2023年シーズン全日本ラリー選手権第3戦「ツール・ド・九州2023 in 唐津」が、4月14日(金)~16日(日)にかけて佐賀県・唐津市を拠点に開催され、トップカテゴリーのJN-1クラスは、シュコダ・ファビアR5をドライブしたヘイキ・コバライネン/北川紗衣が勝利を飾った。2位にはトヨタGRヤリス・ラリー2の勝田範彦/木村裕介、3位にプジョー208ラリー4で走る新井大輝/金岡基成が入っている。
ターマック初戦の新城ラリーから約1カ月のインターバルを経て、全日本ラリー選手権の舞台は唯一の九州ラウンドとなる唐津へ。今回、前戦新城はオープンクラスでの参戦となった勝田範彦/木村裕介が、トヨタGRヤリス・ラリー2のJP4規定クリアを受けて、無事JN-1クラスへのエントリーを実現。チームは初戦で得たデータやフィードバックを活かすべく、唐津に向けたテストも実施している。
また、新井敏弘/保井隆宏と鎌田卓麻/松本優一を擁する「SUBARU RALLY CHALLENGE」は、スバルWRX STIに、シーケンシャル式トランスミッションを投入。 新井敏弘は「まだ使い慣れていないので、どこでギヤを変えればいいのか試行錯誤があります。ただ、シフトあたり0.2秒くらいはスピードアップするはず」と、その効果を語っている。
ラリーは唐津市と伊万里市に広がる山間部のターマックステージを走行。ステージには攻撃性の高い荒れたアスファルト路面が多いうえ、この時期は天候も変わりやすく、タイヤマネージメントが重要な鍵となる。今回のラリーには新城に続き、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのヤリ-マティ・ラトバラ代表が来日。デモンストレーション走行をはじめ、サイン会やトークショーにも参加した。
■レグ1
3月15日朝にサービスパークが置かれた「ボートレースからつ」でのセレモニアルスタートを実施。続いて行われるラリー初日は、10km以上を走行する「SANPOU(11.85km)」に「UCHIURA(4.74km)」と「HACHIMAN(5.67km)」の3SSを、サービスを挟んでループする44.52km。
前日までの予報どおり、朝から雨が落ちており、ステージはフルウエットコンディションとなった。SS1は、この日の最長距離の11.85kmを走行する「SANPOU 1」。ベストタイムを刻んだのは前戦のウイナー、コバライネンだった。ステージ終盤で金属片を拾ってパンクを喫しながらも、このステージだけで2番手の鎌田を13.1秒差も引き離してみせた。「タイヤにカットを入れすぎた」と振り返った新井敏弘が13.6秒差の3番手。14.2秒差で勝田、17.4秒差で2輪駆動のプジョー208ラリー4をドライブする新井大輝が続く。
SS2もコバライネンが制し、ここでは最初のステージで7番手に沈んだ福永が3.3秒差のセカンドベストをマーク。SS3は、スローパンクチュアに見舞われながらもコバライネンが3連続ベストタイム。午前中のセクションを終えて、コバライネンは2番手の勝田に25.2秒ものアドバンテージを手にしている。
2番手につけた勝田は「前戦のクラッシュもありましたし、恐る恐る走っている状態です」と、2番手という順位にも納得がいっていない様子。その後方、26.0秒差の3番手に福永、SS2でコースオフを喫して数秒を失った鎌田は26.6秒差の4番手で午前中のセクションを終えた。「2輪駆動でウエットは厳しい」と振り返った新井大輝は5番手。SS3でハーフスピンを喫した新井敏弘は6番手に沈んでいる。
ボートレースからつでのサービスを挟んだ午後のセクション。コースの一部で濃い霧が発生するなか、視界不良をものともせずコバライネンが圧巻の3連続ベストをたたき出す。コバライネンは、この日行われたすべてのステージを制し、初日だけで2番手以下との差を1分近くにまで拡大した。
「難しいコンディションだったけれど、無理をせず、とてもいい走りができた。タイヤは午前中の4本カットから、2本カットに変更して走った。路面があまり濡れていない場所ではさらにプッシュできたよ。マシンのセットアップもバッチリで、良いリードを得られた。明日も同じようなペースで走るつもりだ。あまり落としすぎると、逆に危険だからね」と、コバライネンは余裕の表情で語った。
雨が上がった午後のセクション、乾きつつある路面でスピードアップを披露したのが新井大輝。SS4とSS6で2番手タイムを刻み、“格上”の4輪駆動勢を従え、首位から56.1秒差の2番手で初日を折り返した。「セットアップを変えたことがばっちり決まりました。上手くいきすぎたくらいです。ただ、霧でまったく視界がなかった箇所もあったので、それがなければ、もう少し行けたはずです」と、笑顔を見せている。
56.7秒差の3番手は、午後のセクションでペースを上げた福永。1分11秒3差の4番手には鎌田、1分13秒8差の5番手に、1分22秒8差の6番手に新井敏弘が続き、ベテラン勢が厳しい戦いを強いられることになった。
JN-2クラスは、今回から待望の新車を投入した奴田原文雄/東駿吾(トヨタGRヤリス)が、SS1から好タイムを連発。SS3ではJN-1クラスのコバライネンに続く総合2番手タイムを刻み、ライバルを圧倒した。奴田原は、この日行われた6本中5本のSSでベストタイムをマークし、2番手につける山田啓介/山本祐也(トヨタGRヤリス)に、56.7秒差をつけて、初日をトップで折り返した。3番手の徳尾慶太郎/枝光展義(トヨタGRヤリス)と、4番手の横尾芳則/井手上達也の差は、15.3秒差とまだまだ分からない状況だ。
JN-1勢に割って入るタイムを記録した奴田原は「午後は霧もあり、危なくてペースを落としました。ある程度差をつけてしまうと、張り合う必要もないし、怖い状況では気持ち的に落ちてしまいますね。クルマはシャキっとしていて、新車はやっぱりいいですね。去年までやってきたことを盛り込んだことで、午前中の走りができたんだと思います」と、納得の表情。2番手の山田は、4WDマシンでウエットコンディションでの走行経験がない中、徳尾と横尾のベテランふたりを抑えて見せた。「新城からクルマのセッティングを変えたことで、トラクションが掛かるようになって、かなり乗りやすくなりました。それが厳しい路面でも効いた気がします。昨年、86で感じていたような、クルマとの一体感も得られるようになってきました」と、ドライビング面での成果を語る。
JN-3クラスは、前戦新城のウイナー、山本悠太/立久井和子(トヨタGR86)がスタートから好走。最初のセクションを終えて、SS3でベストタイムをマークした長﨑雅志/大矢啓太(トヨタGR86)が9.2秒の2番手で続く。しかし、サービスを挟んだ午後のセクション、SS4で長﨑がスタート直後の左コーナーでコースオフを喫してリタイア。首位の山本は、その後も着実なペースで首位を走行し、2番手の鈴木尚/島津雅彦(スバルBRZ)に31.5秒差をつけて初日をトップで折り返した。鈴木から9.0秒差の3番手には、山口清司/丸山晃助(トヨタGR86)がつけている。
最大のライバル長﨑が脱落したことで余裕の首位走行となった山本は「路面が思ったよりも滑って、完走するのも難しいコンディションでした。それでも20秒差のトップで折り返すことができたのは良かったですね。明日は路面が乾いてくると、滑る箇所とグリップする箇所がでてくるので、その辺りが心配です。無理はしないつもりですが、ペースを調整しても逆に危ないので、深く考えずに自分のペースで走ります」と、慎重なコメントを残した。
JN-4クラスは、は昨年王者の西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ)が、この日行われたすべてのステージでベストタイムをマーク。2番手以下に44.1秒の大差をつけて、首位を独走している。熾烈を極めたのは、ともにスズキ・スイフトスポーツで参戦する鮫島大湖/船木佐知子と、黒原康仁/松葉謙介による2番手争い。西川からは大きく引き離されてしまったものの、6SSを走行してふたりの差はわずか0.4秒。その後方、黒川の14.4秒差には前田宣重/勝瀬知冬(スズキ・スイフトスポーツ)がつけている。
新城は内藤学武の前に完敗で終わった西川、「今日はタイヤ、ブレーキ、足まわりが完璧なマッチングを見せてくれました。前回、内藤選手を相手に何もできなかった反省点があるので、今回のラリーはしっかりと自分のスキルアップにつなげたいです。最近は、どうすれば内藤選手に勝てるか、そればかりを考えています」と、コメント。西川の独走を許してしまった鮫島は「西川選手が速いですね。自分はペースが上がりきっていないです。クルマがまだ調整しきれていない感じです……」と、首をひねる。
JN-5クラスは、SS1でタイヤと路面が完璧にマッチした松倉拓郎/山田真記子(トヨタ・ヤリス)が、2番手以下を15秒近くも引き離すベストタイムをたたき出す。しかし、午後のセクションでペースを上げた大倉聡/豊田耕司(トヨタ・GRヤリスRS)が、SS4で松倉をパス。松倉に10.5秒差をつけて初日首位に立った。松倉から4.8秒差の3番手は、霧が深くなったSS5とSS6で連続ベストを刻んだ吉原將大/小藤桂一(トヨタ・ヤリスCVT)。その4.9秒差後方には、ベテランの小川剛/梶山剛(トヨタ・ヤリス)が続いている。
首位の大倉は「フルウエットになったSANPOU 2では、ウエット寄りのセッティングがハマりました。僕らにとっては恵みの雨でしたね。ここでプッシュしないと追いつけないと思って、攻めたのが良かったです。残りの2本は霧がすごかったですし、あまりリスクを負えないので、タイヤを使わないように走りました」とコメント。午前中のセクションで首位を走行しながら、大倉の逆転を許した松倉は「2回目のSANPOUの方が気持ちよく走れたのですが、取りこぼしている箇所がいくつかありました。その差が結果となった感じです。路面がフルウエットだったので、大倉選手のタイヤの方が合っていました」と、悔しさをのぞかせた。3度のベストを刻みながら、3番手となった吉原は「霧もありましたが、SS4でインカムトラブルがあったのが痛かったです。それでも、気持ちを切らさなかったことで、その後の2SSを制することができました」と、振り返っている。
JN-6クラスは、開幕2連勝中の天野智之/井上裕紀子(トヨタ・アクア)が、路面にタイヤがマッチしなかったSS4以外の全SSでベストを記録。午後のセクションで2度のスピンに見舞われた海老原孝敬/遠藤彰(ホンダ・フィット・ハイブリッドRS)は、29.6秒差の2番手。自分のペースを守って走行を続けたモータージャーナリストの清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス・ハイブリッド)が、3番手につけている。
タイヤがグリップしなかったSS4以外は、安定したペースを披露した天野、「2回目のSANPOUは雨が上がると考えていたのですが、逆のコンディションになりましたね。完全に裏目に出ました。僕はJN-6クラスだけでなく、上のクラスのタイムも見ています。海老原選手もかなり速いので、この2台が割って入っていけば、ハイブリッドも注目してもらえるはずです」と、首位だけでは飽き足らない様子。2番手の海老原は「天野選手と離れてしまいましたね。午後のSANPOUは上手くまとめられたのに、その後の2本でスピンしてしまいました」と、反省の弁。3番手につける清水は「最後にパンクがありましたが、だいたい天野選手からキロ2秒、海老原選手からキロ1秒差ですから、悪くないタイムです。ペースノートに対する信用が甘いので、霧が出てしまうと厳しいですね」と、こちらは納得の表情だ。
ツール・ド・九州2023 in 唐津 レグ1結果
1 ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(シュコダ・ファビアR5) 35:27.0
2 新井大輝/金岡基成(プジョー208ラリー4) +56.1
3 福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビア・ラリー2 Evo) +56.7
4 鎌田卓麻/松本優一(スバルWRX STI) +1:11.3
5 勝田範彦/木村裕介(トヨタGRヤリス・ラリー2) +1:13.8
6 奴田原文雄/東駿吾(トヨタGRヤリス) +1:19.7
7 新井敏弘/保井隆宏(スバルWRX STI) +1:22.8
8 眞貝知志/安藤裕一(トヨタGRヤリスDAT) +1:38.5
13 西川真太郎/本橋貴司(スズキ・スイフトスポーツ) +3:23.2
15 山本悠太/立久井和子(トヨタGR86) +3:32.7
25 大倉聡/豊田耕司(トヨタGRヤリスRS) +4:28.5
31 天野智之/井上裕紀子(トヨタ・アクア) +5:12.1