ハイブリッドのラリー1マシン初の実戦となった、2022年WRC開幕戦ラリーモンテカルロで、鮮烈な勝利を飾ったセバスチャン・ローブ。長年の相棒、ダニエル・エレナが前年に現役を引退していたことから、このラリーではコ・ドライバーに、長年の友人でもあるイザベル・ガルミッシュを迎えていた。そのガルミッシュの本職は、実は数学の先生。モンテカルロのフィニッシュ2日後には、再び生徒たちの前で授業を行っていたというガルミッシュについて、WRC.comが紹介している。
円柱の面積を計算するための数式と、セバスチャン・ローブのラリーモンテカルロのペースノートに書かれている様々な記号の羅列、この違いをあなたはお分かりになるだろうか。一般の人には、どちらも同じように見えるかもしれないこのふたつを、イザベル・ガルミッシュは見事に使い分けている。
普段は数学の教師を務めるガルミッシュだが、先週はラリーモンテカルロでWRC9連覇王者ドライバーのパートナーとして一週間を過ごし、勝利を手にした。
女性の選手がWRCのポディウムで頂点に上がるのは、1997年に同じラリーでのファブリツィア・ポンス以来。その2日後、ガルミッシュは再び、生徒たちの前に立っていた。子どもたちは、先生のもうひとつの姿について少々驚いていたようだ。
「自分は学校では控えめにしていて、イベントの前も生徒たちにはあまり話していなかったので、学校で会ったらかなり驚くでしょうね」とモナコで迎えたセレモニアルフィニッシュでガルミッシュは語っていた。
しかし、どのようにして数学の一教師がWRC伝統の一戦で優勝し、一夜にして衝撃を巻き起こすことになったのだろうか。
「ダニエル(エレナ)がラリーから引退すると決めた時、セブが電話をかけてきて、一緒にモンテカルロに出ないかとたずねてきた。当然、すぐにイエスと言ったわ」とガルミッシュ。
「彼がシトロエンやヒュンダイにいた時も、テストでダニエルが参加できない時に自分が乗っていたことがたくさんあったけど、実際にラリーに参戦するのは今回が初めてだった。だから、本当にこのリザルトは信じられない。夢が実現したような感じ。セブと一緒にこんなに素晴らしいマシンでラリーモンテカルロに参戦したというだけで、すでに夢のような話だったのに、それを勝ってしまったのだから、これ以上望むべくもない。本当にクレイジーな話!」
ハイブリッド時代の最初のラリーで、ローブが宿敵セバスチャン・オジエと激戦を展開したことは、ラリーモンテカルロにとっても歴史に残る名場面となった。奇遇にも、25年前にポンスがピエロ・リアッティとともにスバル・インプレッサWRCで優勝を収めた時のモンテカルロは、ラリー1マシンの前身であるワールドラリーカー時代の最初のイベントだった。
初めてMスポーツ・フォードから参戦したフォード・プーマ・ハイブリッド・ラリー1のローブと、トヨタGRヤリス・ラリー1を駆る前年のWRCドライバーズチャンピオン、オジエが激戦を繰り広げた今回のラリーモンテカルロは、終盤でオジエがパンクしたことにより、ローブが最終的に勝利を飾った。
そのローブは、今回のガルミッシュの働きをどのように評価しているのだろうか。
「このマシンは、コ・ドライバーにとっても本当に難しく、彼女はコールしなくてはならないことがたくさんあった。でも、完璧なリズムで、どのようにすればいいか彼女はしっかり理解していたよ」ろローブは称賛している。
「チェックしなくてはならないことが、たくさんあるんだ。彼女はフランス選手権での経験は豊富だが、WRCでは車内で行うことが格段に増える。彼女はそれを見事にやってのけたよ」
ちなみに、円柱の面積を求める公式は「SA=2πrh+2πr2」だ。