岐阜県高山市を拠点として開催された全日本ラリー選手権第10戦「第48回M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2021」は10月17日(日)にすべての競技を終了し、TOYOTA GAZOO Racingから参戦する勝田範彦/木村裕介(トヨタGRヤリス)が今シーズン3勝目を飾った。2位にはシュコダ・ファビアR5の福永修/齊田美早子、3位にはスバルWRX STIの鎌田卓麻/松本優一が入った。
ラリー最終日はSS7~SS12の6SS、SS距離38.12kmの構成が予定されていたが、SS7の青屋上り1(8.64km)が降雨による路面コンディション悪化によりキャンセルとなった。この日は朝からウエット宣言が出され、安全上の理由からタイヤ使用可能本数が2本追加され8本となった。ループの後半はドライのSSもあるなど、路面はトリッキーで、各選手ともコンディションに合わせたセッティング調整やタイヤマネージメントにも戦略を練る必要がありそうだ。ラリーは朝7時に先頭走者がサービスイン。15分間の整備を行ってステージへと向かっていった。
JN1クラスは、初日に17.6秒のリードを築いた勝田と、その勝田に「絶対に追いつく」と気を吐く2番手の福永がステージウイン合戦を展開。SS8では福永がベストタイムをたたき出すが、SS9では痛恨のスピン。緊張感のある戦いが続き、その差9.6秒で最終ステージを迎えたが、ここでステージウインを奪取した勝田が今季3連勝をマーク。GRヤリスにとっては、ターマックラリーでの初優勝となった。
ターマックスペシャリストとしても知られる勝田は「GR YARIS GR4 Rallyにとって、ターマックでの初優勝を挙げることができました」とマシンの進化に満足を見せた。「先頭スタートだったので、SS7がキャンセルになって少しホッとしました。クルマは6月のモントレーと比較すると、特に駆動系の進化を感じます。この勝利によって選手権では有効ポイントでトップに立ちましたが、落ち着いて最終戦に挑みたいと思っています」。一方、タイトルへのチャンスを残した福永は「自分でドラマを作って、あたふたしていたラリーでした。最終日は一発の速さを見せられたので、それを持続できれば久万高原でもいい戦いができるはず。最終戦に向けては秘策があります」と、最終決戦に向けての意気込みを語った。3位の鎌田は「いつもの悔しい3位というよりは、納得の3位です。今回はダンロップの新しいタイヤのおかげで、順位も上げられましたし、開発もずっと手伝ってきて、その結果が出たので良かったです。上位2台が速いので、チームと相談してさらにマシンをアップデートさせたいです」とラリーを振り返った。
JN2クラスは初日首位のヘイキ・コバライネン/北川紗衣(トヨタGT86 CS-R3)が「あまりテストはできていない」と語っていたウエットの路面でも貫録のマネジメント能力を発揮。午前のセクションでは周囲がフルウエットタイヤで臨むなか、ドライ用のソフトコンパウンドをチョイス。これがバッチリ決まり、この日5SSをすべてクラストップタイムで並べ、SS11では全体でも6番手という好タイムをたたき出してクラス優勝。1戦を残して、自身初めてとなるラリーでのタイトル獲得を決めた。2位には中平勝也/島津雅彦(トヨタGT86 CS-R3)、3位にはシビック・タイプRユーロの上原淳/漆戸あゆみが入っている。
レーシングドライバーとして人気のコバライネンだが「トラブルフリーのラリーで、難しい局面もあったけど、うまく対応できました。今日の午前中は慎重に走りましたが、午後は気持ちよく走ることができました。素晴らしいマシンを用意してくれたチームに心から感謝しています。バランスが最高でしたし、特にターマックは最高の自信をもって走れました。F1で勝って、SUPER GTでタイトルを獲って、ついにラリー(笑)。とてもハッピー」と新しいカテゴリーでのタイトル獲得を大いに喜んだ。
JN3クラスは、初日トップの鈴木尚/山岸典将(スバルBRZ)を長﨑雅志/秋田典昭(トヨタ86)が7.6秒差で追う展開。SS8では「気合いが空回りした」という鈴木が長﨑の先行を許し、その差が4.5秒と詰まる。その後も鈴木と長﨑の首位攻防が続く中、鈴木は、SS11でクラス4番手タイムとまさかのロス。しかし、このSSでは長﨑もタイムロスを喫しており、最終的に8.9秒差で鈴木が首位を死守してフィニッシュ。今季実質的な開幕戦となった3月の新城戦以来となる今季2勝目を飾り、タイトル争いにも望みをつないだ。鈴木は「久々の実戦でしたが勝つことができました。次のチャンピオン争いは少し面白くなりますかね。新型BRZは気になりますが、投入するかどうかは未定です(笑)」一方の長﨑は「2日目の午後のループがヨコハマの路面になってきていたので、あと1日あれば違う展開になっていたと思います。これで、次戦のタイトル争いはかなり混戦になっていると思うので、頑張ります」と最終戦への決意を語った。
JN4クラスは、前日10.8秒差をつけて首位に立った西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ)が、「意外にタイムが出ました」と全日を通してウエット路面向けのタイヤで臨み、この日は3本のステージウインを奪取して2位に58秒の大差をつけての圧勝。ここまで3勝を挙げていた西川が、この時点でタイトルを決めた。2位は全日本ラリー初参戦の奥村大地/大橋正典(スズキ・スイフトスポーツ)、3位には岡田孝一/河本拓哉(スズキ・スイフトスポーツ)が入っている。
西川は「なんとか優勝&チャンピオンという最高の結果で終われてうれしいです。ここまで来られたのは、ダンロップさん、スマッシュの皆さんと、モンスターさん、平塚忠博さんのおかげです。今シーズン4勝もできたのは、運にも恵まれたと思います」と安堵とともに喜びを見せた。2位に入った奥村は、「出走前は、岡田さん、香川さんのチャンピオン経験者にまったく敵うと思っていなかったんですが、走り出してみたら、西川選手からキロ1秒以内だったので、このままのペースを保てば入賞もありえると思い頑張りました。今回のラリーで自信がついたので、来年はハイランドとモントレー、あとは元々北海道が地元なので、カムイへの参戦を考えたいと思います」と笑顔でラリーを振り返った。3位の岡田は「なんとか3位に入れましたが、SS11でインカムが壊れて有視界走行になってしまい、最後ちょっと届きませんでしたね。もうちょっとクルマをセットアップして、コ・ドラをしっかり鍛えて、来年はチャンピオンを獲りにいきますよ(笑)」と語っている。
2日目に波乱が起きたのがJN5クラス。初日は、すでに今季のタイトル獲得を決めている天野智之/井上裕紀子(トヨタGRヤリスRS)が首位に立ったが、この日も午前中までは首位を死守したものの「ウエットの路面だと旋回速度が稼げず、車重やパワーの不利を補えない」と懸念の表情を見せた。その天野が警戒したのが、前日は天野に18.8秒遅れの4番手だった小川剛/梶山剛(ホンダ・フィット)。この日午前の2本をベストタイムで揃えると、天野と差を一気に3.9秒にまで詰め、午後最初のSS10でついに天野をかわして逆転。SS11では天野もベストタイムで応戦し差を1.9秒取り戻すが、最終SSで再び天野を引き離した小川が、最終的に2.7秒でクラス優勝を飾った。3位には渡部哲成/佐々木裕一(トヨタ・ヤリス)が入っている。
逆転優勝を飾った小川は「今日、雨が降ったので勝機があると思っていましたが、天野選手はさすが。最後まで一切気が抜けませんでした」と激戦の模様を語った。「勝因は雨。自分も決して雨が好きなわけではありませんが、タイヤチョイスと、マシンの軽量化がききましたね。エアコンも外して、コ・ドラも5kgくらい減量してくれました。チームでの勝利です。久万高原に向けてはタイヤチョイスとセッティングを再考します」。一方の天野は「とりあえず得意不得意が明確に出たラリーでした」と戦いを振り返った。「不得意の部分はいろいろと手を入れていく必要がありますが、ダウンヒルはすごく良くて、牛牧の下りは131ヴィッツのタイムを3秒超えました。コーナリングのポテンシャルはあるので、CVTや重量など、課題をクリアすれば、シャシー性能は高いので、楽しみなクルマになると思います」と語っている。
JN6クラスは、前日に初めて挑む全日本ラリーで30秒以上の大差をつける速さを披露した山本雄紀/佐野元秀(トヨタ・ヤリス)が、この日もステージウインを3本獲得。最終的に1分50秒9と大差をつけて鮮烈な全日本デビューウインを飾った。2番手を走行していた海老原孝敬/蔭山恵(トヨタ・ヴィッツ)がSS12でコースオフを喫してしまい、2位に水原亜利沙/加勢直毅(トヨタ・ヤリス)、3位には南久松奈々/坂井智幸(トヨタ・ヤリス)が入っている。
「車両に慣れながらの参戦でしたが、ドライでマージンを稼ぐことができました」と語る山本だが、自身の課題についても言及する謙虚な面も見せた。「ウエットやマディな場所では、このクルマの動きに慣れずに、負けてしまったところがありました。今回勝ったとはいえ、2日目に課題を残したので、どんな天候や路面になっても対応できるようなりたいです」と振り返っている。2位の水原は「初日よりはドライビングの答えが見つかって、加瀬さんと一緒に気持ちよく走れました。久万高原に向けて、感覚をつかめたたので、しっかり準備をして挑みたいです」と手応えを語っている。3位の南久松は「今回の参戦で課題がいくつも見つかりましたし、前を走るクルーとのラインの違いも知ることができました。それをたどって走って、いい練習になりました」と、得るものがあったと振り返っている。
次戦は10月30〜31日にかけて愛媛県上浮穴郡久万高原町を拠点に行われる第4戦久万高原ラリー(ターマック)。当初5月に開催を予定していたが、新型コロナウイルスの感染流行の影響で延期となり、今季最後の大会として迎えることとなった。有効ポイントで選手権首位に立った勝田がGRヤリス初の全日本タイトルをもたらすのか、ファビアR5の福永が逆転タイトルを決めるのか、最終決戦に注目が集まる。
M.C.S.C. ラリーハイランドマスターズ 2021 最終結果
1 勝田範彦/木村裕介(GR YARIS GR4 Rally) 47:11.2
2 福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビアR5) +11.0
3 鎌田卓麻/松本優一(スバルWRX STI) +35.9
4 奴田原文雄/東駿吾(トヨタGRヤリス) +41.3
5 眞貝知志/安藤裕一(GR YARIS GR4 Rally) +44.4
6 新井敏弘/田中直哉(スバルWRX STI) +55.0
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10 ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(トヨタGT86 CS-R3) +2:15.6
12 鈴木尚/山岸典将(スバルBRZ) +3:24.8
21 小川剛 /梶山剛(ホンダ・フィット) +4:50.2
24 西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ) +4:59.4
42 山本雄紀/佐野元秀(トヨタ・ヤリス) +8:20.2