大御所WRCメディア、マーティン・ホームズが、長年の経験に基づく独自の視点で切り込むMartin’s eye。今回は、開催中のラリーGBで、Wタイトルの可能性が高くなってきたMスポーツの代表、マルコム・ウィルソンにインタビューを敢行した。
Mスポーツの代表マルコム・ウィルソンは、開催中のウェールズ・ラリーGBでシーズン1戦を残してマニュファクチャラーズタイトル確定が目前に迫っている。Mスポーツがマニュファクチャラーズタイトル確定のチャンスを握るのは、今季これが2度目となるが、今季はタイトルをあえて期待していなかったようだ。
プライベートチームが世界タイトルを獲得するまでには、36年の月日を擁した。その快挙を果たしたのは、アリ・バタネンを擁したロスマンズ・ラリー・チーム。Mスポーツが今年、タイトルのチャンスに恵まれたのは、セバスチャン・オジエの加入に寄るところが大きい。その背景には、ウィルソンがキャリア存亡をかけての2度目のギャンブルに挑んだストーリーがある。1度目は、自身が28歳の時。個人的に投資して、アウディ・クワトロを購入し、1984年に英国タイトルを獲得した。
ーーそして2度目。
「セバスチャン(オジエ)を獲得した時、マニュファクチャラーズタイトルを狙う位置につけるとは、まったく考えていなかった。もちろん、トヨタは初シーズンだとして、ヒュンダイとシトロエンはマニュファクチャラーズ選手権で格段に強くなるだろうと心底感じていた。ドライバーズのチャンスはあるだろうとも感じていたが、マニュファクチャラーズでこれだけ強さを見せられたのは、本当にサプライズだった。シーズンが進むに連れて、事態が変わっていった。どのラリーでもポディウムに上がったことが、今年、ドライバーとマシンのパッケージが非常に強かったことを物語っている」
ーー信頼性が、今の位置につけられた理由だと思っているか?
「今年の最初から言っていたが、信頼性こそタイトルを勝ち獲るための要素だと考えている。心の底から正直な気持ちを言うと、自分はメカニカルのトラブルがもっと出ると予想していた。誰もが新しいマシンで迎えるシーズン、白紙からのスタートで、テクニカル規定も新しいのだからね。どれほど時代が進んでいるかということの現れだと思う。今は色々なシミュレーションが使えるし、すべてのマニュファクチャラーが本当に高い信頼性を見せている」
ーーそして、今季ドライバーとしてセバスチャンが加入したことで何が変わったのだろうか。
「セバスチャンとジュリアン・イングラシア(コ・ドライバー)はどちらも集中力があって、非常にプロフェッショナル。献身的で細部にまで気を配る。そういったことを、チームにもたらしている。タイトルを獲得できるという望みを捨てたことは一度もないが、5年間取れずにいるので、セブとジュリアンがチームに来た時、みんなの士気が高まった。我々が必要としていたことだ。そして、リザルトを獲得するために、みんながさらに5%、がんばれるようになった」
「そして、彼らの加入は、オット(タナック)やエルフィン(エバンス)にも大きな衝撃を与えたと思う。彼らはそれを認めないと思うけどね! 私には、エルフィンとオットは、それまでとは少し違った形で物事を見なくてはならなくなったように感じる。セブがワークショップに来ると、彼とジュリアンがなぜWRCを4連覇したのか、一発で分かる。彼らはどこまでも倫理的に仕事に臨み、プロフェッショナルなアプローチでこなしている、それに尽きる」
ーーそして、ウィルソンに対して一番注目を集めているのは、今年のタイトル獲得ではなく、おそらくは2018年にチームがどうなるのかということだろう。すでにタナックはトヨタへの移籍が発表されている。
「セバスチャンには残ってもらいたいし、エルフィンも残したい。それができるかは、自分には分からない。今年、セバスチャンと契約することは自分が決めたが、(財政的に)何かが変わらない限り、Mスポーツに同じようなリスクを負わせることはできない。(フォードも)そのことを分かっている。現時点で、どうなるかについて話せることはない。自分の願いは固まっているが、どうなるかは分からない。取り組み続けてはいるし、あきらめもしない」
ーータナックをここまで育て上げ今年は成果が出てきているだけに、移籍というのは残念ではないのだろうか。
「彼が離れていくのを見るのは、かなり悲しいことだ。彼とは2010年から一緒に戦っている。しかし、彼は2017年の残り2戦でやらなければならない仕事が残っていることも分かっているし、彼はいい仕事をすると私は確信している。2年後、どんな状況になっても彼が戻ってきてくれることをどれだけ私が願っているか、私は彼に話してある。彼についての対応策も考えてはいたが、確定には至らなかった。どちらに決めるかの日にちを設定していたが、それまでに準備できなかった。ラリーの他のチームと比べれば、自分たちは違うリーグ同士が一緒になっているようなものだ。我々の優れている点は、素晴らしいスタッフが集まったチームだということ。オットへの義務がなくなったことで、すべての財政をセバスチャンに向けることができる。それがターゲットだ。セバスチャンとの話し合いを続ける」
ーープライベーターチームとしてWRCを戦い続けることの、一番制約になっているのは何なのだろうか。
「正直に言えば、一番大きいのは金、そして持続的な開発のチャンスだ。私はコンペティティブなマシンを作り続けることができるという自信がなければ、私は正直になって、現在、他と戦えるだけの支援があるとは思えないと言う。個人的には、自分たちが持っているスキルの地盤があれば、自分たちにはできると感じている。もちろん、今自分が取り組んでいることは、トップレベルに居続けられるための支援を確実に得ることだ」
ーーそして、来年、オジエをチームに残留させる可能性については?
「さあね、願うばかりだよ!」
(Martin Holmes)