸運なことにRALLY PLUSも、貴重な1名の同乗枠を確保。先日のラリーフィンランドで、自身初の表彰台となる3位を獲得したユホ・ハンニネンのコ・ドライバーシートを体験することになった。
今回、チームはカラーリングの施されていない真っ白なテスト用のヤリスWRCを用意。ラリーフィランドのステージとして何度も使われたことのある「Palsankylantie」のグラベル路を走行した。ここはヤリスWRCのテストでも何度となく使用されており、TOYOTA GAZOO Racingチャレンジプログラムに参加する勝田貴元や新井大輝もトレーニングとして走行経験があるステージだ。
約1kmのステージを1往復、合計2km弱と、決して長くはないステージだが、中には高速コーナーやビッグジャンプも含まれており、ヤリスWRCの走りを堪能するのは十二分なロケーション。HANSデバイス付きのジェットヘルメットを装着すると、いよいよハンニネンのコ・ドライバーシートに収まる順番がまわってきた。実はシートに乗り込むまでは、「スマートフォンで動画でも撮ろうか」などと考えていたのだが、考えが浅すぎたようだ。
スタート地点までマシンを軽く転がしたハンニネンは「これまでラリードライバーの横に乗ったことはある?」と、聞いてきた。「もうずいぶん前にジル・パニッツィがドライブする市販車の横乗りと、あとはS1600くらいかな……」と答えると、「それなら、今日は忘れられない日になるね」と言い、強くアクセルを踏み込んだ。
その後の展開は、自分の貧弱なボキャブラリーでは「すごかった」としか、言いようがないのが悲しい。とにかく異次元のスピードで車窓の景色が流れていく。もちろんスマートフォンなんぞ取り出す暇もなかった。「ここからが最高のセクションだよ」とハンニネンが言うと、クレストの前で少しブレーキを踏み、一気にテイクオフ。「フッ」という短い浮遊感を得たかと思うと、次の瞬間には実にスムーズにランディングした。ガツンという衝撃はほとんどなく、そのまま次の加速へとシームレスに進んでいく。
実はラリーフィンランドのステージを観戦したおり、ライバルのマシンと比較しても、ヤリスWRCのジャンプ後の安定した姿勢に感心していたのだが、そのスムーズさは車内にいても変わらなかった。「30mくらいは飛んだかな。まぁ、今日はラリー本番じゃないし、あくまでもメディアの皆さんを楽しませるドライブだからね。これくらいでも十分楽しんでもらえたんじゃないかな?」と、テストサービスに戻ったハンニネンは笑顔を見せる。
ヤリスWRCが鍛え抜かれたフィンランドの地で、その走りを体感できたのは貴重な経験だった。ラリーフィンランドで、ヤリスWRCが圧倒的なスピードを見せた理由が、腑に落ちたのである。チームのエースを務めるヤリ‐マティ・ラトバラは言う。
「ヤリスWRCのアドバンテージはこの足まわりにある。開発初期段階からフィンランドのステージを使って鍛えてきたことが、理由のひとつと言えるだろう。確かにターマックでの経験不足は否定できないけれど、今後の高速グラベル、ラリーGBやオーストラリアでは勝利を狙えると思っているよ」
エサペッカ・ラッピに驚きの初勝利をもたらしたヤリスWRC。今シーズン、さらに勝利を積み上げる可能性は十分にある。そう確信した今回のコ・ドライバーシート体験だった。