大御所WRCメディア、マーティン・ホームズが、長年の経験に基づく独自の視点で切り込むMartin’s eye。今回は、模索が続くWRCカレンダーの構成について、関係者へのインタビューを行った。まずは、開催中のWRCドイツを最後にTOYOTA GAZOO Racing WRTを離れることが決まっているスポーティングディレクターのヤルモ・レーティネン。
TOYOTA GAZOO Racing WRTのスポーティングディレクター職を離れる前の、これが最後のインタビューとなるだろうヤルモ・レーティネンに、来年のWRCカレンダーに希望することを聞いた。
「現在のフォーマットが前提とすれば、個人的には13戦か14戦が上限だと思う。14戦は、ロジスティック面では予算的な限界だ。それ以上になると、資材をもう1セット用意しなければならず、その分の投資が強いられる」
「開催ラウンド数を増やしたり、ヨーロッパ外のラリーを増やすことについて話し合う前に、ラリーのフォーマットについても考えなくてはならない。3日間もラリーを開催する必要があるのか、もっと短い会期で行うことはできないのか、とね。ただ個人的には、そうはなってほしくない。もし、スプリントのラリーに転じれば、ラリーのDNAが大きく変わりすぎてしまう」
「今後開催が噂に挙がっている国のリストをみると、地中海周辺に集中しすぎるのではという意見があることも知っている。そうなると、トルコやクロアチアでのイベントの可能性に疑問が生じてくる。ポーランドについても同じ議題に挙げたい。個人的には、いわゆる旧東欧圏のイベントの価値は高いと感じている。ラリーファンの地盤が大きいし、世界の中でもラリーが盛んなエリアだ。残念ながら現状、ポーランドは財政面、セキュリティの面で問題を抱えており、運営組織も何らかの理由で完全に安定はしていない。自分は、ラリーポーランドが初めて開催された時にコンペティターとして参戦したが、本当に素晴らしかった。そこからは、少し下り坂になっている。今年のような感じは、あまり好きではなかった。エリアはよかったし、SSもそう悪くはなかった。あの地域はWRCを開催するにふさわしい。もっとも、ポーランド、エストニア、あるいはリトアニアのどれがベストなのかは分からない」
「クロアチアは、イタリアのファンにとってもいい場所だ。クロアチアはターマックラリーになるが、その開催によってWRCのターマックラリーの比率が高くなるとは、自分は思わない。今はバランスよく開催されている。モンテカルロは、今でもターマックラリーだと捉えている。コルシカも、島の不便さはともかく、世界で最高のターマックステージだ。ドイツは、自分の中では完全なターマックラリーとは見ていない。ほかのラリーとはまったく違う独特な部分が多すぎるからね。カタルーニャは、実に素晴らしいラリー。あそこのターマックステージは大好きだし、本当に素晴らしい」
「WRCのカレンダーから落ちてほしいと思うようなラリーは、自分にはない。どのラリーにも、いい面も悪い面もある。それは、主催者に委ねるのではなく、FIAとプロモーターが素材を提供するべき。そうすれば、安定感が生まれる。彼らには、現地の主催者や、現地特有の状況をリスペクトすることができる、クレバーなスタッフが必要だ。簡単に白黒をつけられることではないが、そうすれば、事態はきっといい方向に進んでいくはずだ」
(Martin Holmes)