FIA世界ラリー選手権は、90回目の開催となるラリーモンテカルロからハイブリッドのラリー1時代が始まる。WRC50年目のシーズンは、大きな注目と興奮の中で幕を開ける。
持続可能な新時代の到来を告げるラリー1規定は、FIAの各部門が、マニュファクチャラーズ選手権に参戦するトヨタ、ヒュンダイ、Mスポーツ(フォード)との協力の上で、幅広い作業の末に誕生した。この各組織が一丸となって、見応えのあるパフォーマンスを維持しつつ、安全性をさらに高め、環境にもしっかりと配慮したカテゴリーを実現を目指した。既存の1.6Lターボ内燃エンジンにプラグインハイブリッドユニットを組み合わせたラリー1マシンは、化石燃料を一切使わずに走行する。
ハイブリッドキットには100kWの電気モーターと3.9kWhのバッテリーが含まれており、合計で500馬力以上まで性能を引き上げることが可能。しかし、イベントのサービスパークの近くにあるハイブリッド電気自動車(HEV)ゾーンでは電気モードでの走行が求められる。
1911年に初開催を迎えたラリーモンテカルロは、グリップ変動が激しく天気も変わりやすいことから、カレンダーの中でも最もチャレンジングな一戦と目されている。このため、ピレリのタイヤ選択の重要性はかなり大きくなり、ドライバーとチームは、コンディションに最適なタイヤを選択するために頭を悩ませることになる。
WRC50周年が第90回ラリーモンテカルロで始まることは、FIAにとってラリーが持続可能な技術と安全の両面において大きな進歩を遂げたことを示すものとも言える。プラグイン・ハイブリッド車両であるラリー1マシンは、パフォーマンスレベルが向上した一方で、有害な排出ガスを削減している。FIAは、数カ月にわたる集中的な研究開発の成果である安全性の革新と並び、将来にわたってラリー競技とその魅力、重要性を強化するために、極めて重要なこの変革の時期を広範囲に渡って見守っている。
■エントリー状況
今回のラリーモンテカルロには、制限いっぱいの75台がエントリー、うち11台が初実戦を迎えるラリー1マシンとなる。2021年のWRCドライバーズチャンピオン、セバスチャン・オジエはトヨタからGRヤリス・ラリー1でエントリー。ラリーモンテカルロでは最多の8勝をマークしているオジエは今回、実戦では初めてコンビを組むバンジャマン・ベイヤをコ・ドライバーに迎える。
モンテカルロ7勝の記録を誇るWRC9連覇王者、セバスチャン・ローブは、Mスポーツ・フォードからフォード・プーマ・ラリー1をドライブ。コ・ドライバーにイザベル・ガルミッシュを迎える。オジエとローブは2022年はスポット参戦の予定であるため、両者が新規定のラリー1マシンで対決する今回は非常に珍しい機会となりそうだ。ヒュンダイi20 Nラリー1をドライブするティエリー・ヌービルも、いまやモンテカルロ優勝経験者。また、WRCチャンピオンを経験しているオィット・タナックも、ヌービルのチームメイトとしてラリー1マシンでの初実戦に臨む。
Mスポーツ・フォードは、ローブに加え、クレイグ・ブリーン、アドリアン・フルモー、ガス・グリーンスミスと、合計4台をエントリー。トヨタもオジエに加え、エルフィン・エバンス、カッレ・ロバンペラ、勝田貴元を走らせる。ヒュンダイからは、オリバー・ソルベルグがワークス初参戦に挑む。
■サポートカテゴリー
ラリー2マシンが対象となるWRC2は2022年、再構築が行われ、チームズ、ドライバーズ、コ・ドライバーズ、ジュニアとタイトルが分かれる。マスターズカップには、ベストドライバー、ベスト/コ・ドライバー賞も設定される。
2021年のWRC2ドライバーズ王者、アンドレアス・ミケルセンは、新コ・ドライバーとして、2021年のWRC2コ・ドライバーズ王者トルステイン・エリクセン(マッズ・オストベルグのコ・ドライバーとして参戦)と組んで2022年を戦う。2021年のWRC3王者、ヨアン・ロッセルはWRC2にステップアップ。そのほか、エリック・カミリ、ニコライ・グリアジンも今季を戦う。元WRCワークスドライバーのフレディ・ロイクスも、WRC2部門での上位を狙う。
グリアジンは、WRC2ジュニアタイトルの対象にもなっている。このクラスでは、マルコ・ブラシア、グリアジン同様にERC出身のエリック・カイス、グレゴワール・ミュンスター、クリス・イングラム(2019年ERC王者)がライバルとなる。
今季からラリー3マシン対象となったWRC3では、2021年ジュニアWRCを制したサミ・パヤリがステップアップ。エンリコ・ブラゾッリ、ヤン・チェルニーらと戦う。
ラリーモンテカルロでは、2022年FIA R-GTカップも開幕を迎える。昨年シリーズ2位に入ったエマニュエル・ギグーを筆頭に、1994年のラリーモンテカルロ覇者であるフランソワ・デルクールほか8台がエントリー。ギグーとデルクールはいずれも、アルピーヌA110 R-GTをドライブする。
■ラリールート
90回目のラリーモンテカルロは、ここ数年バランスやギャップを本拠地としてきたが、2006年以来久々にモナコを拠点に開催される。1月17〜19日に3日間のレッキを実施。計296.03kmのSSは、2021年からの変更は95%と一新された。
1月20日、現地時間9時31分からシェイクダウンを実施。新規定ラリー1マシンが顔を揃え、タイムを計測する最初の場面となる。その後、18時45分からは、改装されたカジノ広場で伝統のセレモニアルスタートを実施。その後クルーは、Luceram / Lantosque、La Bollene-Vesubie / Moulinetに挑む。アルプ・マリティームに設定されるラリー1マシンでの初めてのSSは、いきなりのナイトステージ。La Bollene-Vesubie / Moulinetは、イベント最長の23.25kmとなる。
21日金曜日は、3SSを2ループする97.86km。ループの間にはPuget-Theniersにタイヤフィッティングゾーンが設定される。土曜日はアルプ・ド・オート地方に計92.46kmのステージが設定。Le Fugeret / Thorame-Hauteを1回走行した後、Saint Jeannet / MalijaiとSaint-Geniez / Thoardを2ループ。間のタイヤフィッティングゾーンはDigne-les-Bainsに設定される。日曜日は、アルプ・マリティームの北西部に向かい、計67.26kmが設定。新ステージ、La Penne / CollonguesとBrianconnet / Entrevauxを2回ずつ走行する。Brianconnet / Entrevauxの2回目はパワーステージに指定されている。このステージの後、夕方にはカジノ広場で表彰式が行われる。
■安全性について
WRCにハイブリッド技術が導入されることに伴い、FIAは、ハイブリッドコンポーネントを強化された安全構造体に収めることを義務付けるなど、様々な安全対策を実施している。
ラリー1マシンは、サイドドアパネルに「HY」の文字を掲示することで識別される。フロントガラスと両サイドのピラーにははセーフティライトが装着され、緑色に点灯している場合は、触れても安全な状態。赤色に点滅し警告音が鳴っている場合は、触れると危険な状態を示す。SNS上でも啓発活動が開始されており、事故発生時に、高電圧の電流が発生する可能性がある中で、観客や安全作業員が取るべき注意事項を訴えている。
全ラリー11車両は、1000ボルトに耐えられるClass-0のグローブを2組携帯し、ドライバーとコ・ドライバーが車両から離れる際に、容易に取り出せるようにしておかなければならない。これにより、自車または他車に高電圧のトラブルが発生した場合、両クルーが支援することに備える。クルーとオフィシャルは、必要不可欠な訓練も受けている。
■ラリーデータ
開催日:2022年1月20-23日
サービスパーク設置場所:モナコ
総走行距離:1511.47km
総ステージ走行距離:296.03km(SS比率19.59%)
総SS数:17
■開催選手権
WRC
WRC2
WRC3
■マニュファクチャラーズ選手権ノミネートドライバー
[トヨタ・ガズーレーシングWRT]
セバスチャン・オジエ(#1)
エルフィン・エバンス(#33)
カッレ・ロバンペラ(#69)
[ヒュンダイ・シェル・モビスWRT]
ティエリー・ヌービル(#11)
オィット・タナック(#8)
オリバー・ソルベルグ(#2)
[Mスポーツ・フォードWRT]
クレイグ・ブリーン(#42)
アドリアン・フルモー(#16)
セバスチャン・ローブ(#19)
■2021年ラリーモンテカルロ最終結果
1 S.オジエ/J.イングラシア(トヨタ・ヤリスWRC) 2:56:33.7
2 E.エバンス/S.マーティン(トヨタ・ヤリスWRC) +32.6
3 T.ヌービル/M.ウィダグ(ヒュンダイi20クーペWRC) +1:13.5
■近年のウイナー
2021年 S.オジエ/J.イングラシア(トヨタ・ヤリスWRC)
2020年 T.ヌービル/N.ジルスール(ヒュンダイi20クーペWRC)
2019年 S.オジエ/J.イングラシア(シトロエンC3 WRC)
2018年 S.オジエ/J.イングラシア(フォード・フィエスタWRC)
2017年 S.オジエ/J.イングラシア(フォード・フィエスタWRC)
*シリーズ公式のプレビュー動画を追加しました。