2010年以来のWRC日本戦を今季のシーズン最終戦として開催する予定となっていたラリージャパンは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響による日本の入国制限のために開催が中止。最終戦の役目は、11月19‐22日にベルギーで開催されるオールターマックのイプルーラリーが引き継ぐことになった。
これまでWRC戦を開催したことがないベルギーだが、イプルーラリーは参加者から高い支持を得ており、ベルギーの英雄であるヒュンダイのワークスドライバー、ティエリー・ヌービルも過去にこのイベントを制している。
ベルギーは、1973年に初めてWRCが開催されて以来、34カ国目の開催国となる。WRCプロモーターが発行したリリースのなかで、自身もベルギー出身であるFIAラリーディレクター、イブ・マトンは「パンデミックの影響でラリージャパンが開催できなくなったことは、非常に残念だ。とりわけ、ここまで大変な努力を尽くしてくれたJAFと主催者に心から感謝したい」とコメントしている。ラリージャパンの10年におよぶWRC休止期間がもう1年さらに延長されることには主催者も失望していることだろう。しかし、2021年のWRCカレンダーには、まだ日程は発表されていないものの、すでに決定した開催9カ国の中に日本の名前も入っている。
排水溝や電信柱が立ち並ぶナローな農道が特徴であるイプルーラリーの運営を指揮するのは、ヒュンダイのチームマネージャーも務めるアラン・ペナス。イベントの中心となるのは、イプルー市街地の市場広場であるグロート・マルクトで、ここにはサービスパークも設置される。
ベルギー西部に位置するイプルーは、第一次世界大戦中、数々の戦いの主戦場となり、数千人の命がこの地で失われた。イプルーラリーは伝統的に6月下旬に開催されてきたが、今年はCOVID-19の影響を受けて10月3‐4日に延期。その後、先行き不透明な今季のリザーブイベントとしてWRC開催の可能性が高まり、この時点ではFIA世界ラリークロス選手権と同じ週末にスパ・フランコルシャンで最終日を迎えるプランも浮上していた。WRCとWRXの併催は実現をみなかったが、11月22日(日)のイプルーラリーの最終日は変わらず、スパ・フランコルシャンが舞台となると発表されており、今シーズンのWRCはベルギーの名門サーキットで最終ステージを迎えることになる。
一方、イプルーラリーの開催を実現するためにラリートルコは会期を1週間早めているが、この理由としてペナスは「グロート・マルクトを使用できる日程がほかにないため、10月の第1週末に開催しなければならない」と主張していた。しかし、ラリージャパンが中止となりイプルーラリーの会期が移ったことで、エストニア、トルコ、ベルギー、ドイツ、サルディニアと、各チームが懸念を表していた過密スケジュールの問題も落ち着きそうだ。
イプルーラリーは、2016年まで長年、ERCの名門イベントとして開催されていたが、インターコンチネンタル・ラリーチャレンジ(IRC)の台頭でエントリー数の減少を懸念した主催者のクラブ・スーパーステージが、ERCプロモーターを努めるユーロスポーツ・イベンツにプロモーター料を支払わないことを決定。ペナスの指示のもと、クラブスーパーステージは下位レベルのツアーヨーロピアンラリーシリーズと英国ラリー選手権との併催するかたちを選んだが、IRCがなくなり2017年にERCが勢いを取り戻し始めた時点で、この選択は裏目に出た形となった。今季は英国選手権がシリーズとしてキャンセルとなっていることから、WRC開催が合意に至らなかった場合、今年のイプルーラリーはベルギー選手権からのエントリーのみで開催されていただろう。
イプルーラリーの主催委員会のひとり、ヤン・ヒューグは「ラリーの最高峰シリーズの開催にたどりついたことは、大変な名誉だ」と語った。クラブ・スーパーステージとWRCプロモーターの間の契約期間については今回の発表の中で言及されていないが、当面は1年のみの契約となる模様だ。
(Graham Lister)