コ・ドライバーとしてラリー競技に関わり始めた後、WRC創成期からラリージャーナリストとして活動を続けてきたマーティン・ホームズ氏が6月11日、長年にわたるガンとの闘病の末に逝去した。4月25日に80歳の誕生日を迎えたばかりだった。
英国南部サリー州アシュテッドに生まれたホームズ氏は弁護士になるために勉強を続けてきたが、プロのコ・ドライバーになるという目標を見つけた後、1974年にジャーナリストに転身した。生涯を通じて飛行機、地図、エンジニアリング、旅行に情熱を傾けたほか、豊富な知識を誇るラリーを愛し、仕事としても深く関わった。
サウザンプトン大学で法律を学んでいる時にラリーと出会ったホームズ氏は、1959年に初めてラリーに参戦。このイベントで優勝を飾っている。60年代序盤、ラリーのメッカであるロンドン南部のサットン&チーム・モータークラブに加入し、ラリーに夢中になった。熱心に手紙を書き続けた末に同クラブが英国中のラリーに招待を受けるようになると、クラブが発行する「スポットライト」誌でホームズ氏は連載を持つようになるほか、時には編集者としても活躍した。ほどなくして人気タブロイド紙「モーターリングニュース」のラリーレポーターとして起用されるようになったが、活動の中心となったのは「オートスポーツ」誌だった。
1962年に初めて“本格的な”ラリーにMiniのバンで参戦し、ここでも優勝。1964年には初めてRACラリーに参戦した(フォード・アングリア1200)。1971年に英国ラリー選手権のコ・ドライバーチャンピオン(フォード・エスコートRS1600 Mk1)になった後、サンレモ(ランチア・ベータ・クーペ)とポルトガル(ダットサン・バイオレット160J)で4位に入賞。RACでは5位に2回(トヨタ・カローラ、ルノー5ターボ)入っている。最後に競技に参戦したのもRACで、この1981年はプライベーターが多く参戦していたほか、ワークスエントリーもフォード、トヨタ、ルノー、シュコダ、ダットサン、ランチア、ボクスホールと堂々の顔ぶれが揃っていた。
著書も多く残したホームズ氏にとって、初めての本は「Rally Navigation」(1975年、1997年)だった。その後、1978年には「Rallying」をカメラマンのヒュー・ビショップと共著。翌年には「World Rallying 1」を発行し、1979年のWRCを網羅した。偶然にも、この年はWRCにドライバーズ選手権が創設されていた。「World Rallying」はその後33年間、毎年発行され、ホームズ氏の代表作となった。1987年には自身が発行者も務めている。このシリーズは、2010シーズンを扱った「World Rallying 33」が最後の発行となった。ホームズ氏が最後に関わった本、「The Great British Rally: RAC to Rally GB」(2019年末に発行)は、グラハム・ロブソンとの共著だった。
ホームズ氏と活動をともにしてきた仲間には、カメラマンのモーリス・セルドン、コ・ドライバー仲間のケビン・ゴームリー、秘書のウースラ・パルトリッジがおり、このチームは毎年恒例の本だけでなく、長年にわたり、ラリーのレポートや写真、ニュースを世界中のモータースポーツ雑誌に供給してきた。
ホームズ氏が取材のうえで重点を置いたことは、次に何が起こるのか、最新の技術は、どんな若手ドライバーが次に台頭してくるのか、ということだった。ホームズ氏の強みは、ラリーを内からも外からも熟知していること、何に着目するべきかを把握していること、適切な質問をぶつけること、準備をしっかり整えておくこと、瞬間を逃さないこと、真摯な回答が得られにくいと分かっている質問はしないことだった。ホームズ氏は、参戦者とジャーナリストの間には信頼を築くことができると信じていた。
「自分にウソをつくような人とは、成熟した関係を築くことはできない!」
近年は家族や自身の健康面から取材に出かける機会は減っていたが、自身の口から「引退」という言葉は出さず、「ノンビリやろう」という言葉も忌み嫌った。英国の自宅から、インターネット、ラリーラジオ、WRC+ AllLive、電話を駆使して、世界で起きていることの情報を精力的に収集し続けた。ホームズ氏が最後に帯同したWRC戦は2019年のラリードイツで、これが自身520回目のWRC戦だった。
ホームズ氏は、サリー夫人と結婚した後は、英国のあらゆるカテゴリーのモータースポーツの中心地として長く知られるウォキングに在住。そのサリー夫人は、2017年にこの世を去っている。ホームズ氏は息子ひとり、3人の孫娘に恵まれた。
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RALLY PLUS、RALLY CARS、プレイドライブ誌にも数々の記事や貴重な写真を提供してくださったマーティン・ホームズ氏。ご生前のご厚情に深く感謝するとともに、故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。