勝田貴元をサイドシートで支えるコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン。北アイルランド・フィントーナ出身の彼は、地元で発行されているTyrone Herald (ティローン・ヘラルド)という新聞に「On Your Marks(位置について)」というタイトルの記事を掲載することになった。ここでは先方の了解を得て翻訳版を掲載しよう。
『Taking Chances』
(訳注:いちかばちかやってみる、挑戦してみる、当たって砕けろ、などという意味)
WRCに出場することを生業としている人間が言うのも変に聞こえるかもしれませんが、時にはゆっくりと時間をかけて、ペースダウンするのもいいことです。
これは将来のキャリアや、人生の方向性を選択する際に有効な助言といえます。しかし、それと同じくらい重要なアドバイスがあります。それは、“他の人がやっているから”、または“誰かに期待されているから”という理由で流れに身を任せるのではなく、自らチャンスを掴みにいくのを恐れてはならない、ということです。
例えば、僕を見てください。28歳の僕は10年前、Aレベル[高校卒業資格兼大学入学資格]を取得した後、ギャップ・イヤー[高校卒業後、大学入学資格を保持したまま1年間遊学することができる制度]を取ることにしました。そのまま大学に進学するという選択肢も存在しましたが、その道に進むとしても、何を勉強したいのか、まったく分からなかったからです。それでも、ひとつだけ確信していることがありました。それは自分のラリーへの情熱と、それを自分のキャリアにできるかどうか試してみたい、という根強い思いです。
僕が初めてラリーに携わったのは、12歳の時にDungannon Motor Clubのナビゲーション・コースを受講したのがきっかけでした。そして僕は父イアンと一緒にナビゲーションラリーの競技に出場するようになりました。16歳になった頃、僕はステージラリーのコ・ドライバーになりたいと思いました。しかし、公道も自分で運転できないような、経験不足の若者と組んでくれるコンペティターはそうはいません。しかし、僕は根気よく働きかけ、せがみ続け、やがて機会を得ることに成功しました。その後、さらに次の機会を得て、最終的には世界のトップレベルにまで上り詰めることができました。
途中で「こんなことをやっていてもうまくいかないだろうから、他の人と同じように大学に行って勉強しよう」と考えることもできたでしょう。でも、そう考えることはできなかったのです。自分が30歳、40歳、50歳になった時に、そのようなチャレンジはできなくなるだろうと理解していました。その時に挑戦しなければならなかったのです。
そのため、僕はラリーに挑戦することにしました。18歳でAレベルを取得し、1年間休学して、どのような状況になるかを見てみて、ギャップ・イヤーの後に大学に戻る計画でした。でもあれから10年後、僕にとってはまだギャップ・イヤーが続いています!
僕は見習い期間中、すべての段階を踏んで、近道せずにやってきました。僕にとってはありがたいことに、すべてがうまくいきました。僕にとってそうなのだから、他の人にとってもそうでない理由がありません。現在の若い人たちにとって、高等教育ももちろん重要な選択肢ですが、それが必ずしも全員に適しているわけではありませんし、それだけが将来を考える唯一の方法でもないという点を忘れずにいることが大切です。
ぜひ、自分の情熱や夢にチャンスを与えてあげてください。そうしなければ必ず後悔しますし、今やらなければ、人生の後半ではもう遅すぎるかもしれないのです。
ギャップ・イヤーを取る前、僕は両親に「(人生は長いのだから)1年間ギャップ・イヤーを取得したとしても大して変わらないのではないか」と言ったのです。僕は18歳の時点で、それから50年、60年、あるいはもっと長く働くことを視野に入れていましたから、1年くらいの短い時間はまったく関係ありませんでした。たとえうまくいかなかったとしても「挑戦したんだ」と言えますし、チャレンジしたことに誇りを持つことができるのです。
もしあなたが、大学の職業に関する授業で、ペンキ塗りたての壁を見つめて乾くのを待っている方が役に立つのではないかと思ったとしても、心配は無用です。まだ10代のあなたは、決してすべての答えを持っているわけではありません。実際にはほとんど何も持っていないわけです。あなたは自分が答えを持っていると思うかもしれませんが、現実には持っていないのです。
だから大切なことは、時間をかけて選択肢を検討し、自分の好きなものや自分がやってみたいと心から思えるものを見つけることです。流れに身を任せて、自分が本当にやりたいことではなく、やるべきだと思うことをやって、楽しくないことを始めてしまったら、この先50年、60年はとても長くなってしまいます。
本当にやりたいわけでもなく、楽しめそうにもない学位取得を目指して、2年、あるいはそれ以上無駄にした挙句、中退して振り出しに戻ってしまうのでは意味がありません。
その代わりに、あなたはすでに約15年間も月曜日から金曜日の午前9時から午後3時までの時間を教室で過ごしてきたのですから、それから4年間、あるいはそれ以上の時間を再び教室で費やす前に、なにかの確信を持つために、まずは世界を少し体験してみるのもいいかもしれません。
もしかしたら、あなたが情熱を感じているのはスポーツではないかもしれません。それは音楽かもしれませんし、芝居かもしれませんし、自分のビジネスを始めることかもしれませんし、旅行かもしれません。やりたいことをやってみてください。できない理由はまったくありません。常に誰かがそばにいる必要もありません。世界のどこにいても、必要な人を探すのに困ることはありません。故郷は決して遠すぎることはないのです!
(Translation: Keiko Ito)