WRCエストニアのフィニッシュ後に行われたイベントカンファレンスの内容(抜粋)。ラリーではトヨタのカッレ・ロバンペラがWRC最年少優勝記録を塗り替えて初優勝をマークした。チームの監督を務めるヤリ‐マティ・ラトバラは、同郷の若手が自身の記録を破ったことに、ラリー大国の威厳を守ることができたと喜びと誇りを見せた。
●WRCイベント後記者会見 出席者
カッレ・ロバンペラ=KR(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
クレイグ・ブリーン=CB(ヒュンダイ・モータースポーツ)
ティエリー・ヌービル=TN(ヒュンダイ・モータースポーツ)
ヤリ‐マティ・ラトバラ=JML(トヨタ・ガズーレーシングWRTチーム代表)
Q:カッレ、WRC初優勝おめでとう。所属するトヨタのチーム代表、ヤリ‐マティ・ラトバラの記録を更新して、最年少でポディウムの頂点に立った。今の気分は。実感は湧いてきたか
KR:もちろん、本当に、本当にいい気分だ。この順位に到達するために、たくさんがんばってきたと思うし、この週末はクレイグと本当にいい戦いができたと思う。金曜日、彼はものすごくハードにプッシュしてきて、素晴らしいドライビングを見せていたので、この週末を勝てたらすごくいいだろうなと思った。
Q:土曜日最初のステージは信じられないようなペースで、リードを固めた。あの1本目のステージはどんな気分だったか、あの時点で勝つためのアドバンテージを十分広げられたのではと思ったか
KR:金曜日は本当に接戦だったが、土曜日の午前は最初のステージでギャップを大きくできたしループの残りでも何本かで差を広げたので、かなりギャップに余裕を持てるようになったから、そこからうまくコントロールができるようになった。
Q:今日はどんな気分だったか。ギャップは十分だったが、トリッキーなステージもあったのでは
KR:今日は、とにかくドライビングを楽しむことに徹していて、抑えすぎて下らないミスをしないようにしていた。順調だったよ。マシンのフィーリングはよくて驚くほどだったけど、大きなプレッシャーなどは感じていなかった。車内ではずっとすごく落ち着いていたからとても楽しめた。
Q:若いわりにはかなり落ち着いた性格だが、これで勝利が決まるというフライングフィニッシュに向かう時はどんな気分だったか
KR:もちろん、フィニッシュした時は、ついに勝利を決めて本当にホッとしたし、プレッシャーからも少し解放された。あの時点はすごくいい気分だった。
Q:聞き難い質問だが、感動の涙は
KR:なかったと思うよ。たぶん、その役目は父がしっかりやってくれたと思う。
Q:確かに。今後はもっとこの場面を再現することになるか
KR:そう願いたいね。そうなってくれたら支えにもなる。
Q:今後に向けて本当に大きな自信になるのでは
KR:もちろん。でも、まだまだ経験を積まなくてはならない。とにかく、この調子を続けて、いいドライビングをしてクリーンな戦いをして、さらに多くポディウムに上がっていくしかないと思う。
Q:クレイグ、今週は大健闘で、昨年の自己ベストタイ。スポット参戦でWRCのグラベルラリーは昨年のこのエストニアだったのに、素晴らしいペースを見せた。今年もポディウムに上がれると思っていたか
CB:もちろん、できる限りのベストを尽くすことを目指していたが、ラリーの前に何回も参戦が見送りになった。昨年はここで、みんなで好成績を残したが、それは新型コロナウイルスで6〜8カ月は活動が止まってしまった後だった。あの時はレベル的にはみんなも同じだと感じてはいたが、今年はみんなはグラベル3戦を戦ってきてエストニアを迎えたわけだから、自分としてはもっと難しくなると思っていた。でも、最終的にはかなりいい感じで戦えたのでとてもハッピーだ。
Q:土曜日、最初のステージでカッレのタイムを見た時、どう思ったか
CB:素晴らしいタイムだったね。本当に感銘を受けたし、特別以上のものだった。正直、自分もベストの走りをしたが、何かが間違っていた。あの時は、自分とポールの全力だった。半分は少しフラストレーションを感じたが、このものすごくナローな場所で道がよりトリッキーで、どうなっているか分からない時は、最後の1%でも出し切るのは難しいが、最後の0.5%だけでもそれが響いてしまう。無線でタイムを知った時、最初にポールに行ったことは「異次元だね」。だから、カッレに脱帽だ。
Q:金曜日は少し集中が乱される場面があり、何かがきみのラリーを邪魔しているかのようだった。ガス・グリーンスミスのダストにつかまり、マーシャルが速度を抑えるように指示を出す問題も起きた。それで気が散っていたようだったが、タイムを取り戻した。あのストレスのたまる状況で、ポール(ネイグル、コ・ドライバー)がきみの落ち着きを保とうとしていたようだが
CB:ポールが、自分をコントロールしようとするのは当然だ。金曜日は奇妙なことがあり、リズムを乱されるような本当に不可解なことが起きた。ガスの件もそうだったし、次のステージではガスが止まったが、マーシャルは道の真ん中で自分を止めようとしていた。50か100mくらいはリエゾンモードで走ったくらいだ。それから、ぜんぶ大丈夫だとわかったが、また気持ちを全開モードに切り替えるのは大変だった。その点では少しフラストレーションの溜まる日だったが、全体としてはかなり満足していた。午後は、いい走りができたし、午前中ほど走行順のアドバンテージはなかったが、金曜日の夜の時点での内容にはかなり満足して、土曜日に向けて前向きだった。でも、土曜日の午前は、この人(ロバンペラ)が、大仕事をやってのけたね。
Q:ティエリー、総合3位だが、金曜日の午前はパンクで苦戦し、午後に挽回してその後はオジエよりも上の順位を維持した。今回の結果には満足か
TN:そうだね、今回はタフな週末になると分かっていたからね。このような高速ラリーで、一番の戦いの山場でリスクを負えるほど最強の度胸は自分は持っていないからね。でも、自分の一番のターゲットはセバスチャン(オジエ)、エルフィン(エバンス)よりも上位でフィニッシュすることだったので、選手権争いの上ではかなりよくやったと思う。自分はまだギャップが少ない方でチャンスが大きく残っているから、今回は必死に戦って彼らよりも上にいたかった。残念ながら、最初のステージでパンクが1回あり15秒くらいロスをして、滑り出しは今ひとつだった。でも、土曜日に必死に挽回して、今日もオジエとのギャップを広げ続けることができたし、ふたりよりも多くパワーステージポイントも獲ることができた。
Q:昨日はずっとオジエを抑え続けていたが、最終日の午前は彼が追い上げをしないようにもっとプッシュしなくてはならないと感じていたか
TN:セバスチャンとは何回も何回も戦ってきたし、彼のことはよく知っている。最終日になっても彼がペースを落とさなくても驚かないし、やっぱり彼はその通りだった。自分たちも彼のタイムと張り合えたし、状況をうまくコントロールできた。常にもう少し速く行けるという手応えがあったが、それ以上にリスクを負うことはできなかった。自分たちの内容で充分だ。それでも、このラリーはタフだった。今日はテクニカルの問題があって車内ではかなりストレスを感じていて、始動しないことが2回あったし、TCにも遅れた。最終的にギャップは10秒だけになってしまった。セバスチャンよりも10秒以上差をつけなくてはならないと分かっていたから、パワーステージは自分たちにとってもすごく重要だった。
Q:TCの遅着は、スターターモーターのトラブルによるものか
TN:そうだ。
Q:次戦は母国ベルギーでのイープルラリー。名門イベントだ。どんな気分か
TN:本当に楽しみにしている。またアラン・ペナスに会いに行く。彼はこの週末、チームを率いてくれたが、また彼に会うことになる。チャレンジングなイベントだ。過去のラリーもよく知っているし、何度か参戦している。WRカーでもね。この経験が役に立つことを願うよ。イープルでもまた、上位争いをしたい。
Q:ヤリ‐マティ、WRC初優勝がどれだけ特別なものか、よく分かっていると思う。22歳だった2008年のスウェーデン、最年少でポディウムの頂点に上がった。いま、20歳の若手が記録を更新したが、記録は破られるためにあると言っていた。カッレが近いうちに成し遂げると思っていたか
J-ML:2020年の終わりのカッレのパフォーマンスを見た時点で、すでに彼は勝利を達成できると思っていたし、今季の初めにもカッレが勝つチャンスがあると信じているイベントがふたつあると話してきた。それはアークティックとエストニアだった。アークティックでもいい速さを出していたが、残念ながらマシンのセッティングがベストではなく、結局彼は優勝争いができなかった。でも、ここ4戦、彼にとって厳しいラリーが続いた後、彼のモチベーションは120%になって、初優勝するという情熱がシェイクダウンから感じられた。彼が勝ったことが本当にうれしいし、もちろん、自分の記録が破られたことも、とてもうれしいよ。WRCの最年少ウイナーはフィンランド人という伝統を守ることができたんだからね。
Q:カッレはすべてを備えているようだ。非常に落ち着いているが、今日見ていて緊張した場面はあったか
J-ML:カッレの落ち着きと忍耐力は、本当に素晴らしい。自分の初優勝の時は、こんなに落ち着いても、忍耐強くもなかった。おっしゃる通り彼はアイスマンのようだが、それは強力な武器になるし、コ・ドライバーのヨンネ(ハルットゥネン)もとても落ち着いている。ふたりとも素晴らしい仕事をしているし、勝つことだけでなく、1本1本のステージで最後までミスなく走り切った。言うことなしだよ。
Q:フィンランドの国全体としては、これで180回目のWRC優勝と素晴らしい戦績だが、カッレにとっては最初の優勝。今年、もっとこの場面は見られるか
J-ML:今回は、これからたくさん生まれる勝利の1回目。でも、カッレ自身も言ったとおり、まだ彼が出たことのないイベントもある。特に昨年は新型コロナウイルスの影響でシーズンは戦数が半分になってしまい彼が参戦できなかったラリーがたくさんある。WRC2マシンでは参戦したイベントもあるが、WRカーでの経験がない。だから、もう少し経験が必要になるイベントもあるかもしれない。でも、ラリーフィランドのようなラリーでは、優勝争いができると思う。次の勝利も近いんじゃないかな。
記者席からの質問
ホセ・ルイス・アブルー(オートスポーツ・ポルトガル)
Q:いつも落ち着いているが、この優勝を得るまで不安になったことはあるか、それともいつか必ずできると思っていたか
KR:優勝争いができると手応えを感じたラリーもあったが、そのことで大きなプレッシャーを抱えたくなかった。とにかくドライブをしたかったし、同時にベストの順位、優勝を目指していたし、自分がいつか勝てるなら、自然にその時がやってくるのを待っていた。それができてよかったよ。
Q:まだ選手権争いは可能だと考えているか。ヒュンダイのペースはいいが、残りのイベント数でそれを巻き返せるか
TN:残り5戦だが、今回のようにポイントを取り戻すことは可能だ。チームとしては、時にはよりクレバーになって状況を的確に見極めなくてはならない。だが、この週末は明らかにそれができなかった。自分の仕事は100%こなしたし、精いっぱいやった。
トム・ハワード(オートスポーツ、英国)
Q:最年少ウイナーは自分にとってどのような意味を持つか、特別な成果か
KR:もちろん特別なものだが、あまり深く気にしたことはない。このような記録は自分はあまり気にしないんだ。でも、もちろん、ヤリ‐マティが自分のところにきて、君に自分の記録を破ってもらいたかったと言われた時は、うれしかったよ。このことは自分にとって、とても意味のあることだ。
Q:自分のパフォーマンスは、フルタイムドライブを得るためのチームへのメッセージになったと思うか、来季、フルタイムシートに座る姿を見るチャンスはあるのか
CB:あると思う。言うまでもなく、自分とポールが目標に掲げていることだ。自分たちは世界チャンピオンになりたいし、シーズンの半分の参戦では世界チャンピオンにはなれないことは数学者でなくても分かる。もちろん、全戦参戦することを目指している。ヒュンダイは居心地のいいチームだが、自分がコントロールできないところに課題がある。とにかくフルシーズン戦うためのチャンスを見つけなくてはならないし、それを大いに活かさなくてはならない。
Q:自分も若い時からWRCで成功しているが、カッレに何かアドバイスはしたのか、彼が成長を続けていくために、彼にどんな言葉を贈るか
J-ML:彼の父、ハリはとてもいい形でキャリアを歩んだし、カッレは彼から学んでいる。それに、僕らはマネージャーが同じ、ティモ・ヨウキだ。自分としては、彼らはいい方向にステップを踏んできていると思う。個人的に自分から特に言ったことはなく、とにかく彼がいいフィーリングを持ち続けるようにしてきただけで、基本的にはチームにはファミリー精神があるので、ステージに出たら自信を持ってできる限りいい仕事ができるようにしている。常に相談していることは多少あるが、サファリの後に彼には「悪いラリーが4戦続いても問題ない、自分は5戦続いたことがある。だからまだ気にしなくていい」と言った。
ボー・クリステア・ボフェル(Worldrally.se、スウェーデン)
Q:チームボスとしての1年めに、チームは今季ここまでの7戦で12ポディウム、6勝を挙げている。トヨタチームの何が特別なのか
J-ML:心から正直に言えば、間違いなく自分たちは信じられないような時期を迎えているし、こんなことはなかなかないだろう。でも、パフォーマンスの点では、イベントによっては最速である必要はない場合もある。まだ、イベントによってはヒュンダイが強かったということを現実に受け止めなくてはならない。彼らはトラブルなどがあり、結果的に我々が成績を収めた。でも、ラリーでは終わるまでは結果は分からないということをよく知っている。挙げるとすれば“一貫性があること”だが、ドライバーたちも本当に素晴らしいし、本当にいい仕事をしている。同時に常に強くコンペティティブだ。ベースにあるものは、さっきも言ったとおりチームの精神。みんながいいスピリットを持っていれば、みんな100%の働きをして、最善を尽くしてくれる。そうすれば、ミスをしなくなり、それが成長につながり、リザルトを収めることができる。