世界ラリークロス選手権が展開する電動マシンシリーズのプロジェクトE(Projekt E)でテクニカルパートナーを務めるSTARD(Stohl Advanced Research and Development)が、フル電動ラリークロスマシンでの初勝利をマークした。世界ラリークロス選手権は、2022年にフル電動マシンの導入を予定している。
マンフレッド・ストール率いるSTARDが参戦したこのイベントは、7月10‐12日にハンガリーで開催されたハンガリーラリークロス選手権のカクチス戦で、ストール自身がドライバーを務めた。
オーストリアのウィーン近郊に拠点を置くSTARDは、独自の電動モータースポーツ用パワートレインの開発に10年近く取り組んできた。5年前には電動ラリーマシンと電動ラリークロスマシンのプロトタイプ、HIPERを製作し、テストイベントで勝利をマークしている。2019年には世界ラリークロス選手権のラトビアで、STARDのパワートレインシステム、REVelutionを投入した最新鋭の電動ラリークロスマシンを初めて公の場に登場させた。このマシンが、今年、世界ラリークロス戦との併催イベントスタートするProjekt Eシリーズで使用される。
このProjekt E用のREVelution電動キットは合計450kW (613bhp)を発生。ハイパフォーマンスのフィエスタ用電動モーターを3つ使用してのトップスピードは240km/hで、瞬間トルクは1000Nmに達するほか、4輪駆動システムと2速トランスミッションを備える。
ハンガリーラリークロス選手権の一戦として開催されたカクチスで、STARDはフル電動ラリークロスマシンであるフォード・フィエスタElectRXを初めて公の場に登場させた。このイベントでのSTARDのプランはシステムの実証のみで、テストで得られたデータを使い、2020年のProjekt Eシリーズに備えるためのものだった。しかし、自社製のシャシーでセットアップを煮詰めてはおらず、週末を通して新品タイヤを使うこともなかったにも関わらず、2回目のフリープラクティスから優勝争いのチャンスが見えてくるほどのパフォーマンスを発揮した。
チームは週末を通してテストのプログラムを続けており、イベント自体は非常に暑いコンディションとなったが、ストールは3回行われた予選の1回で最速タイムをマークすると、セミファイナルでトップフィニッシュ。そしてファイナルでも、ハンガリーのラリークロススターで600馬力のICEを搭載したスーパーカー仕様マシンを駆るタマス・カライとの激戦を制して、電動ラリークロスマシンにとって歴史的な勝利を収めた。
ストールは「昨年、ラトビアで使ったREVelutionコンセプトの初めてのマシンを完成させて以来、ユーザーにとって使いやすいことを念頭におきながらパワートレインシステムの機能性のリファインや最適化を続けてきた」と語る。
「今回のカクチスでの自分の主なターゲットは、実際のレースで競技環境のなかで、ドライバー目線で実証を行い、最終的な仕様を固めることだった。レースではシャシーパフォーマンスには一切、重点を置かなかった。しかし、昨年の9月からこのマシンをテストしてくれた、かけがえのないプロフェッショナルなドライバーたちからのフィードバックのおかげで、このパワートレインシステムのドライバビリティは、正直、異次元のものになった」
「2015年に初めて披露したマシンから、格段に改良されている。このフィエスタElectRXのドライブは、これまでのどのマシンよりも喜びを与えてくれた。ポディウムの真ん中にまた立つことができたなんて信じられないよ。それも、このマシンと一緒にね。我々は、ハンガリーで歴史を作った。この勝利は、我々のチーム、このプロジェクトに必死で取り組んでくれたすべての人たちのおかげだ。また、このマシンを国内戦レベルのイベントに参戦することを実現させてくれたハンガリーモータースポーツ連盟 (MNASZ) にも、心から感謝しなくてはならない。彼らからのサポートは素晴らしかった」
STARDの創設者でCEOを務めるミハエル・サコビッツは「2020年、世界全体が非常に奇妙な環境を強いられてから、レースに戻ることができたのは特別な思い。そして、我々のフィエスタElectRXは、パドックでも他のチームや観客から非常にポジティブに反応してもらった」と語る。
「今回は、ここまでの作業を実証するために参戦したが、レースのリザルトが華を添えてくれた。このコンセプトには、我々全員が情熱と信念を持って取り組んでいる。そして、これからももっと歴史を作ってくれたら、これほどうれしいことはない。実戦でのテストでは、35度を超える非常に暑いコンディションだったが、すべての機能が完璧に動いたので、私もマンフレッドも、チームの働きにとても満足しているし誇りに思っている。バッテリーシステム、電装系、VCU(Vehicle Control Unit)のソフトまで全体を社内で開発していることが、鍵となる要素。このような大きなプロジェクトを、効率的に順調に進めることができているということは、誇るべき事実だ」