群馬県富岡市を拠点に開催されたアジア・パシフィックラリー選手権(APRC)アジアカップ第2戦、および全日本ラリー選手権第5戦モントレーは、6月12日(日)にすべての競技を終えて、シュコダ・ファビアR5のヘイキ・コバライネン/北川紗衣が両部門でトップ。APRCで初勝利、全日本ラリーではシーズン4勝目を飾った。
APRCの2位にはトヨタC-HRのマイケル・ヤング/エイミー・ハドソン、同3位はスバルWRX STIの青山康/竹下紀子。全日本では、トヨタGRヤリスの眞貝知志/安藤裕一が自身初のJN-1クラス2位表彰台を獲得、3位にはトヨタGRヤリスの柳澤宏至/加勢直毅が1年ぶりの表彰台を獲得する結果となった。
この日は4SS、45.36kmでの戦い。0.76kmのSS7/9と、21.92kmという長距離ステージのSS8/10で構成される。サービスパークの置かれる群馬サファリパークに隣接したSS7/9には観戦エリアが設けられる。SS7〜9までを連続して走り、サービスを挟んで最終SSに臨む構成となっている。サービスパークでの天候は晴れ。湿度はあるものの気温も高く、陽の当たる路面は急速に乾いていくことが予想された。
JN-1クラス、オープニングのSS7を制したのは眞貝。0.76kmと短いコースのため大きなタイム差はつかなかったものの、JN-1クラスでキャリア初のベストタイムをマークした。このSSでは、前日4番手につけていた三枝聖弥/石田裕一(スバルWRX STI)が「順位を意識しすぎてしまった」とクラッシュ、リタイアを喫している。続くSS8〜10はいずれもコバライネンが制し(SS9はシュコダ・ファビアR5の福永修/齊田美早子も同タイムをマーク)、後続との差をさらに拡大してシーズン4度目の栄冠を勝ち獲っている。眞貝と2番手を争う柳澤は、SS8でその差を0.4秒まで詰めることに成功するが、続くSS9で駆動系のトラブルが発生。短いSSであったこととサービスまでの移動区間が短かったことが幸いし、チームは応急処置を施し、柳澤を再び送り出すことに成功した。柳澤は最終SSを慎重に走り切って3位を守り、2020年モントレー以来の表彰台を獲得している。4位には上位タイムを並べた福永、5位にトヨタGRヤリスの徳尾慶太郎/石田一輝が入っている。
これで今季4勝を挙げたコバライネンは「全日本だけでなくFIAイベントで勝てたこともうれしいね。昨日はトリッキーでダンプなコンディションから、今日はドライになった。セットアップをうまく調整してくれたチームとメカニックにあらためてお礼が言いたいね。前回から進化した実感がある」と、手応え。今後のグラベルラリーについては「ファビアではグラベルをあまり走っていないから、どんな状況になるかまだ分からない」としている。2位の眞貝は「自己最上位の2位は、すごくうれしいです。乗りやすいマシンを用意してくれたチームやパートナーの皆さんに感謝しています。今回はトップ選手ですら落ちてしまう罠がある難しいラリーでしたが、僕はリスクを避けるためのマージンを大きくとっていたこともあり、そのような運に助けられた部分もあると思います」と、笑顔を見せた。3位の柳澤は「満身創痍ですが、応急処置でなんとかゴールできましたね。最後はフィニッシュまで持ち帰ることだけを考えて走りました。クスコ・レーシングの総合力を感じましたし、今回のラリーで全車が完走することができました」と安堵の表情。
JN-2クラスは中平勝也/島津雅彦(トヨタGT86 CS-R3)がきっちりと走り切り、今シーズン5勝目を獲得。ラリー終了時点でチャンピオン獲得に王手をかける結果となった。2番手を走行していたルノー・クリオ・ラリー4の横嶋良/小藤桂一は、最終SSでコースアウトを喫し、クルマはコース復帰ができない状態に。「様々な路面で経験を積むことが目的」と語っていただけに、残念なリタイアとなってしまった。
これでシーズン5連勝、レグ別得点を含め全戦でフルポイントを重ねている中平は「とても難しい道でしたが、無事に帰って来ることができて、ひとまずはホッとしています。ダンロップの新しい201Rは、幅広い状況の路面に対応できるので、それに助けられた感じもします。次戦のカムイはグラベルラリーですが、グラベルはグラベルでまったく違う難しさがあるので、気持ちを切り替えて頑張ります」と、語っている。
新旧のスバルBRZ勢がトップ3を占めていたJN-3クラスは、上位に順位の変動はなく、BRZが表彰台を独占する結果となった。竹内源樹/木村悟士が今シーズン3勝目、2位には初の表彰台となる久保凜太郎/大倉瞳、3位には2018年のモントレーで勝利して以来の表彰台という加納武彦/横手聡志が入っている。前日4番手につけていたマツダ・ロードスターの八田新一/加藤芳皓は、SS8でメカニカルトラブルに見舞われて戦線離脱。初日にパンクで順位を落としていたトヨタ86の山田啓介/藤井俊樹がポジションを上げ、4位でフィニッシュしている。山田はこの日の4SSすべてでベストタイムをマークする力走を見せ、レグ別得点3点を獲得している。
勝利を挙げた竹内は「初日の段階でクルマを傷めず、コンスタントに走ってマージンを作れたのが良かったですね。タイム的にも悪くありませんし、完璧なラリー運びができたと思います。5戦中3勝できたので、カムイでもしっかりポイントを獲得できたらと思っています」と、振り返った。次戦のグラベルについては旧型BRZで出場する可能性も検討しているという。2位の久保は「初の表彰台です。初日を乗り越えられたのが大きかったですね。淡々と走れたのが良かったと思います」と笑顔を見せた。3位の加納は「久々の表彰台なのでうれしいです。最後は安全運転気味でした(笑)。BRZで1-2-3というのもうれしいですね」と語っている。
スズキ・スイフトスポーツが争うJN-4クラスは、西川真太郎/本橋貴司がクラス3連勝を達成。レグ別得点も3点獲得し、フルポイントを重ねることに成功した。2位には須藤浩志/新井正和が入り、3番手争いを制した筒井克彦/古川智崇が3位を獲得している。前日4番手につけていた奥村大地/JackyはSS8で横転を喫してリタイアとなり、4位には岡田孝一/河本拓哉、5位に桜井一裕/白水順一が入っている。西川は4SS中3SSでベストタイムを刻み、2位須藤との差を拡大してフィニッシュ。その須藤もSS7では西川と同タイムのベスト、SS9では単独ベストタイムをマークするなどスピードを見せた。
優勝した西川は「天気にも恵まれ、タイヤ選択がうまくいきました。まだ課題はありますが、結果だけは残すことができて良かったです。次は苦手なグラベルラリーなので、手堅く完走できるように挑みたいです」とコメントしている。2位の須藤は「タイヤを4本しか使わず、エコなラリーでした。最後がドライになって、横剛性の面でタイヤの苦手なシーンが出ましたけれど、その辺りが積み重なってしまいましたね」と、ラリーを振り返った。3位に入った筒井は「ロングステージはベストを狙ってプッシュしましたけど、少し足りませんでしたね。クルマにはかなり慣れてきました」と、コメント。今季残り全戦に出場予定とのことだ。
トヨタ・ヤリスによる上位争いが展開されているJN-5クラスは、小濱勇希/橋本美咲が今季初優勝。2位にチームメイトの渡部哲成/佐々木裕一、3位に小川剛/梶山剛という展開になった。4位には小川と6.6秒差で天野智之/井上裕紀子(トヨタGRヤリスRS)が入っている。この日は首位を走る小濱に渡部が食らいつく展開となった。渡部はSS8でベストタイムをマークし、この日のスタート時点で28.4秒あった小濱との差を8秒にまで詰めることに成功。しかしSS9、SS10と小濱のタイムを上まわることはできず、最終的に9.5秒差でフィニッシュしている。
小濱は「RJ車両になっても勝つことができてうれしいです。渡部選手を上まわるタイムを出さないと勝てないと思ったので、気持ちで押し切りました。チームがクルマを良くしてくれたので、それに報いたいという想いで勝てたのだと思います。全日本は2020年の唐津で勝って以来ですね」と力強くコメント。一方の渡部は「チームとしては1-2フィニッシュは最高ですが、自分としては詰め切れずに悔しいです。でも出し切りました。もっと精進します」と、悔しさを隠さない。3位の小川は「最終SSでは雨が降ると踏んで、新品のウエット用タイヤで行ったら、向こうはピーカンで(笑)。参りましたが、なんとか3位は死守できました。クルマの特性や制御の入り方もだいぶ分かってきましたね」と振り返った。
JN-6クラスは首位の海老原孝敬/蔭山恵(トヨタ・ヴィッツ)が前日からのリードを拡大して今シーズン5勝目を獲得。2位に木村謙治/多比羅二三男(ホンダ・フィット)、3位に中西昌人/有川美知代(マツダ・デミオ)が入った。ギャラリーステージのSS7とSS9は中西が制したが、SS8/10のロングステージは海老原がベストタイムでまとめ、勝利を確実なものとした。海老原もレグ別得点を含め取りこぼしなく5連勝を飾っており、JN-6クラス王座を射程に捉えた格好だ。
序盤はウエットタイヤで様子を見ながら入ったという海老原は「勝因は攻めすぎなかったことですね。思ったよりも路面が滑り、危ない場面もありましたが、なんとか形は保てたと思います。次のグラベルはそんなに得意ではないので、グラベルに合わせたセッティングを出せるようにしたいです。真面目に取り組んで、チャンピオンも確実に獲りにいきたいです」と、タイトルに向けて意気込みを見せた。3年ぶりの全日本出場となる木村は2位。「初めてのクルマで慣れない部分もあり、ロングステージでは15kmでブレーキがダメになって、最後の5kmほどはきつかったですね」と完走を果たした。3位の中西は「クルマの制御はブレーキやCVTオイルの油温を検知しているようで、それらが極力上がらないように対応したんですが。ある程度の効果は出ているみたいです。制御が入らなければ走れる感触だったので、グラベルはもうちょっと上の順位を狙いたいです」と語っている。
次戦は7月8日〜10日にかけて、北海道虻田郡ニセコ町を拠点として行われる「2022 ARK ラリー・カムイ」。2022年シーズン初のグラベルラリーで、10SS、SS距離78.34km、総走行距離398.06kmで争われる。昨年はトヨタGRヤリスの勝田範彦/木村裕介が優勝しており、スバル勢の巻き返しにも注目が集まる。また、今回の結果を受けた加減重量は、1位のコバライネンが+30kg、2位の眞貝が+20kg、3位の柳澤が+10kg、4位の福永が-10kg、リタイアを喫した勝田が-30kgとなる(加算される重量の上限は+50kgまで、軽減される下限は当該車両の最低重量まで)。
MONTRE 2022 SS10後結果
1 ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(シュコダ・ファビアR5) 1:39:38.6
2 眞貝知志/安藤裕一(トヨタGRヤリス) +2:36.8
3 柳澤宏至/加勢直毅(トヨタGRヤリス) +2:57.5
4 福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビアR5) +4:35.0
5 徳尾慶太郎/石田一輝(トヨタGRヤリス) +6:14.8
6 鎌田卓麻/松本優一(スバルWRX STI) +6:36.9
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8 竹内源樹/木村悟士(スバルBRZ) +7:14.2
10 中平勝也/島津雅彦(トヨタGT86 CS-R3) +8:09.1
13 西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ) +8:53.1
15 小濱勇希/橋本美咲(トヨタ・ヤリス) +10:07.0
28 海老原孝敬/蔭山恵(トヨタ・ヴィッツ) +15:59.3