全日本ラリー選手権第9戦ラリー北海道は、9月12日(土)の初日を終え、JN1クラスはスバルWRX STIの新井大輝/小坂典嵩がトップ。2番手に2.1秒差で新井敏弘/田中直哉、3番手に8.1秒差で鎌田卓麻/鈴木裕、4番手には27.9秒差で三菱ランサーエボリューションの奴田原文雄/佐藤忠宜と、上位3台のスバル勢が突出したスピードを見せている。
2020年のラリー北海道は、新型コロナウイルスの影響で無観客での開催となった。帯広市の北愛国交流広場に設けられたサービスパークに出入りする関係者は都度、手指の消毒や検温、北海道コロナ通知システムへの登録なども行われた。日程も短縮され、例年であれば金曜日の夕方に行われるラリーショーやセレモニアルスタートなどのイベントは一切なし。さらに今大会ではラリーがスタートするまで、全体マップやアイテナリーなども関係者のみにとどめられるなど、開催地域となる各市町への配慮も含んだ方策が採られることとなり、ラリーは12日(土)の早朝、静かに幕を開けた。
ラリー初日となる12日(土)に行われるのはSS1〜SS8までの計8SS、74.66km。例年どおり陸別にリモートサービスが置かれ、林道ステージ2本を3回、陸別オフロードサーキットを2回走行する。多くの選手がポイントとして挙げていたのは、新しいSSの「ヤヨイ」。狭くハイスピードで、3回走行するため路面も荒れる箇所が出てくることが懸念された。
激戦区のJN1クラスは、SS1ヌプリパケで鎌田がベストタイムをマーク。前戦丹後での勝利の余勢を駆って、地元北海道でも勝ちを狙いたいところだ。ところがSS2ヤヨイでは、新井敏弘が一番時計をたたき出し、総合順位でもトップに躍り出る。しかし鎌田は落ちついてSS3リクベツを制し、再びラリーリーダーの座に。午後のSSでもこの傾向は変わらず、ロングステージのSS4ヌプリパケでは鎌田、SS5ヤヨイでは新井敏弘、SS6リクベツでは鎌田がそれぞれベストタイムを刻む。2度目の陸別リモートサービスに戻ってきた段階で、首位鎌田と2番手新井敏弘の差は7秒に拡大していた。流れが変わったのが3ループ目となるSS7ヌプリパケ。ここで新井大輝が今大会初のベストタイムをマークし、総合2番手に浮上。鎌田の首位は揺るがず、ラリーはこの日最後のSS8ヤヨイへ。新井大輝は連続ベストタイムをマーク。一方の鎌田はまさかの駆動系トラブルに見舞われてしまい、タイムロスを喫して総合3番手に後退するハメになってしまった。これで首位に新井大輝、2番手に新井敏弘、3番手に鎌田、4番手に奴田原というオーダーに。
初日を首位でまとめた新井大輝は「最後の2本、特にSS8のヤヨイは必死に踏みました。明日は様子を見ているとやられてしまうので、最初からプッシュします。2回目のサービスでは足まわりを硬めに変更しました。かなり乗りにくいんですけが、現時点のベストなので、明日もこのままのセットアップでいきます」と、逃げ切りを狙う。一方の鎌田は「最後の最後で駆動系トラブルが発生してしまいました」と悔しさを覗かせる。「2回目のサービスでセットを入れ替え、調子良く走っていたんですが……。攻めたうえなので仕方ないです。明日はまだ僅差ですから頑張ります」と、スプリントラリーとなった北海道での逆転を誓った。
今回は4台が参戦するJN2クラス。シビック・タイプRユーロの上原淳/漆戸あゆみがSS1、2と連続ベストタイムをマークし、リードを築いていく。SS3はGT86 CS-R3に乗る中平勝也/石川恭啓が制するものの、上原は続くSS4〜SS8まで5連続ベストタイムをたたき出し、2番手の中平に50秒近い差をつけてこの日を終えた。3番手にはトヨタ・ヴィッツGRMNの中村英一/大矢啓太、4番手にはシトロエンDS3 R3Tの山村孝之/井沢幹昌という順位になっている。
トップの上原は「最初の方はグラベルの走り方を思い出すのが大変でしたが、2ループ目からようやく調子がでてきました。でも完走命令が出ているので、無理はせず、でも……という葛藤でしたね。すぐ上に山本(悠太)選手がいるので、攻めたくなりますね。密かに狙っていますが、チーム全員から『やめろ』と言われています」と笑顔で語っている。
JN3クラスはトヨタ86とスバルBRZがメイン。SS1で総合7番手タイムをたたき出し周囲を驚かせたのは、86の大竹直生/藤田めぐみだ。大竹はヌタハラ・ラリースクール・ジュニアチームの卒業生で、そのポテンシャルを披露するかたちとなった。しかしSS2以降は86の山本悠太/山本磨美、同じく86の曽根崇仁/竹原静香らもペースアップ。じわじわとタイム差を詰め、SS7を終えた段階で、山本が1.8秒差ながら大竹を逆転してクラス首位に浮上する。そして、この日最後のSS8で大竹は横転を喫し、万事休す。これで首位山本、2番手曽根、3番手に長﨑雅志/秋田典昭(トヨタ86)というトップ3となった。
2番手の曽根に対して42.5秒というマージンを築いた山本は、「安定して走れました。SS1が悪かったので、その分を少しずつ詰めていく感じでした。でもベストタイムを刻めていたので良かったです。最後のSSでは競っていた大竹選手がリタイアしてしまったため、明日は走るリズムが変わりそうですが、あまり考えすぎずに落ち着いて走りたいです」と、この日のラリーを振り返った。
ダイハツ・ブーンX4とスズキ・スイフトスポーツの接戦と目されたJN4クラスだが、SS1でベストタイムを奪ったのはホンダ・シビック・タイプRユーロの香川秀樹/松浦俊朗。ところが香川はこのSSで2速ギヤにトラブルがあり、ペースを抑えざるを得ない状況に。代わってトップに立ったのはブーンX4の小倉雅俊/平山真理。小倉は古川寛/廣田幸子(スズキ・スイフトスポーツ)と僅差のバトルを展開していたが、最終的には古川が競り勝ち、7.5秒のリードでこの日を終えた。3番手には須藤浩志/新井正和(スズキ・スイフトスポーツ)がつけている。
古川は、「1年ぶりのダートなので、色々とセッティングが足りてないない部分を、ひとつずつ潰している感じでした。絶対に完走しなければならないので、安全マージンを取っていますが、それなりのタイムで上がれているかなと。明日はスイフト向きのステージでしっかり勝負して、なんとか優勝したいです。そうするとラリー北海道3連覇なので」と、意気込みを語った。
今大会最多の12台が参戦するJN5クラスは、トヨタ・ヤリスの小濱勇希/東駿吾が序盤から快走。2番手には大倉聡/豊田耕司(トヨタ・ヴィッツCVT)、3番手には地元北海道出身の松倉拓郎/岩淵亜子(マツダ・デミオ)、4番手に天野智之/井上裕紀子(トヨタ・ヴィッツGRスポーツ)と続く。松倉はこの日の最終SSで他を圧倒する一番時計をたたき出すが、順位は変わらず。8SS中5SSでベストタイムをマークした小濱が2番手大倉に20秒以上の差をつけてラリーをリードしている。
小濱は「クルマが軽く、ノーマルボディでも剛性が高いので、ハイスピードでのコントロール性が本当に良いです。ただ、いちど回転が落ち込むとパワーバンドに戻すのがすごく難しい。スピードが乗るサーキットのようなコースは速いですね。明日はパウセカムイで離して、オトフケはしっかり抑えようと思っています」と、ヤリスのグラベルでのスピードに自信を覗かせた。
JN6クラスは明治慎太郎/里中謙太(トヨタ・ヴィッツCVT)が、2番手に水原亜利沙/竹下紀子(トヨタ・ヤリスCVT)、3番手にグラベルラリー初参戦の海老原孝敬/遠藤彰(トヨタ・アクア)を従えてリードを拡大していく。明治はSS5こそ水原にベストを奪われるものの、その他のSSをすべてベストタイムでまとめ、クラス首位の座を守り切っている。
2番手水原に対して56秒というリードを築いた明治は「クルマはほぼぶっつけ本番で、エンジンが掛からなくなったり、不具合がちょろちょろと出ているんですが、幸い大きな問題にはなりませんでした。リードを広げることができましたが、まずは完走が第一なので、無理せずリードを保ちながらフィニッシュできたらいいですね」と、慎重なコメント。
なお、併催されている国際格式部門では、福永修/齊田美早子(三菱ランサーエボリューション)が2番手の今井聡/伊勢谷巧(三菱ランサーエボリューション)に対して2分39秒7のリードを築き、首位を快走。3番手には、12年ぶりの参戦という吉谷久俊/高田新二(三菱ランサーエボリューションⅨ)がつけている。
ラリー2日目は、2SSを2回ループする4SSが設定されている。ステージはテクニカルなオトフケ・リバース(6.12km)と、パウセカムイ(10.40km)。泣いても笑っても33.04kmでの決着となるスプリント勝負だが、翌日にかけて降雨の予報もあり、難しいコンディションとなれば、勝負の行方が見えなくなる可能性も高い。
ラリー北海道 レグ1終了時点結果
1. 新井大輝/小坂典嵩(スバルWRX STI) 45:49.3
2. 新井敏弘/田中直哉(スバルWRX STI) +2.1
3. 鎌田卓麻/鈴木裕(スバルWRX STI) +8.1
4. 奴田原文雄/佐藤忠宜(三菱ランサーエボリューションX) +27.9
5. 堀田信/河西晴雄(三菱ランサーエボリューションX) +4:37.7
6. 山本悠太/山本磨美(トヨタ86) +5:09.8
7. 上原淳/漆戸あゆみ(ホンダ・シビック・タイプRユーロ) +5:19.0
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9. 小濱勇希/東駿吾(トヨタ・ヤリス) +5:58.8
15. 古川寛/廣田幸子(スズキ・スイフトスポーツ) +6:45.4
33. 明治慎太郎/里中謙太(トヨタ・ヴィッツCVT) +14:18.5