大御所WRCメディア、マーティン・ホームズが、長年の経験に基づく独自の視点で切り込むMartin’s eye。今回は、ヨーロッパと米国で始まった、新しいラリー選手権について、その背景を伝える。
ツアーヨーロッパラリー(TER)は、2016年にひっそりと始まった。このシリーズは、世界のどの地域にもないヨーロッパのラリーを作り上げることを目指している。初年は4戦で構成されたが、すべて異なるドライバーが優勝を飾ったため、タイトルはSS勝利を最も多く収めたシモーヌ・テンペスティーニが獲得した。
2016年に注目を集めたイベントは、マデイララリー。長く国際格式イベントとして開催されているが、ERCの商業的な側面に違和感を感じてカレンダーから外れた。同じく、ERCに反旗を翻したベルギーのイプルーラリーも今年、TERに加わった。また、2016年はERCの常連トップドライバーの不在が相次いだことも、幻滅に拍車をかけた。TERのプロモーター、ルカ・グリリ(写真左。右はメディアオフィサーのジャンルカ・ナタロニ)は、名門イベントであるイプルーラリーがカレンダーに加わり注目を集めていることに、喜びを見せている。
グリリは、TERを「ロケーション、競技においてイベントの新たな素晴らしさを持つシリーズにしたい」と語った。まずは小さな規模から始めて、徐々に目標に向かって成長していきたいと考えているようだ。TERを、イベント主催者、シリーズに参戦するドライバー、そしてイベントが開催される地元地域が一丸となって取り組むコミュニティのようなイメージを描いている。
ラリーが視覚的に興味の持てるようなロケーションと連動するプロモーションは、目的のひとつだ。テレビのゴールデンタイムの放送枠で、有名な地域イベントと連係して、地元の名物料理を展示するようなこともすでに行われている。
「開催国のテレビ放送枠を確保するために、必死の努力を続けている。すでにヨーロッパの国内テレビとは大掛かりなコラボレーションを行っており、ヨーロッパ外でも進んでいる」
グリリは、ERCの限界は、ユーロスポーツとしか連係できない点にあると認識している。
「ユーロスポーツともやり取りはしているが、彼らと張り合おうとは思わない。我々とは目的が違うからだ。私にとって重要なのは、彼らの制限を受けないことだ」
国際的なモータースポーツとして展開するために、独自で管理することも必要となる。
「昨年の終わり、我々はFIAに対して、我々の選手権が全6戦の開催各国それぞれの連盟と連携して行うことを認めてもらうように、お伺いを立てた。私が考えるに、重要なことは大きな看板を掲げることではない。我々は、安定した内容のシリーズにしたいのだ」
このシリーズは、それぞれ財政的な事情が異なるコンペティターが誰にとっても魅力的なシリーズを想定している。
「資金が豊富な参戦者だけのための選手権ではない。私はTERを、イベント、ドライバー、チームにとって、大きな資金を投資するような場にはしたくない。TERの基本は、ブランドを創り出すこと。ERCとは違い、我々のビジネスモデルは、主催者と財政面の繋がりに特化するものではない。我々にとってTERでかかるコストは、TV製作だ。我々の方法は異なるものだが、それは我々の興味が異なるところにあるからだ。ERCはFIAの代表として運営されているが、TVチャンネルはひとつ。我々は様々なパターンで仕事をしている。主催者をプロモートし、大きく、広い関係を築きたいと考えている。だから、まったく異なるアプローチなのだ」
新しい考え方はすでに取り入れられ始めており、ヒストリックマシンイベントとの併催もそのひとつ。シリーズを魅力的にするために要望されている最大の要素であり、いわゆるジェントルマンドライバーたちにも、申し分のない設定だ。
「すでに、多くのリクエストを受けている。考えとしては、ヒストリックカーイベントを2回、もしかしたら、数戦をTERと分けて行うことから始めるかもしれないが、今後はヒストリック部門にも8戦を設定したい」
一方、ヨーロッパから大西洋を渡った北米でも、新しいシリーズが展開されている。近年、米国ではラリーアメリカ(RANC)が国内選手権として位置づけられてきた。米国で圧倒的な強さを誇ってきたスバルラリーチームUSAは2017年、ティム・オニールが新たに立ち上げたアメリカラリーアソシエーション(ARA)を支持することを決断。ヨーロッパ並みの拡大を目指すため、ARAはラリー主催者に対する義務を大幅に変更。結果、2016年にRANCとして開催された全8戦中、5戦がARAに移ることを決めている。
2017年、新たに始まったARAには、カナダでの一戦がカレンダーに盛り込まれたが(両国からのASNの認可を受けることが必要)、一方でRANCは第二の地域戦レベルで、今でも強力な支持を維持している。シリーズに残った3戦に加え、新規イベントを追加。その中には、初開催のラリーもある。
ARAへの移行を決断した理由について、スバル・ラリーチームUSAの副代表、クリス・ヤンデルは次のように説明する。
「主な理由としては、運営の支援とラリーの保険が関わっている。特に、保険のコストと、その他運営母体から与えられる利点などだ」
オニールとその仲間は、運営母体がどのようにシリーズを展開していくかについて、RANCとは異なるアイデアを持っていたようだ。そのARAは今週末、シリーズ初年の最終戦を迎える。
(Martin Holmes)