大御所WRCメディア、マーティン・ホームズが、長年の経験に基づく独自の視点で切り込むMartin’s eye。WRCラリーイタリアでWRC2部門を戦ったAPRCチャンピオンのガウラブ・ギルに、イタリア戦フィニッシュ後に話を聞いた。
WRCは今年、9年ぶりにインドからコンペティターを迎えることになった。APRCチャンピオンとして日本でもおなじみのガウラブ・ギルが、WRCにステップアップ。先日のWRCイタリアから参戦を開始した。まさに電撃的なステップアップだった。イタリア戦を終えたギルに、サルディニアでの戦いを振り返るとともに、久しぶりのWRC戦で感じた衝撃を語ってもらった。
ガウラブ・ギル(=GG):このラリーにエントリーした時、どんなラリーなのかは自分で分かっていると思っていた。たくさんリサーチを行ったし、レビューもたくさん読んだし、山ほど予習した。それでも、いろいろな事に驚かされた。速度域があまりに高いことにも、どれだけラフかということにも驚いた。そして、新世代のWRカーの走破性の高さ。1cmもムダにすることなく、どんな岩や石でも隅々まで弾き飛ばしてしまう。金曜日は走行順が後ろだったことは有利にはならなかったが、土曜日と日曜日は走行順がよくなった。2018年の活動を、世界で最もラフなラリーで始めることになったので、自分にもタイヤにもハードになるだろうということは、予想していた。ささいなことでも、大きな影響につながってしまう。金曜日の午後、マシンにダメージを与えた自分のジャンプのようにね。それまでにあのジャンプは3回飛んでいたけど(シェイクダウンでもこの区間を走行していた)、4度目、時速6kmほど速度を上げただけで、着地が激しくなりこの日のラリーが終わってしまった。
ヨーロッパでのラリーは9年前以来だが、当時はグループNマシンだった。今、R5マシンをドライブすることになったことで、さらに強くなったはずだ。
GG:もちろん、R5マシンに乗れてうれしいよ。グループNマシンで、どうすればこんなコンディションを走ることができたのか、分からないよ。すごく難しかったはずだ。WRカー以外では、R5マシンは、いま自分が得られる中でベストのマシンだ。
この9年間で、WRCの様子はどれだけ変わったか。
GG:スタートからフィニッシュまで、3日間を全開で走り続けるドライバーたちが多くなった。それでいて、1秒以下の僅差での勝利になったりするんだ! こうした点は、一番大きな変化だと思う。戦いは常にタイトになり、どのラリーも接戦。総合争いだけでなく、R5勢も、それ以外でも。今は、コンペティティブなドライバーがとても多い。たぶん、9年前は優勝を争えるのは3人くらいだったと思うが、今は8人くらいいる。大違いだ。WRCのチームでも、18歳もいれば、38歳もいて、みんな優勝を狙える。どの世代でも、完璧を求め、できる限り速くあろうとしている。
WRカーはどれも接戦だが、R5マシン同士も同じだ。
GG:R5は非常に興味深い規定だと思う。R5は、WRカーにステップアップする前の、一番近い形の仕様だ。エサペッカ・ラッピやテーム・スニネンなど現在のWRCドライバーたちは、R5で速ければ、WRカーでもかなりいい走りができることを示している。R5は全体のパッケージが素晴らしいと思うし、FIAが生み出した見事なコンセプトだと思う。
最後にWRCに参戦して以来、WRCの規定は複雑になったが
GG:最も注目するべきは、スポーツ全体が安全を重視する雰囲気になっていることだ。そのために、余計に費用がかかることになってもね。しかし、それは必要な投資でなくてはならないと自分は思う。それが、意味のない結果になるのを見た事がないし、今ではFIAの人々は、オーバーオールの中でバラクラバがしっかり収まっているかにまで細かく注意を払っている。そうでないと、しっかりオーバーオールのファスナーが上まで締まらないからね。そして、間違ったことをすれば、罰金を科す。FIAの人は罰金を取るのが好きだからね。
WRCに戻ってきて居心地はよかったか。顔ぶれはかなり変わったか。
GG:もちろん、シュコダの人々のことは知っていたし、エサペッカも一緒にAPRCに参戦したことがあるけれど、それ以外で馴染みのある顔はあまり多くはなかったかな。
サルディニアで学んだことは? MRFタイヤの開発に役立つことはあるか。
GG:2種類のタイヤを使って、ラフな路面でどのように違いがあるかを理解しようとしたが、あまりにコンディションがラフだったので、予想を上回るほどのラリーだということしか分からなかった。でも、できるだけデータを集めて、今後、タイヤに求められる要素が何であるかを理解しようという目標は、どうにか達成できた。いいタイムも出せた。土曜日は、このタイヤがあの状況にどれだけ対応できるかを見るために、かなりプッシュした場所もあった。だから、得られたものは好素材ばかりだ。できればフィンランドまでにさらに開発を進め、サルディニアとは違うタイヤを使えるようにしたい。
MRFのライバルでは、最近、タイヤで興味深い特徴、特にミシュランタイヤでは、ドライバーはできる限りソフトコンパウンドを使おうとしている。これは、MRFでも同じか。それとも彼らのアプローチが斬新なのか。
GG:MRFのタイヤは全く異なり、他のラリーでどのように発揮するか全く分からない。自分たちの目標は、出来る限りのデータを集め、他のドライバーが何を求めているかを把握することだ。これは成長の一環であり、みんなが何を求めているのか、それがどうなるのかを理解しようとしている。しかし、サルディニアでは、ハードタイヤが向いている部分もたくさんあった。ステージが長い場合もあるし、同時にトラクションの発生量も多い。
最後に、今後のプログラムについては。
GG:サルディニアを終えて、フィンランドに行く可能性はかなり高いが、トルコになるかもしれない。それから、GBとオーストラリア。今年は、残っているグラベルラリーすべてだ。そして来年は、WRC2に登録してすべてのグラベルラリーに参戦できたらいいね。
(Martin Holmes)