大御所WRCメディア、マーティン・ホームズが、長年の経験に基づく独自の視点で切り込むMartin’s eye。今回は、2月15日に開幕を控えるWRCスウェーデンの自らの思い出を語る。
今から20年ほど前、スウェーデンのラリー界には、他とは違う文化が存在していた。「ラリーはスポーツ」という考え方が根強く、ウイナーは最速のドライバーとして認識され、マシンはといえばドライバーが使うツール以下の存在でしかなかった。商業的な影響力を与えることは嫌われ、スポーツのカテゴリーとして光る存在であった。
このため、1995年のスウェディッシュラリーで起きた一件に、スウェーデンのスペクテイターたちは大きな衝撃を受けた。三菱のチームがチームオーダーを発令したのだ。チーフのアンドリュー・コーワンは、フィンランドの若手だったトミ・マキネンに、スウェーデン出身のチームメイト、ケネス・エリクソンに勝たせるよう伝えたのだ。
コーワンは、この自身による決断を、スウェーデンの地元メディアに対して正当化することができなかった。スウェーデンの人々にとってチームオーダーは、ラリー信仰における不信仰者の行為同然だった。チームオーダーを発令する理由は、彼らにとっては話すことのできない外国語を聞くようなものだった。スウェーデンのラリーファンが、マニュファクチャラーとはそれぞれの目的のためにラリーをするのだという、それまで見たこともないようなラリーの哀しい現実に直面した瞬間だった。
(Martin Holmes)