ラリーメキシコのSS3で衝撃的なコースオフを喫したオィット・タナック。フォード・フィエスタRS WRCが20秒で水没するという絶望的とも思える状況に追い込まれた。
誰もが復旧は不可能と思う中、Mスポーツは歴史に残る修復劇を披露。沈没した世紀の豪華客船・タイタニック号を模した”TiTanak”をデイ4で再スタートさせた一連の詳細を公開した。
最初のアクシデント-3月6日金曜日
09:24– タナックのNo.6フォード・フィエスタRS WRCがSS3の2.6km地点でコースアウトし、水深5mまで沈没。
09:30 – 後続車がステージをフィニッシュした時点で深刻なアクシデントが発生したことが発覚。チームが主催者スタッフと連携し、迅速に状況把握に奔走。
09:38 – 走行が中断し、緊急救出車が出動、ドライバーとコ・ドライバーがいずれも無事で無傷であることを確認。
10:17 – クルーがヘリコプターで搬送され、サービスパークに到着。ホテルに戻り、チームドクターによる診察を受ける。コ・ドライバーのライゴ・モルダーは、ただちにペースノートを1ページずつ乾かす気の遠くなるような作業を始める。
12:09 – クルーがサービスに戻り、メディアからのインタビューを受ける。チームはフィエスタの回収作業に立ち合うためにメカニックを派遣。
16:30 – ステージがクローズされ、リカバリー車両の進入が許可される。
16:45 – 主催者がダイバーの第一陣をマシンの落下地点に送る。マシンは完全に水面下。
17:45 – フィエスタが深い水中から、堤防に引き上げられる。
18:00 – マシンがリカバリートラックに乗せられて搬送。モルダーの携帯電話も車内から回収。なんと使用可能!
20:15 – フィエスタがサービスパークに到着。チームがただちにダメージの確認・把握に入る。
世紀の大サービス劇-3月6日金曜日
21:30 – 作業開始。ラリー2の出走が認められる00:30まで、残り3時間。
21:55 – 3時間サービスの25分が経過、テクニシャンがウインドスクリーン、ウイング、バンパー、フロントドア、リヤサスペンション全体、フロントサスペンション全体、ギヤボックス、ターボ、冷却システム全体を取り外し、まさにボディシェルだけの状態に。
22:00 – レギュレーションにより燃料システムの作業中はメカニック1人しか作業が認められないため、その他の作業は一時中断。燃料タンクを検査した結果、交換を決断。
22:03 – 全体での作業が再開し、タンクやシート、電気系、無線、ダッシュボードなどのインテリア部品が取り外される。
22:15 – テクニシャンが、コクピット内に残っていた水を抜き始める。
22:25 – ダメージを受けたエンジンブロックの修復のために、チームがここ一番で絶妙な能力を発揮。エンジン内の余分な水を抜き取る。
22:30 – 残り2時間、マシンを組み直し始める。フィエスタRS WRCから外された各パーツは、シート、ベルト、ボンネット、ツールキット以外はすべて新品に交換された。
23:00 – 残り1時間、テクニシャンが油圧をあげるためにエンジンを回し始める。
00:05 – 残り25分、マシンが息を吹き返す。
00:10 – 残り20分で、ボンネットを装着し、ギヤの作動を確認、マシンを磨き上げ、No.6フィエスタRS WRCが時間内にサービスアウト。タナックとモルダーがマシンをパルクフェルメに届ける。すべての作業が最大3時間という制限時間内に完了した。
2度目のサービス-3月7日土曜日
08:30 – タナックとモルダーがフィエスタRS WRCをパルクフェルメに引き取りに行く。バッテリーがダウンしていることに気付く。
08:31 – クルーがホールディングエリアからマシンを押していることを見たチームが瞬時に判断し、テクニシャンがサービスまで牽引するためにレッキ車で待機。
08:32 – 他のマニュファクチャラーズチームから拍手喝采を受けながら、マシンがサービスエリアに到着。
08:33 – テクニシャンがフィエスタのジオメトリーを調整し、スパークプラグの交換、電子コイルの交換(2回)を行い、フィエスタに息を吹き返させる。
08:49 – タナックのドライブでマシンがサービスアウト、給油に入る。給油エリアでマシンが一瞬止まる。
09:25 – タナックとモルダーはフィエスタの再始動に成功したものの、最初のSSのスタートが認められる時間はすでに経過。
ラリー2.1-3月7日土曜日
10:28 – クルーが、メキシコのまばゆい日差しの中で出発したばかりのサービスにマシンを再び戻し、ラリー2.1に向けてすべてのコンポーネンツを乾燥。
15:10 – 再び3時間の制限時間の中でRally 2.1が開始。テクニシャンはすべての油圧センサーを交換。さらにオイル交換のほか、ジオメトリーを再び調整。
16:25 – エンジンが再始動、エンジンエンジニアがデータをチェック。その結果、念のためにECUを交換することを決断。
17:12 – 問題が再発しないことを確認するために始動を何度か繰り返し、No.6フィエスタRS WRCがパルクフェルメイン。再び戦闘態勢に。
オィット・タナック(フィニッシュ後のコメント)
「チームを心から誇りに思う。ひとりひとりが100%の力で取り組んでくれたことを目の当たりにして、ドライバーとしても刺激になった。彼らがやり遂げてくれたことには、今でもメガ級に驚かされている。最高だよ。とにかく素晴らしい。今晩のビールは、もちろん僕がおごるよ!」
エルフィン・エバンス
「チームが“タイタナック”を最後まで走らせたことに、心から感激している。正直、本当に再び走らせることができるのか、と思うような状態だったからね。でも、彼らは本当に素晴らしい仕事をしたんだ。それぞれに最大級のリスペクトを送るよ。世界で最高のメカニックたちだし、この週末はそれを証明したよ」
タナックとモルダーは総合22位、1時間54分50秒遅れながら完走を果たし、フィニッシュポディウムには水中メガネとシュノーケルを着けて登場。一歩間違えば命にかかわるようなアクシデントながら、自らそれを笑い飛ばしてみせた。次戦アルゼンチンでの快走に期待したい。