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【Martin’s Eye】2020年WRCカレンダーがまだ発行されていない件を考える

©Martin Holmes Rallying

ベテランWRCメディア、マーティン・ホームズが、長年の経験に基づく独自の視点で切り込むMartin’s eye。今回は、6月中旬の発行が期待された2020年WRCカレンダーの発表が見送りとなった経緯について。ラリージャパン開催復活にも関わるこの一件については、日本のラリーファンも大いに関心があるところだが、公式な発表がないまま2カ月が過ぎようとしている。なお、次回のワールドモータースポーツカウンシルは、10月4日に開催予定だ。


FIAが、2020年のWRCカレンダーを、ワールドモータースポーツカウンシルが指定した6月末までに発行しなかったというニュースは、私にとってはそれほど大きな驚きではなかった。6月の最終日に発行されなかったカレンダーは、7月を2週間過ぎても発表されることはなく、すでに8月である。何かが予定どおりに進んでいないことは明らかだった。

表向きには、このモータースポーツの統括団体は、この大きな問題に深く入り込んでいるように見える。公式な説明が発表される気配もないことから、FIAとWRCプロモーター間でのパワーバランスの不均衡が激化している、という結論が浮き彫りになってきた。しかし、それ以外に問題はないのだろうか? 当初挙がっていた、ケニアからの財政支援の保証は、今でも有効なのだろうか。そして、WRCプロモーターが声を上げて称賛しており、2020年カレンダー案には不可欠の要素と見られていたサファリは、7月の第一週にキャンディデートイベントが開催されたが、メディア露出は乏しく、運営面での判断ミスも相次ぎ、混乱に終わっている。

このキャンディデートイベント後のFIAの反応には偏見はないようで、イベント運営面の問題は、根本的なことよりも詳細な点で懸念されている。WRCプロモーターは、このラリーが2002年以来となるWRCカレンダー復帰に向けて「大幅なステップアップ」を遂げたと表しているが、イベント自体に関するレポートは少なかった。

イベントに登録した海外メディアはひとりしかおらず、そのひとりもジンバブエのジャーナリストだったと伝えられている。オンラインのリザルト配信サービスは順調に機能していたが、ラリーのメディアセンターは通常のニュース素材を発行することができなかった。イベントの問題は季節外れの悪天候に始まり、これによりイベントは直前のルートを変更を余儀なくされた。管理面での作業もお粗末で、これはラリーが始まってからも運営面のトラブルとなって現れた。2本のステージが安全確認が行われないままスタートし、すでにステージにいるマシンには赤旗が掲示された。今季WRC初開催を迎えたチリでも同じ状況が発生したようにノーショナルタイムが発行され、この時もコンペティターにとっては競技面での公平性やバランスが乱される格好となった。ケニアの場合、最終日はさらに事態は悪化し、主催者はWRCプロモーターに勧められFIAの承認も受けてケドンのステージフィニッシュをラリーの公式フィニッシュに非常に近い場所に設定したものの、走ることさえ難しいというほどの状態だった。

「ケドン」の名は、ケニアのラリーファンにとっては思い出深いものとなっており、2002年にWRCがケニアで開催された時の名残を復活させたものだった。その時のサービスはケドンから北に50kmほど離れた地にあり、砂嵐が発生し、リチャード・バーンズのプジョーがサービスを目前にスタックし、リタイアに追い込まれたという名(迷?)シーンを生み出している。

今年も非常にソフトでサンディなコンディションだったことで1回目の走行は困難を極め、2回目の走行は地元コンペティターからのアドバイスを振り切ってスケジュールどおりに行われたが、外部からの手助けを受けることなくコースを走り切れたコンペティターは片手の数ほどしかいなかった。最終ステージのコンディションは深刻で、現アフリカチャンピオンのマンビール・バリヤンが駆るシュコダは、ラジエターが塞がれたことでオーバーヒートとなり3位に後退。アフリカ在住のイアン・ダンカンでさえスタックを喫した。

Martin Holmes Rallying


Martin Holmes Rallying

WRCカレンダーが最終的に明らかになるまでには、解決するべき問題がふたつある。まず、 オフロード選手権が理想的と思われるようなイベントがWRCに必要なのだろうか? という点だ。最後にWRCサファリが開催されてから18年の間に、ラリーは変わった。現在ではコストコントロールという要素が求められ、多くのイベント間で同じマシンを使うようになっている。ターマックとグラベル、それぞれのステージに向いているマシンをゼロから作り、イベントごとの環境に対応するための変更はほんのわずかだ。すでに参加チームが負担するコストの問題があるため、サファリラリーのルートは、“WRCファンを魅了する風光明媚なエリア”からは遠く離れた、寂しい地域を通過することを余儀なくされている。

世界で最も危険な国のひとつにおいては安全面での懸念も残る。英国の外務省は、ナイロビを旅行または通過する旅行者を含めケニア一帯に「テロリストによる誘拐も含めたテロの危険性が高まっている」と通達を行っている。この通達により、この国に滞在している間、観光客やビジネスマンは移動が制限され、保護を受けることになる。ラリーオフィシャルの行動範囲は特定されるが、ラリーファンやメディアは独自に行動することになり、彼らが無防備になるようなエリアを夜間に移動するようなケースも多くなる。

Martin Holmes Rallying

残るひとつの問題は、すでに14戦が埋まっているカレンダーにケニアと日本の2戦を入れるとなると、どの既存イベントを落とすべきか、という点だ。2004〜2007年にかけては年間16戦というスケジュールが組まれていたが、現在のチーム体制では、1年に14戦以上を回すのは現実的に不可能。ヨーロッパイベントのなかには必然的な理由で脱落したものも多いが、現在のカレンダーにはすぐにでも外れるような理由を抱えるイベントはない。

以前にも示唆したことがあるが、背景には財政的な要素もある。WRCプロモーターと契約した国だけが、WRCに残る。スポーティング面での遺産や、適しているイベント、スタイルのバランスといった要素は考慮されない。我々がWRCについて語るたびに、すぐに「カネ」の話になる。我々は、我々が愛するこのスポーツを楽しむために、そんな状況を受け入れなくてはならないものなのだろうか。
(Martin Holmes)



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