2月7日と8日の2日間にわたり、フィンランドのトミ・マキネン・レーシング(TMR)にほど近い林道で2021年に投入が目論まれている新型ヤリスWRCのテストが行われた。ステアリングを握ったのはユホ・ハンニネン。
すでにチームからは走行の様子が動画で公開されているが、ディテールを見ていくと、現行車の良い部分をさらにブラッシュアップし、GRヤリスとの相互フィードバックが機能している部分も見受けられる。もちろん現状はあくまでもテスト用のプロトタイプであり、暫定仕様の部分も多いはず。来シーズンの実戦に登場するまでには多くの変化が加わっていくものと思われるが、現段階で見る限りでの変化を追っていこう。現行のヤリスWRCと見比べてもらえると、その違いが分かりやすい。
今年の東京オートサロンで世界公開されたGRヤリスは、BORN FROM WRCというキャッチコピーがつけられているとおり、チーム側からの“WRCで勝つため”のリクエストが盛り込まれたクルマだ。その結果、GRヤリスは2月10日から販売がスタートした新型5ドアヤリスとはまったく別のクルマとなった。
なかでも顕著な違いは、WRカーにするにあたり最も重要なボディ形状。チームからの「現状のボディ形状ではリヤウイングに十分な風が当たっていない」という指摘を汲み、GRヤリスでは後席の居住性を二の次にしてまでルーフ後端を低くした。その効果もあり、WRカーのルーフはすんなりとリヤウイングの下段部分につながり、メイン部分の空力効果を十分に発揮できるような形となっている。リヤウイング形状そのものは従来型と似ているものの、バーチカルフィンの形状やウイングレットの幅など細部にわたって改良の後が見られる。
効率を向上させたリヤウイングとのバランスをとるためか、フロントバンパーまわりにも様々な工夫がみてとれる。上段のカナードは現行型よりも幅広になっているように見える(最大全幅は1875mmで打ち止めのため、“ボディ側”を有効活用しているのではないだろうか)。下段カナードはそのままフェンダーに接続され、後端に向かってはね上げられる。これはヒュンダイi20クーペWRCにも見られる処理だ。フロントフェンダー外側にはリップが立てられ、空気の流れを積極的にコントロールしている。
従来フロントフェンダー後端の上面にはウイングレットがつけられ、下面の負圧を利用してエンジンルーム内部のエアを排出する役割を担っていたが、今回のテスト車両では正方形のエア抜き穴が認められ、同じ役割をもつのではないかと予想される。後端側はホイールハウス内のエアを抜き、ダウンフォースに貢献する。
その他フロントまわりでは、吸気導入口を鼻先のトヨタエンブレム周辺に設けておらず、グリル部分から吸気されているものと思われる。また、ボンネット上の熱気排出口はi20クーペWRCやフォード・フィエスタWRC同様に左右ギリギリまで寄せられ(従来はセンター寄り)、エンジンルームの熱気をボディサイドに流そうという意図が見える。リヤウイングに乱れの少ない空気を大量に当てるための狙いがあるのではないだろうか。ただしルーフエアベンチレーターはまだ装着されていない。
この熱気排出口はサスペンションストラットのアッパーマウントをカバーする形になっており、できる限り車室側に寄せられていることも見てとれる。従来型ではラジエター/インタークーラーから開口部までダクトを装着して、エンジンルーム内に熱気が入らないようにされていたが、このプロトタイプではダクトは使われなさそうだ。また、ラジエター/インタークーラーの配置はこれまで同様、前傾して配置されている。
左右ドアにはミラーも装着されておらず、インパクト吸収用の発泡フォームを入れなければならないため(すでに入っているのかもしれないが)、今後形状は変化する可能性もある。サイドシルからリヤフェンダーにかけてはなだらかなデザインとなっており、現行型のようにエッジの立ったスタイリングではない。ドリンクやハンバーガーを置くテーブルは前後のフェンダーになりそうだ。リヤフェンダーは後端部分でより高くはね上げられる形状になっているほか、フィエスタWRCのように絞られるかたちとなっている。
リヤディフューザー自体の形状は従来型と変わらないようにも見えるが、リヤバンパー下部は四角く切り取られており、ディフューザー上面パネルとの間に隙間が空いている。今後この形状に合わせたディフューザーのデザインにあらためられる可能性も高そうだ。排気管はつぶれた楕円形のような形となり、内側2枚のバーチカルフィンよりも幅が広くなっている。