SUBARUとSTIは、東京オートサロンで発表されたSUBARU WRX S4をベースとする新型ラリーカー『SUBARU WRX RALLY CHALLENGE』の投入準備を進めている。3月下旬にはロールケージが組み込まれたS4ベースのホワイトボディが完成し、ここから車両製作を進めていくこととなる。
すでにお伝えしているとおり、これまでは新井敏弘と鎌田卓麻それぞれが個別のチームで戦ってきた体制から、今季は『SUBARU RALLY CHALLENGE』として、SUBARU/STIを含めた“ワンチーム”として生まれ変わった。今季夏頃の投入が見込まれる新型車(のボディ)を前に、情報共有などいっそう緊密な関係となっているドライバーの新井と鎌田、チームを率いるSUBARUの嶋村誠監督、チームをサポートするSTIの篠田淳プロジェクトゼネラルマネージャー(PGM)にそれぞれの想いを語ってもらった。
──あらためて今回のSUBARU RALLY CHALLENGEについて教えてください。
嶋村:選手とチームだけでなく、量産車を扱う技術部門の人間もなるべく巻き込んで、スキルアップを目指すということもテーマのひとつとしています。エンジンのセットアップもそうですし、様々なところで量産車のエンジニアも入り込んで、ドライバーに色々教えを請いながらお互いに良い関係を作ってステップアップしていく、という狙いがあります。『新井選手、鎌田選手、SUBARU/STIと量産エンジニア、そしてファンの皆さんとワンチームでやっていこうぜ』と。その点は頑張っていきたいですね。
──実戦投入はいつ頃が目処になりますか?
嶋村:今まで、ことあるごとに鯉のぼりが揚がる頃とか言っていたんですけど、梅雨が明けるくらいかなと思っています。
──新しいSUBARUのラリーカーはどんなクルマになりますか。
嶋村:新しいシャシーのSUBARUグローバルプラットフォーム(SGP)を使うWRX S4をベースに、新しいJP4規定に合わせたクルマとします。レギュレーションで許されている範囲で最低重量の1300kgを目指して軽量化を施すほか、サスペンションはもっとストローク量を取ることができたり、駆動系についても比較的自由度が高くなります。グループNではなかなかやり切れなかった部分にも手が届くようになるかなと。エンジンはこれまでお伝えしているとおり、2.4リッターのFA24を使います。まずは最低でもVABでも使っているEJ20と同等、その後はさらに上のパワーを目指して鋭意セッティングを進めています。サスペンションについては、あえて量産と同じ形状(※前:ストラット/後:ダブルウイッシュボーン)で進めます。SUBARUのモータースポーツはやはり量産ベースなので、S4のレイアウトは踏襲し、許される範囲でストロークアップやジオメトリの調整をしようとしています。
──量産を踏襲することで、得られたノウハウが将来のクルマづくりにも活用されていくと。
嶋村:WRCをやっていた頃から、世界中にいるSUBARUファンのよろこぶ顔や涙を流す顔を見てきました。そうした経験は自分のなかでも大きな財産になっています。それを次の世代に伝えるという私自身の使命も、このプロジェクトに含まれています。自分がやってきたことを次の世代に伝えて、仮に将来のクルマが電気自動車になっても、WRXの魂を持ち続けていてほしい。スーパー耐久も技術本部のエンジニアが次のクルマを目指して取り組んでいます。この流れはラリーでもやっていかなければいけないし、WRXというブランドを次の世代にバトンタッチするというのが私の役目だと思っています。
──今季からチーム体制が変化して、SUBARU/STIも加わる体制となりました。実践的な部分でなにか変化はありますか?
鎌田:新井選手と同じチームになったことで、自分の立ち位置やスピード、クルマの方向性が合っているのかという点を測りやすいと感じています。同時に、一番近いところに一番強力なライバルがいるということにもなります。お互いに負けたくないという気持ちで走っていますから、別々のチームの時よりも気持ちが強くなりましたね。もちろん情報交換したり相談もできるので、それは新しいチームになってモチベーションが上がったというか、毎回気合いが入るポイントになっています。
新井:鎌田選手とふたりでチームを組むことや、メーカーが入ってくれたという点は心強いですね。新しいクルマが動き出したら、一緒にテストを重ねていくことになると思います。SUBARU/STIの技術力の高さは良く分かっていますし、ラリーカーについても詳細な部分の開発が進むでしょう。将来的に量産車もとても良くなるかなと感じています。以前のように、年次改良で色々なところが変わったり、人が乗った時に正しい重量配分になるにはどうすればいいかなど、そこまで考えて作られたクルマが出てほしいですね。それに、ファンの方との広報的な間口も広くなって、もっと色々な方がラリーに興味を持ってくれるのではないかと期待しています。
篠田:ファンの皆さんからもたくさん応援のお声を寄せていただいて、期待の高さをひしひしと感じています。これまでは、新井選手も鎌田選手も、それぞれのチームでドライビングだけでなく事務手続きやメンバーのケアをするところまで、彼ら自身でやっていた部分ですが、それを競技に集中できるよう心がけてマネージメントしているところです。
新型車両の投入タイミングでは、サービス拠点も『THE SUBARU』といった形で見た目もガラッと変わります。もちろん見た目だけではなく、ミーティングや戦略を立てるところをひとつにまとめ、よりチームが一体感を持って戦えるようなアプローチを考えています。
──新しいクルマへの期待を聞かせてください。
新井:SGPの出来はかなり良く、ボディがとてもしっかりしているクルマです。市販車の状態でも、ステアリングを切った瞬間にクルマが曲がってくれる。VABも登場当初はそのように感じたんですが、新型WRX S4になったらもっと大きく進歩していた。それがラリーカーのベースになると、より手足のように扱いやすくなるのではないかなという期待はありますね。
去年、ラリージャパンでR5車両に乗りましたが、あのクルマに勝とうとすると、SUBARU AWDの良さをうまく使いながらトラクションをかけられるよう、重量配分も含めて詳細を煮詰めながらやっていくしかないかなと思います。いずれにしろ実戦の前になるべくテストをして、ネガティブな部分を全部出して完璧な状態で走りたいですね。
鎌田:今年のJN-1クラスは、JP4という規定のクルマです。これまで僕らがやってきた『量産のクルマを速く走らせる』ということではなく、メーカーとしてジオメトリを含め、エンジン、トランスミッションなど、ちゃんと『ラリーで戦って速いクルマを作る』ことができるようになりました。ベースとなるWRX S4はポテンシャルがあると感じているので、その美点をうまくラリーに活かしつつ、サスペンションや基本骨格+αの部分をどれだけレーシングカーに近づけられるかが開発の肝で、本当にイチからのチャレンジになるなと思っています。その分やり甲斐もありますね。
──最後にファンの皆さんにコメントをお願いします。
新井:3〜4年ほど前のことですが、ヨーロッパのラリーに行った時、SWRTや555の服を着た人を多く見かけました。やはりSUBARUファンは根強いなとあらためて感じましたし、日本でもSUBARUファンを増やしていきたいですね。新車登場の暁にはぜひ期待して会場に足を運んでいただきたいですし、鎌田選手とふたりで頑張っていきますので、ぜひ応援をお願いします。
鎌田:前半戦は去年のVAB型を今年の規定に合わせて戦っています。足りない部分は見えているので、WRX S4をベースとした新型車両でいち早く表彰台に上がれるように頑張りたいと思います。応援よろしくお願いします。
嶋村:今はまだボディだけですが、なるべく早くクルマを仕立ててテストを進め、皆様の前でいい走りを見せたいと思います。
篠田:新型車両に大きな期待を寄せていただいていることを感じます。鋭意開発をしてかっこいい姿を見せたいと思っているので、ぜひご期待ください。
次戦は愛媛県で行われる全日本ラリー選手権第4戦『久万高原ラリー』。SUBARU勢の戦いに注目したい。