WRCラリーフィンランドのフィニッシュ後に行われたイベントカンファレンスの内容(抜粋)。母国エストニアでの敗戦から一転、同様の高速グラベルラリーでも驚くほどの速さでヒョンデ初のフィンランド勝利を獲得したタナック。チーム副代表のジュリアン・モンセもひとつの壁を越えた実感を表しており、シーズンこの先の戦いに向けてチームがポジティブな手応えをつかんだことを明かした。
●WRCイベント後記者会見 出席者
1位:オィット・タナック=OT(ヒョンデ・シェル・モビスWRT、ヒョンデi20 Nラリー1)
2位:カッレ・ロバンペラ=KR(トヨタ・ガズーレーシングWRT、トヨタGRヤリス・ラリー1)
3位:エサペッカ・ラッピ=EP(トヨタ・ガズーレーシングWRT、トヨタGRヤリス・ラリー1)
ジュリアン・モンセ=JM:(ヒョンデ・シェル・モビスWRT、チーム副代表)
Q:オィット、このラリーでの3度目の優勝、おめでとう。金曜日の朝から最後までラリーをリードした。激しい戦いが終わり、ポディウムの頂点に上がったいま、どんな気分か
OT:実にいい気分だよ。今回の戦いを心から楽しんだし、特別な勝利だ。ここで勝つことは楽にはいかないし、実は優勝争いができるとはまったく思っていなかった。エストニアの後、ここでいきなりコンペティティブになれるような自信はあまりなかったが、どうしてかこのラリーでは流れが変わった。エストニアではこうはいかなかった。それでもフィンランドはすごく独特だし、簡単なイベントでもなく、長い歴史とチャレンジングなラリーが一体になっている。それはもちろん、素晴らしいことだ。
Q:金曜日の朝から“全力投球”のようだった。あの朝、起きてすぐに“やってやろうじゃないか”と思ったのか
OT:木曜日はかなりフラストレーションがたまり、シェイクダウンはあまり満足にいかなかった。最初のスーパーSSも流れがうまく進まず、それでとにかく攻めようというモチベーションにつながった。上位争いをしていたこのふたりは、最初から全力でなんとかしようという感じではなかったようだったし、フィンランドでは、ギャップができてしまうと取り戻すのが難しい。自分がラリーを支配できていたとは言わない。そんなことは、まったくないよ! 自分は限界まで攻めていたし、ラリーのほとんどで限界を超えていた。ペースがコントロールできるようになったのは、最後の2、3本だ。でも、それ以外は、どのステージでも全開だった。
Q:最終日の朝に、金曜日最初のコーナーから限界ギリギリだったと言っていたが、週末の間に守り切ることができないと思った時はあったか
OT:そのように考えたりはしないようにしている。リードしている間は、それを守ることに努めなくてはならない。エサペッカは挑んできていたし、エルフィンも来たし、カッレはもちろん砂利掃除をしていたので、彼に対しては自分たちはいい順番だった。でも、土曜日の午前からはみんな同じような順番になり、フェアな戦いになり始めた。カッレが近づいてきたが、金曜日に築いたギャップが十分にあったので、退け切ることができた。
Q:最終日の朝は8.4秒差だったが、最初のステージを終えた時点でカッレよりも2秒近く速い走りで、そうするしかなかったと言っていた。タイムだけではなく、心理的にもそうだったのか
OT:心理的なことではなく、ただラリーを勝つためには、あのステージで1、2秒以上はロスできなかった。少なくとも同じタイムになるよう必死でプッシュしていたが、結果的にOK。実際にはリードを広げることができたので、あれでかなりプレッシャーが小さくなった。
Q:ヒョンデはフィンランドで勝ったことがなかったが、今回は木曜日の夜にはティエリー(ヌービル)が首位に立ち、金曜日の午前からは君がリードした。このイベントはトヨタのお膝元だが、チームにとって、この勝利は自分たちの力を見せつけるうえでもどれだけ重要か
OT:2017年以来、ずっとトヨタ勢が勝ってきたイベントだと記憶しているので、彼らはここがとても強いし、もちろん今年もそうだった。だからチームにとって重要なことは確かだ。チームに流れを引き戻すためには何をするべきか、ずっと分かっていた。現状、自分たちは本来の力を出せていないし、あるべき方向に進めていないのは明らかだからだ。でも、そのすべてのために、自分もティエリーも、ポジティブな力と、正しいやり方をすれば競争力を発揮できるという信念を持ち続けてきた。この方向でプッシュを続ければ、今日見せられたようにそれは可能だ。もちろん、まだどのラリーでも安定してタイトル争いができるような流れをつかみ切っていないが、正しいことをすれば可能なんだ。
Q:カッレ、母国ラリーで2位に入った。ラリーフィンランドで強い戦いをしたが、ポディウム圏内まで順位を上げ、優勝争いにも挑んだ。この総合順位について今の気分は
KR:かなりいい気分だよ。もちろん、どのラリーでも勝ちたいとは思う。特にここではね。でも、自分の計画としては、あまりやりすぎずにいいラリーをすることだった。ミスもなく、何のトラブルもなく、最後にはパワーステージでも高ポイントを獲得したので、満足していいと思う。
Q:ラリー前には、リスクを負いすぎずにポイントリードを広げることのバランスが重要だと話していた。ここで勝つことよりも、選手権タイトルの方が気持ち的には大きかったか
KR:そうだね、この週末を迎える前から、砂利掃除をしてそこから追い上げるのはかなりタフになると確信していた。今回見たように、常に僅差だったからね。だから、もし本当にうまくいかなければ、そうする必要はないと確信していた。とにかくクレバーになって、選手権のことを考えればいいと。今回の進め方にはかなり満足している。とにかく自分たちは挑み、金曜日にタイムをロスしたあと、そこから追い上げたことには誇りを持てる。オィットはずっと全開で、すごく速かった。あのステージタイムで詰められるところは少ないし、多少は詰められたけど十分ではなかったね。
Q:もう追いつくのは無理で、そのための限界まで攻めないと決めたのはどの時点か
KR:多少はずっと思っていたし、もちろん最終日はプッシュしようと努力したが、どの場所でも勇気が足りていなかったんじゃないかと思う。マシンのフィーリングが100%ではなかったし、ハードにプッシュするためには、自分が思う以上にリスクを負わなくてはならない。特に、ポイントのためにポディウムでフィニッシュしたいと思っている状況では、最後のプッシュはあきらめる。最後にプッシュをかけても本当に勝てたかどうか、よく分からないと思う。もう少し差を詰められていたはずだったが、最終日のように、これまでと同じようにステージのことをよく知っていたからね。オィットは速いし、同じペースでプッシュできたとしても届かなかった。
Q:今シーズンの経験について。前回のフィンランドはみんなマスクを着けていたし、ステージには人がいてもサービスエリアにはほとんど人がいなかった。今年はかなり状況が変わり、フィンランド人ドライバーはみんな観衆から盛大な声援を受けていた。最高の気分だったのでは
KR:そうだね、本当に素晴らしかった。ステージの動画や写真を見ても、みんなが僕らのことを精いっぱい応援してくれた。彼らのためにいい戦いをしたいというモチベーションになったし、土曜日のように、僕らがハードにプッシュして追い上げようとする姿を楽しんでもらえたと思う。最終日も僕らはベストを尽くしたし、パワーステージでは少しプッシュしたので、みんなに喜んでもらえていたらいいね。
Q:エサペッカ。何から始めようか。この舞台では今回、かなり痛めつけられたね。土曜日は石で台無しになったし、最終日は転倒…“ロックンロール”だ。でも、戦いに残った。今年一番の大きな話題になったのでは
EP:そうだね、5年前に優勝した時の次に思い出に残るラリーフィンランドだ。それ以上かもしれないかな。精神衛生上、いろいろありすぎた。
Q:でも、すべて切り抜けた。ここが重要なところで、それでいま、ここにいる。最終日は、滑り出しはかなり落ち着いていた。君とエルフィンはペースを抑えているように見えた。それでも速かったが、土曜日ほど限界ではなかった
EP:そうだね。自分たちとしては順位はほぼ決まったようなものだったので、ハードにプッシュする理由はなかったが、それでもある程度の速さとリズムをキープしてミスはしないようにしていた。それから、どうしてかよく分からないが、いや、道で何があったのかは分かるけれど。あのステージはあの時点までは順調だった。そして、その後もね! コーナーの出口に、もっと道が使えるスペースがあったのでそれを活用しようと思っていたが、2回目の走行の時には大きな轍ができていて、その轍でスライドが止まってしまって転倒した。かなり驚いたよ。
Q:1000湖の舞台だったので、水を得るには便利な環境だった。同じようなことをしたドライバーはこれまでにもたくさんいた。トミ・マキネンは2000年代の序盤にスペインで、プールの水を使っていた。ミッコ・ヒルボネンも同じことをしていた。最終日はもう走行を続けられないと思った時はあったか
EP:ストップラインでフロントガラスにパワーステアリングオイルがついていて、ダッシュボードには水圧の警告灯がついていたので、何かがマズイと気がついた。その時点では、直せるかどうか、何のダメージなのか分からなかった。そこから、水圧警告が出ていたので、水漏れを見つけられるかどうかが問題になった。場所を見つけてからは、たぶん大丈夫、フィニッシュまで生き残れると思った。
Q:マシンはかなり風通しがよくなった。フロントガラスがなく、ルーフもパーツがなくなった。その状態でパワーステージを走るのはどんな感じだったか
EP:ちょっとクレイジーだね。土曜日はフロントガラスなしで走れる状態ではなかった。コンディションはすごくラフだったし、この石がフロントガラスの方に飛んできて顔に当たったらと思うとね。そんな話をここではしたくなかったし。フロントガラスなしで走るのはかなりリスクが大きかったが、最後のあのステージは通常、とてもコンディションがいいので、リスクをとろうと思った。実はステージの前まではルーフはあったのだけど、最初の加速で外れてしまった。5速に入れたらひどいノイズがして、アンテナも無線も一緒にルーフごとなくなった。その後は、車内に気流ができて、そのノイズがあまりにひどかったから、ヤンネ(フェルム、コ・ドライバー)は叫ばなくてはならなかったよ。
Q:ジュリアン、オィットはチームが信念を持って前進してくれることを望んでいると言っていた。この数カ月間、困難な状況が続いていたことは周知のとおりだが、この結果を受けて、状況は確実に好転している。チームの士気も上がるに違いない
JM:オィットも言ったように、彼が可能性を示してくれた。苦しい状況になっていることも、思うような状態になっていないこともは承知している。パズルのピースをすべて組み合わせなければならないが、まだほど遠い状態だ。でも、可能性はあるし、このフィンランドでの勝利で本当に得るべきものはこのことだと思う。おっしゃる通り、フィンランドで勝ったことがなかったので、もちろん特別な勝利だ。2014年からシリーズに参戦しているが、ここではこれまでコンペティティブには戦えなかった。ヒョンデというブランドにとってもとてもいいことだが、やることは山積みだ。マシンにはまだ開発が必要。でもポジティブな面は、少しずつ信頼性の問題が減っていること。シーズンの初めにどれだけ信頼性でチャンスを失ったか、よく分かっている。だから、ここからはもっとパフォーマンスに専念することができるし、それがこの先数カ月のターゲットだ。
Q:曲がり角を越えた感触はあるか。これから上昇気流に乗っていく姿を見られるだろうか
JM:曲がり角は越えたと思いたいが、慎重にもならなくてはいけない。サルディニアで同じようなリザルトを収めたが、その後のラリーはあまりポジティブは続かなかった。あまり楽観的にならないよう、とても慎重になるべきだ。今日はこのリザルトを味わうべきだが、どのラリーでもこのリザルトを収めることが自分たちのターゲットだということを忘れてはいけない。
Q:今は勝利を喜び、この後で祝福もできる。でも、この週末、オィットがあれだけ限界で攻めているのを見るのは、辛かったのでは
JM:自分たちとしては、非常にいいラリーだった。どのステージもみんなが戦っていたし、コンマ秒差の争いが最後まで続いた。最終日の午前になっても、いつもならそれほどエキサイティングにはならないが、今回は非常に見ごたえがあった。もちろん、ちょっと緊張していたし、いつもよりナーバスになっていたので、フィニッシュできてよかったし、プレッシャーからも解放された。でも、後ろを走っているよりも優勝争いをしている姿を見ている方がいいので、ここからはもっと頻繁にそうしたいね。
記者席からの質問
トム・ハワード(オートスポーツ、英国)
Q:オィット、今回の勝利はベストかもしれないと言ったが、週末を迎える前に優勝は可能だと考えていたか
OT:それはない。エストニアで、あのラリーで初めて数分差をつけられて負けていたので、今回はコンペティティブに優勝争いができるとさえ思っていなかった。ここでコンペティティブになれるチャンスなんて、一切あると思えなかった。間違いなく自分たちにとってサプライズでもある。