WRCラリーモンツァのシェイクダウン後に行われたプレイベントカンファレンスの内容(抜粋)。選手権リーダーとして、初の世界タイトルに王手をかけて最終戦を迎えるエバンス。しかし、モンツァ周辺が予想外の大雪に見舞われたことで、これまでの備えをよそに計画が大幅に狂った状況を語った。
●WRCプレイベントカンファレンス出席者
エルフィン・エバンス=EE(トヨタ・ガズー・レーシングWRT)
ティエリー・ヌービル=TN(ヒュンダイ・シェル・モビスWRT)
オィット・タナック=OT(ヒュンダイ・シェル・モビスWRT)
リチャード・ミルナー=RM(Mスポーツ・フォードWRTチーム代表)
Q:エルフィン、選手権リーダーとして最終戦を迎える。もう何百万回もこの質問に答えてきたかもしれないが、この週末、これを聞かれるのは最後になると思う。選手権首位で最終戦を迎え、初のタイトル獲得も視野に入っている今の気分は。プレッシャーはあるか
EE:今のフィーリングはかなりいい。とにかく、仕事をするために粛々と準備をするだけ。もちろん大きな仕事だし、簡単にことが運ぶとも思っていない。自分の仕事に専念して、今回できる限りの成果を得られたらいいね。
Q:金曜日はサーキットでのステージなので、多くの人が最終戦としては楽なラリーになると考えていたのではないかと思うが、天候がかなり悪化して今はそれが悩みの種になっているのでは。今日の雪の中でのレッキはどうだったか
EE:言うまでもなく、もうかなり難しい状況だったよ。雨が降り出した時は、もう少しウエットになるだろう、少なくともドライじゃないなと思った。サーキットの周辺はそもそもトリッキーだったからね。でも、もちろん雪が降り出してレッキはかなり難しくなった。自分たちにとって新しいステージでもあるので、その点も今日のトリッキーな部分だった。それに、ここのグラベルセクションも、かなり興味深い要素だね。だから、注意を払わなくてはならないことがたくさんあるよ。
Q:テストに関して言えば、これまでのモンツァラリーの参戦やターマックラリーでの経験は、このコンディションでは活かすことはできないのか
EE:正直、モンテカルロのノートを読み返して、今の状況に近いものはないか見つけなくてはならないと思う。マシンでのテストはとてもいい内容だったが、今となっては今回の週末に活かせるようなことはなさそうだ。テストは完全ドライでいいコンディションだったけど、ここではそうなりそうもない。だから、モンテやモンツァラリーで学んだことを使うしかない。
Q:プレッシャーについて聞きたい。いま、隣に座っているチームメイトは心理戦に強いことで知られる。心理的な悪魔、それがセバスチャン・オジエだ。ここまで、その兆候はあったか
EE:故意的にそんなことされてはいない。いずれにしても、彼はいい走りをするドライバーだし、そんなことは……あ〜、するのかな?
SO:気付いていないだけなのかも?
EE:いや、彼はここまで正々堂々と闘っているよ。だから……大丈夫、問題ないよ。
Q:いろいろな意味で大事な週末となる。ドライバーズタイトルはもちろんだが、マニュファクチャラーズタイトルを獲得することも非常に重要だ。この点についてはどれくらい意識しているか
EE:どちらのタイトルも同じ(くらい重要)だ。基本的に、どちらもいいリザルトを収めた者が獲得できる。シンプルな話だ。冷静を保って自分たちができる限りの好リザルトを収めるしかないし、チームとしてもそれは同じだ。だから、今回は最善の結果を得るために完全集中でいく。
Q:ありがとうエルフィン。次は心理戦の悪魔(笑)、セバスチャン・オジエ
SO:本当にみんながそう言っているの?
Q:もしヤリ‐マティ(ラトバラ)がここにいたら、きっとその話をしてくれると思うよ。オィット、きみは経験があるんじゃない?
OT:きみが言っているのはヤリ‐マティのことなんじゃないかな。
Q:ヤリ‐マティは一番影響を受けたドライバーだと思うけどね。セブ、きみには覚えがあるだろう
SO:分かった、分かったよ。
Q:きみにも今の気持ちを聞きたい。これまでに同じような立場に立ってきた。この大一番で、最高の走りを披露しなくてはならない。今回、タイトルを獲るにふさわしい走りができると感じているか
SO:自分のチャンスを信じていることは間違いないし、もちろん、それを実現するためにすべてを尽くす。でも、本当のことを言えば、エルフィンのいる順位で14ポイントのリードを握っていた方が自分は好きだ。残念ながらそうはならなかったから、今の状況に対応するしかない。でも、このようなトリッキーな週末になっているので、誰にとっても楽にはならないと思う。とはいえ、自分は選手権2番手だから失うものは何もない。もちろん、きみがさっき言ったようにマニュファクチャラーズタイトルも重要だし、そのためにも全力を尽くす。でも、エルフィンも言ったように、僕らは連携している。自分としては、自分自身のために今回は優勝が必要だし、自分がそれを実現できれば、チームのためにも最高の結果だ。だから、重要な週末であることは事実だが、何よりもここに来られて、この特別なシーズンを終える機会を得たことを全員が喜んでいると思う。
Q: 今回は名門モンツァサーキットをベースに、山の方にもステージが設定されるが、こうしたイベントはこれまでとどう違うか。雪のために最高のステージとはならないかもしれないが、選手権の通常のラリーと比較してどう違うのか
SO:とても対照的だが、両方がミックスされて内容のあるイベントだと思うし、非常に興味深いチャレンジだ。さっきも触れていたが、サーキットでラリーをやるのは本質とは異なるのではと考える人もいるかもしれない。でも、実際は、こんな天気になったこともあるし、通常のラリーよりももっと厳しくなるかもしれない。今回はいろいろなコンディションに直面するんじゃないかと考えている。サーキットでさえマッドがたくさんあるし、山の方ではたぶん、霧が出てすごくトリッキーなセクションもあると思う。予想される天気から見て、どちらのデイもトリッキーだと考えている。雲が交差する時間帯もありそうなので、そこでも何か起こりそうだ。雨も予報されているし、たぶん雪も降るだろうから、タイヤチョイスは簡単にはいかない。たくさんサプライズが起こりそうだから、それに対応していかなくてはならない。
Q: ティエリー、選手権3番手につけている。イベントに関してはセブがすべて話してくれたが、今年のWRC戦で一番トリッキーなイベントになりそうか
TN:一番トリッキーとは言えないかな。もちろん、天気の件が大きいのでチャレンジングなイベントにはなると思うが、他にももっとチャレンジングなラリーはあった。特にモンテカルロや、他のイベントの方が距離が長かったし、ステージももっとチャレンジングだった。それでも、今回はタイヤチョイスが重要になりそうだ。もし雪も降れば、マシンを道の上に留めることが本当に難しくなるが、ステージ自体はとても面白そうだ。コンディションがある程度イコールになればタイムはとても僅差になると思う。特にサーキットのステージはね。でも、全員にとって興味深いチャレンジだ。他のWRCとは少しアプローチが違うからね。
Q: どのような意味でアプローチが違うのか
TN:ここでの自分の経験から言えば、モンツァラリーショーでは、ステージのタイム差はとても小さかった。WRCの経験がないドライバーでもギャップはとても小さかったので、明日からタフな戦いが始まることは間違いないと思う。それに、グラベルもあることでよりトリッキーなコンディションになるの。路面の変化もあるし、そもそも、土曜日に向けて全員が金曜日に最善のポジションにつけるために挑んでいかなくてはならないからね。
Q: タイトルチャンスに関して、計算上はここにいる4人全員に可能性がある。しかし、現実的には自身ではどう考えているか
TN:正直、自分が主軸に置いているのは、マニュファクチャラーズタイトルを決めること。その戦いは激戦だと思う。トヨタは強敵だからね。ドライバーズタイトルについては、3番手としてベストを尽くす。もちろん、イープルの開催がキャンセルになったことでチャンスは大幅に減ってしまったが。だから、今回の自分のターゲットは、ラリーで勝って、最大限のマニュファクチャラーズポイントを持ち帰ること。それ以外のことは、自分自身でどうにかできることではないと思う。
Q:オィット、現世界チャンピオン。みんなも言っているようにチャレンジングな週末になりそうだが、金曜日に関して、みんなが土曜日に雪が降る可能性を意識しているから、君も土曜日の朝を先頭でスタートしたくはないだろう。そのためには金曜日は全開で攻めなくてはならないと思うが、どうか
OT:どちらにしても、それ以外ないと思うね。特に、ドライバーズタイトルや、ティエリーも言ったようにマニュファクチャラーズタイトルがかかっているのだから、いろいろな点で争われる。だから、ドライブスルーのような走りは選択肢にはないってことだね。
Q:今回のモンツァ全体のルートについて、どう考えるか。レッキで全部のステージを確認してきたと思うが
OT:もし晴れていればちょっと違った見方になると思う。とにかく楽しめるコースだと思った。でも今の状態で言えば、すべての可能性がある。このようなコンディションでは、どんな状況にもなり得る。自分たちのドライバーズタイトルの可能性はほぼないに等しいが、でも、これまでも見てきたようにどんなことが起きても不思議ではないし、もちろん、自分たちが最優先するのはマニュファクチャラーズタイトルだ。でも、同時に、自分たちはベストを尽くして最大ポイントを目指すし、その上で結果を待つ。でも今は、この先2日間の天気予報を見れば、自分たちには失うものは何もないが、可能性は大いに残されているので、今の段階でどうなるのか、どんな結果になるのかを予想するのは難しい。
Q:エルフィンと同じ質問になるが、イベント前のテストは無意味になったと思うか、それとも何かの意味はあるか
OT:先週、イベント前テストをやった時と比べれば、テストは晴れてとてもよかったけど、今はまったく違う。だから、それと比べれば、あそこから得られるものは何もないかな。
Q:この1年を振り返ると…世界中の誰にとっても信じられないほど厳しい1年になったと思うが、自分のシーズンを振り返って自分をどう評価するか
OT:シーズンのどこを振り返ればいいのか、難しいね。シーズンの序盤は3戦あって、そこで半年くらいブレイクがあり、その後3戦やって、これから最後の1戦。もちろん、どのイベントでもベストを尽くしてきたが、それでも結局はいつもとはまったく違う、特別な1年だったというに尽きるかな。
Q:次はMスポーツ・フォードのリチャード・ミルナー。Mスポーツの話をする前に、オィットがMスポーツを離れて、タイトルを獲った。エルフィンもチームを離れて、選手権タイトルのチャンスを握っている。このことについて、少しモヤモヤしたりしているか
RM:もっと早くこのことを教えてくれていれば、チームの1−2として入ってくれと言っていただろうね。でも、それはタイミングの問題だから、モヤっとはしないね。今回タイトルを争う、全員の健闘を祈っている。残念ながら、我々はそこには絡んではいないが、我々の視点から言えば本当に注目の一戦になると思うし、たくさんのドラマが待っていると思う。本当に難しいシーズンだったが、最高の締めくくりを迎えられそうだ。ここにいる全員が、この数日間に何が起こるのか楽しみにしている。
Q:今季はエサペッカ・ラッピが加入し、テーム・スニネン、ガス・グリーンスミスという布陣だった。競技面に関して振り返り、ドライバーたちをどう評価するか
RM:最初の3戦はよかったし、自分たちもうまく前進できたしメキシコではポディウムにも上がった。残念ながらマシンが全焼してしまい、1台を失ってしまったので、COVIDの関係もありこれでシナリオが大きく狂ってしまった。Mスポーツとしては、これでかなり時間を取られてしまったので、思うようにテストができず、それでも各戦に参戦してベストを尽くすしかなかったが、思うようなペースが出せなかった。イープルでいい戦いができることを期待して、そこではテストも計画していたが、残念ながらキャンセルになってしまった。だから、今年は自分たちができることを尽くしてきたし、あらためて集中することに努めた。もう少し一貫性があれば、来年、また集中できると願いたいね。
Q:来年、Mスポーツは戻ってくるんですよね?
RM:そう願っているよ。そうでなければ、やることが山積みになる。
QQ:Mスポーツは来年も戻ってくる。ドライバーのラインナップは気にしてはいないのか
RM:自分たちはラッキーな立場にあって、それほどプッシュせずに済んでいる。他の2チームはここまで、ラインナップを固めるためにかなり奔走している。自分たちは、それほど選択肢が多くない。今週、それをしなくてはならないほど急ぐ必要はないと思うので、まずは今回のイベントを見届けてから、その件を進めるよ。
記者席からの質問
ジウリオ・セサーレ・マスペリ(ラ・ガゼッタ・デロ・スポーツ、イタリア)
Q:エルフィン、モンツァにはサーキットもグラベルセクションもあるが、一番難しいと思うステージはどれか
EE:それぞれに性格がある。今日の午後、レッキをしたパワーステージは、一番コンディションが悪かった。でも、逆方向に走るセクションもあるので、全体としては…少しサプライズンもあると思う。モンツァ周辺のステージ全体にね。
ライナー・クーン(モータースポーツ・アルクテル、ドイツ)
Q:ドライバー全員に、COVIDで厳しい状況のなか、ロンバルディ地方でラリーモンツァに参加していることをどう感じているか
EE:何が正解で間違っているのか、判断するのは難しいと思う。究極的には、自分が生きることが一番大切だし、仕事やそれ以外のことを進めなくてはならない時もある。FIAは、安全にラリーが運営されるために必要とされることはすべて確認してきていると確信している。最終的には彼らを信頼しなくてはならないし、ひとたび開催すると決まったのであれば、自分たちは自分たちの仕事に集中するだけ。だから、自分たちは安全な中で参加しているのだと、彼らを信じている。
SO:安全は確保されていると思う。無観客で開催していて、自分たちもほとんどの時間をチームエリアの中で過ごしている。これはとても重要なことだと思う。次に、自分が理解している限りでは、最近の状況はかなり悪かったが、今はかなり落ち着いてきて病院もあまり逼迫していないので、自分としてはそれが一番重要に感じている。そしてもちろん、自分たちはみんな、スポーツを続けるためにベストを尽くしているし、スポーツという点では、今回、ここに参加して、選手権を終えるチャンスを得られたことはよかったと思う。
TN:世界の動きが止まることはない。そうでなければならない。だから、自分たちもそうしていくし、みんなも言ったように、僕らがここにいるということは、すべてのルールを遵守してみんなが安全な状況にあるということ。自分たちが例となって決まりをリスペクトすれば生活を続けることができるのだと、世界に示さなくてはならないと思う。だから、そのことも、この週末に自分たちが目指していることでもある。ルールに従って示されたことをリスペクトすれば、不可能なことは何もないのだと。
OT:みんながたくさん言ってくれた。自分もそれに同感だ。
RM:みんな、とてもうまく伝えてくれたと思う。たくさんの人が、こうした問いかけを思い出すことが重要だと思う。でも、みんなが言ったように、多くの組織が安全だと判断したからこそ、イベントが行われている。本当に多くの人々がこのイベントを開催するために尽力したし、安全に開催することができていない場所にいる人々が、僕らが安全に開催することができるのかどうか、見届けてもらえればと思う。だから、自分たちが競技を行って、認められた状況の中でなら自分たちができることをやるというのは重要。自分たちは安全で、いい週末を過ごすためのすべてが整っていることをみんなが分かっている。